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■ 名護啓介 VS 有角幻也 闘争会議室

12 名前:有角幻也 ◆rX9kn4Mz02 :2008/05/29(木) 22:57:57
>>
 
[導入2]
 
 
>>
 
 
昼下がりの穏やかな一時。
太陽を優しく受け止めるイチョウの淡い緑が、並木道を染め上げる。
そよ風に乗り、木々のかすかなざわめきに混ざるのは人々の声であろう。
あるテーブルでは長年連れ添った老夫婦が語らい、また隣のテーブルを囲んでいるのは親子連れか。
気心の知れた友人同士が軽食を、付き合い始めたばかりの恋人達が談笑している。
  
場所は青山、銀杏並木通りに面するオープンカフェ。
ランチタイムの繁忙期こそ過ぎたものの、日曜である今日に限っては客足も常より多く、
喧騒というには間延びした、平和そのものといえる緩やかな時間が流れていた。
東京とは思えない、緑があふれる一角のオープンテラス。
その席の一つに、一人の男が座っていた。
 
 
――――それも、この場にはおおよそ相応しくない、全身黒ずくめの美丈夫である。
まるで彫刻を思わせる端整な顔立ちに、闇を解かしたような黒い長髪。
均整の取れた体を包む細身の黒いダブルスーツは、ブリティッシュ・モデルの本場『サビル・ロウ』の
オーダーメイド。
胸ポケットの赤いスカーフがアクセントとなり、スーツの深い黒を更に際立たせている。
そして注文したカプチーノを軽く片手に、目を通しているのはニューズウイークの英語版。
 
それでも。
この非日常の象徴のような男の姿は、この場所という「日常」の風景に溶け込んでいた。
『誰も気づかず、振り向かないのが紳士の服装である』。
まるで紳士服の歴史に革命をもたらしたダンディズムの祖、ボー・ブランメルの言葉そのままに。
それは男が自らの気配を消し(そも、高級なスーツからして男は自然に着こなしていた)、順応しているのか。
それとも、この男の尋常ならぬ美しさが、周囲の風景すら従えて同調させているのか―――。
そう。
今は周囲に埋没してこそいるが、そう錯覚してしまいそうなほどに男は美しかった。
それこそ浮世離れした、いや、人間離れですらある一人の美しき男。
 
 
男の名は、有角幻也という。
 

13 名前:有角幻也 ◆rX9kn4Mz02 :2008/05/29(木) 22:58:36
>>
 
  
内閣調査室。
政治的立場の脆弱さゆえ、その主な力を国内の暗部調査へ向けざるを得なかった諜報機関。
中でも機密の任務に携わる非合法要員は別名『内調特務』と呼ばれ、分野に応じ特別な予算と権限
を与えられた便利屋として使役される。
  
中でもこの男―――有角幻也は、オカルト・超常現象に長じた希少なエージェントであった。
 
日本における退魔機関の大半は寺社に属する特殊戦闘の集団であり、対化物の殲滅・浄化にのみ特化している。
そのため情報の収集といった分野は協力体制にある公安に依存するほかなく、だが公安には対化物の技術も
装備も有していないのが常だ。
例外は朝廷の禁衛府から派生したと言われる『聖霊庁』と政府直属の特殊機関『森羅』だが、前者は
権限と能力面の問題から調査部門と実行部門は分割され、後者において調査能力はあくまで付随す
る要素に過ぎない。
 
そして現代、オカルトが社会の複雑な構造の陰で潜む時代において。
吸血鬼や悪霊といった常ならざる存在に熟知し、対処できる諜報局員(エージェント)の存在は極めて貴重といえた。
優れた情報収集能力と、必要とあれば障害を排除しうる高い戦闘能力―――それらを併せ持つ人材は各所で求められ
ていたのだ。
 

有角幻也。
日本政府の誇る超一流の退魔要員、命を無視されたオカルト専門のイリーガル。
その美しき男は今、調査室長より特別な依頼を受けていた。
 
 
―――『素晴らしき青空の会』。
そう呼ばれる秘密組織への、徹底的な監査の指揮を。
 

14 名前:有角幻也 ◆rX9kn4Mz02 :2008/05/29(木) 22:59:08
>>
  
 
『素晴らしき青空の会』。
表向きはボランティア/健康的な生活を目的とした非営利団体と法人登録されている。
―――そう、表向きは。
 
その本来の姿は22年前、一人の男が創り上げたハンター組織である。
ハンターといっても、狩るのは猛獣の類などではない。
それよりも遥かに強大で狡猾な存在、いわゆる『ヴァンパイア』の殲滅を目的とした組織だ。
なかでも当時、爆発的に勢力を伸ばし始めた“異種”―――コールネーム『ファンガイア』を
狩るために創られた組織だ。
 
最大の特徴は、バックボーンを持たないということ。
すなわち政府や宗教といった、帰属する母体を持たないのである。
本来はそうではない。あらゆる巨大な組織において、バックボーンとは必要不可欠な存在なのだ。
かの有名な英国国教騎士団しかり、ヴァチカンの聖堂教会、西欧聖霊庁特務、そして1999年の
『バトル・オブ・ブリテン』以降衰退したイスカリオテといった教会の代行者しかり。
その構造特有の問題こそ生じるものの、巨大な暴力を所有するハンター組織は、統治する存在を
別とするシビリアン・コントロールの構造を取る事によって長年存続してきたのだ。
   
だが、『素晴らしき青空の会』は異なる。
創設者が財界・政界への強力なコネクションと財力で築き上げた個人の組織だ。
端的に言えば、創設者の意によって動く『私兵』の集団であるといえた。
それも、個人のレベルを逸脱しつつある程の規模・ネットワークを有している。
例えば、表の顔とされている法人団体。
そこに属するメンバーだけを見ても、大物議員の二世三世、日本が誇る企業グループの会長、
防衛庁の元長官といった、隠然たる権力を持つ大物の名が連なっている。
はてには国境を越えた名誉会員と称して、某外資企業の筆頭株主(その企業の母体は軍需産業で知られる)
などといった者までいた。
裏側の非合法なメンバーまで調べれば、或いはそれ以上の大物がかかるであろう。
この調子で拡大を続ければ、世界を征服できる―――というのはこと大袈裟に書かれたゴシップ誌の記事だが、
将来の危険性という意味では決して間違いではない。
 
   
急速に発展した、特別な武力を所有する大型組織。
たとえ創設者が政財界にコネクションを持とうとも、いずれ危険視されるのは当然といえた。
それは、組織に属する議員とは異なる派閥の中で。
或いは、純粋に肥大化した組織を警戒する高級官僚の間で。
 
「―――『素晴らしき青空の会』を監査せよ」  
 
政府によって育まれ絡み合った疑心と利害、政治的思惑は内閣調査室への一声となった。
 

15 名前:有角幻也 ◆rX9kn4Mz02 :2008/05/29(木) 23:00:13
>>
 
そして、それゆえに今回の監査で白羽の矢が立ったのが幻也であった。
肥大化しつつある判断された対吸血鬼機関の監査。
ある意味、これほど幻也という男に適した任務もなかった。
こと幻也の冷徹とまでいえる任務への姿勢も、監査という任務には打ってつけである。そう上も判断したのだろう。
   
とはいえ現在、組織そのものを潰す気はない。
政府内の様々な思惑こそ絡んでいるものの、あくまで今回は組織の把握と監査だけに留める。
これは幻也に依頼した“上”と、また幻也自身の共通見解だ。
 
近年世間を騒がした『夜刀の神』の一件―――日本古来の吸血種が引き起こした事件を引金として、
この国でも強力な対吸血鬼戦力が強く望まれている。
無論、日本にも多くの退魔機関が存在する。だが、それら機関の多くが少数精鋭であるように、
この国でも最前線で戦える指折りの執行者は多くはないのだ。
そして、『素晴らしき青空の会』が不足している人手を肩代わりしてくれるならば、それに越したことはない。
監査の結果にもよるが、政府は最終的にハンター組織との協力体制を視野に入れている。
これが予め、すでに定められた互いの着地点。
監査という結論に至るまでに取り決められた、この国特有とさえ言える根回しの結果であった。
  
もっとも、そんな体質など幻也にはどうでもいい。
必要なのは何をすべきかであり、その上で結果を出すのが彼に与えられた役割だ。
状況を把握したうえで政府の思惑が彼の利害と一致さえするならば、彼の行動を妨げないというならばそれで
問題はない。
 
そう、状況の把握だ。
木漏れ日のさすオープンカフェで、幻也は人を待っていた。
『素晴らしき青空の会』の監査を行う上で、必要な情報を得る。それが今ここにいる理由である。
関係者だという公安の人間と、この場で落ち合う約束をしていたのだ。
監査の情報を早くも掴んだのか、接触をしてきたのは向こうからだった。
いち早い情報の取得と行動。だが驚愕するほどではなかった、そもそも意図的に流したようなものだ。
これも前もって行われた“根回し”の結果なのだろう。
 

喧騒というには静かな時間が緩やかに流れてゆく。
――――だが、常ならざる世界を生きるものにとっては僅かな小休止に過ぎない。
幻也という男にとって、全てはこれより始まる狂奏の序幕に過ぎないのだ。
  
 
言ったのは誰であったか。
平和とは、戦争と戦争に挟まる猶予期間であると。
 

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