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■ 饒舌な傭兵が子持ちの人妻(予定)と密kもとい殺し合う予定のスレ
- 11 名前:両儀式 ◆w7RsINNERs :2018/04/17(火) 03:32:51
- >>6-8
街頭のテレビ、週刊誌、人々の噂。その全てが猟奇連続殺人事件で賑わっていた。
しかしそれは、私にはなんら関係のない話だ。
何しろ、やり口がえげつない。シリアルキラー、あるいはサイコパスを連想させる死体
遊びはあまりにも苛烈で、人を人とも思わない所業だ。それは殺戮者であって殺人鬼では
ない。既にヒトを辞めてしまった―――ケダモノの仕業。
断片的に甦った記憶は衝動と共に私を苛んでいるが、この連続殺人事件と共鳴すること
は無い。標的も現場もやり口も―――二年前のあの時とは何もかも違っている。両儀式は
狂気ではなく、正気のまま殺人衝動を抱えていて、こんなナニカが壊れてしまった殺し方
には共感も嫉妬もしなかった。
だから、コレは警察とか公安とか、社会的な抑止力の仕事で。
そのはずだったのだけど。
―――考えてみれば、危惧すべきだったのだ。
アイツが、こんな事件を前にして、何もせずにはいられないはずがないと。
あるいは―――こんな事件にこそ、アイツは巻き込まれてしまうのだと。
鈍った意識と感覚でも、気付くべきだった。
…
「黒桐幹也が誘拐された。恐らく、件の猟奇殺人の主犯によるものだ」
渋い顔をした橙子が、私に封筒を差し出して、そう言った。
はらわたが煮えくり返るかと思った。
「……落ち着け。とりあえず―――コイツはオマエを名指ししているようだぞ、式。何処
で知ったか知らないが、お前の『眼』の事までご存知らしい」
発火寸前で真っ白に焼けている頭を宥めながら、封筒の中身―――手紙と、写真に目を
通す。私が冷静さを保てているのは、奇跡と言う他に言い様が無い。
中身は短い文章と―――真紅に染まった、廃ビルと思しき一室。
丁重に飾り立てられた、鮮血のディナータイムを切り取った一瞬。
その非常識と狂気に彩られた世界の中で、無垢な赤子のように眠っている、幹也の姿。
「嗚呼 運命の人 あなたの想い人はどこにいる?
答えは満月の夜に 観布子ハイアットホテル最上階 ディナーの席は取ってある
ウィルソンより愛を込めて」
メッセージは、招待状のようで、挑戦状のようでもあった。
相手が何を求めているかは明確で、何を賭けに置いているかも明瞭だった。
幹也を人質に―――そして、
「コイツは、何でオレを招待しようとしてるんだ」
間違いなく、私と殺し合いになる事を分かった上で、誘っている。
「……幹也がある程度、調べを付けている。ウェイド・ウィルソン。渾名はデッドプール。
アメリカで行われた生体実験の犠牲者で、今は不死身のバケモノとなって世界各地に出没、
不定期に暴れているらしい」
「―――なんだ、それ。B級映画かよ」
冗談のような話だったが、橙子の顔は冗談を言うような顔では無かった。
非常識の塊みたいな魔術師が、こうまで言うのだ。なるほど、相手も非常識極まりない
のだろう。
―――既に、戻れなくなっている。
自分も、相手も。
どちらの意味でも、相手は一線を越えている。
浅上藤乃とも、巫条霧絵とも、荒耶宗蓮とも、玄霧皐月とも違う、異常者。
止まる理由は無かった。誰にも止められるはずがない。私は止まらない。
「さあな。ただ、何をしても死なないくらい不死身なのは事実だぞ。……皮肉なことに、
本人は死にたがっている、というのも付け加えておこうか。厄介な相手だ」
「知るか、そんな事。オレは行く、それだけだ」
死にたがりに付き合う義理は無い。
けれど、今回は、只では済まされない。
「式」
「ああ、殺すよ。……後の面倒な事は全部任せた」
―――いいだろう。顔も知らない不死身の殺戮者。
生きているのなら、お前だって殺してみせる。
- 12 名前:両儀式 ◆w7RsINNERs :2018/04/17(火) 03:35:27
- >>11
―――風が、唸っている。
死んだように静かな夜は、造り損ないのビルでも変わらない。周囲が灯火を点けて彩り
を成す中で、ここだけが影絵のような真っ黒の姿に染まっている。
まるで書割のようだ。ナイフでちょっと引っ掻いてしまえばあっさり崩れ落ちてしまう、
虚言のような脆い世界。実感のない生の中でも、ひときわ空虚な異常の空間があった。
ナイフを抜いて、立入禁止のテープを切り裂く。構えたまま、ビルの中へ。
足音一つ立てない。この状況、何処から何が来るか分からない。
藍色の着物、赤いジャンパー、編上げのブーツ―――私はいつものような姿で、しかし
いつもとは違う意識と感覚で、暗闇の中を進んでいく。
途中で通りがかった鏡には、蒼い瞳が映っていた。
ぼんやりと浮かんでいる光の先には、鉄の箱と鉄の扉があった。幸いなことに、電源は
入っているらしい。エレベーターを使わなければ、長い階段を駆け上がる必要があった。
体力は極力温存すべきだ。
最上階行きのスイッチを押すとごぉん―――と唸りを上げて箱が動く。薄暗い、小さな
密室の中で、殺意で研ぎ澄まされた意識だけが体内で渦巻いて、より鋭くなっていく。
それはアクセルのようで、その実ブレーキでもあった。私は、息を整えて絶えず意識を
研ぎ澄ませておかないと、今は辺り構わず斬りつけかねないくらい苛立っている。それを、
殺意と衝動をただ一点に集中させることで押さえつけていた。
どれもこれも―――アイツのせいで。
「この貸しは大きいからな、幹也」
けれど、それでも―――奪い返さないといけなかった。
それは―――両儀式が夢見たモノなのだから。
…
扉が開いた。
かつん、と存在を確かにするように、足音を立てる。
それは、この先に居るはずの相手に対する威嚇でもあり。私の我慢ならない意志が端的
に現れた苛立ちでもあった。
開いた世界は書き割りを砕いて、その向こう側をみるようだった。高高度の吹き付ける
風はますます強い。この時期の風は骨に沁みるほど冷たいが、元より、寒暖の差など私に
とっては無に等しい。
作りかけの壁面、突き出した鉄骨、天蓋のない天井―――その先の雲ひとつない夜に、
凍えるような月だけがあった。書割と世界の境目に居るような気分になった。
「―――」
ナイフを構えたまま、息を吸って、告げる。
「いるんだろ、死にたがり。約束通り来たぞ」
そして、一際強く意識する。焦点を切り替える。
―――世界中に、死が満ちた。
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