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■ 名護啓介 VS 有角幻也 闘争会議室

34 名前:有角幻也 ◆rX9kn4Mz02 :2008/06/18(水) 01:41:58
[導入6]※暫定
 
>>
 
宵闇に光る猛牛のエンブレム。
黒い闇夜のハイウェイを、更なる黒が疾駆する。
 
黒塗りのランボルギーニ・ミウラ。
フェラーリに対抗すべくして生まれたランボルギーニ社が創り上げた草分けにして異端児。
12気筒の大排気量エンジンを流麗なシルエットの中に、ミッドシップのスタイルで搭載した車である。
当時12気筒の大排気量をミッドシップに積んだ車は前例がなく、その型破りな発想と全部で750台しか
生産されなかったという希少性。誰一人欠けていたら生まれなかったと言われるデザイン/設計。
そして何よりも、切り裂いた風すらも従えるボディラインに12気筒のエンジンが織り成す重厚な排気音。
スマートとパワフルさを兼ね備えたこの雄牛は、世界で最も荒々しい芸術品とさえ言えた。
 
   
全てが黒に染まったランボルギーニ。
その黒い革張りのシートの中で、幻也は数日前のことを思い返していた。
あの日―――『素晴らしき青空の会』の監査を始め、名護啓介と出会った日のことを。
  
あの時。
幻也は明らかに感情的になっていた。
それは当の本人からみても、極めて珍しい事なのは間違いなかった。
異例を超え、もはや異変だとすら言えた。
“氷の男”。他人が幻也を評するに最も適した言葉である。
そして最も評されるこの言葉の通りに、幻也という男は感情を見せぬ男であった。
属する機関の内外を問わず常に冷静冷徹、鉄面皮で知られる男だ。
事実、それを常時とする男でもある。表情を見せず、感情を見せず。喜怒哀楽を見せることのない氷の男。
それが、有角幻也の自他共に認める事実である。
 
しかし。
あの時は明らかに怒りを抱いていた。名護啓介の迂闊な行動に対してだ。
僅かに垣間見せた程度の冷たい激怒。だがそれでも、幻也が見せるには余りある発露だった。
従来ならば、冷たい言葉を浴びせるにしても感情など込めなかったであろう。
軽く(それでも、常人なら3日は寝込む程度)辛辣な言葉で流していた筈だ。
何故か? 
 
 
―――――母、か。
 
思い至ったならば理由は明白だった。
命の危機に晒されたのが母と子だったからだ。
逆に言えばそれだけの理由だ。だが、それだけの理由で幻也には十分だった。
あの時。犯罪者の凶弾は名も知らぬ母子にも向けられていた。
そう、失われていたのかもしれなかったのだ。
  
母の目の前で子供が、そして子供の目の前で母親が。
なんら謂れのない悪意によって奪われようとしていたのだ。
そう、かつての自分と同じように。
自分を襲ったと同じ悲劇が、形を変えて繰り返されようとしていたのだ。
ならばそれだけで十分だった。
眼前で母を失った悲しみを知るのは己のみでいい。誰も、あんな悲劇を知る必要はない。
そう思ったからこそ、それを自身の迂闊で引き起こそうとした男に怒りを抱いたのか。
  
 
―――――分かっている。
   
そう、所詮はこの怒りも幻也のエゴに過ぎない。
その事を誰よりも幻也自身は知っていた。あの男、名護啓介と同じく歪な陶酔の発露でしかないのだ。
そう深い自嘲と自戒の意を込め、自身の心に言い聞かせる。
  
 
――――我が身に背負うは、罪と罰。
自身はただの咎人に過ぎない。
母を見殺しにし、父を手にかけたこの身が咎人以外の何であるというのか。
誰が否定しようとも、赦そうとも。誰が知らずとも認めずとも。
誰が彼を善と呼ぼうと、背負う咎はいずれ裁かれなくてはならない。
人として生きることも、それ以外のものとして生きることも、己に許されはしないのだ。
 

35 名前:有角幻也 ◆rX9kn4Mz02 :2008/06/18(水) 01:43:54
>>
  
それでも尚、彼は現世に生きなければならなかった。
最初は隠れ蓑だった役職だが、それでも世界は彼のような者の力を必要としているのだ。
成すべきことは多かった。それも、今すべき事が目前にあった。
他でもない、『素晴らしき青空の会』の監査である。
 
幻也が車を走らせるには確たる理由があった。
上からの命令。今夜、監査対象である『素晴らしき青空の会』によるデモンストレーションが行われるというのだ。
使用される武装は『Intercept X Attacker』。機関からは『ハンター』とも呼ばれる対吸血種装備である。
22年前から開発が行われ、今回の監査における重要項目の一つでもあった。
監査に伴う段階的な情報開示の一環。そう説明を受けている。
 

――――表向きは、な。
  
妙な話だった。
タイミングとしては順当だ。もとより着地点の見えた監査でもある、順調ならばそれに越したことはない。
しかし、知らされた内容に不自然な点があった。
責任者の幻也が単身来るように、そう指名があったのだ。
監査の総指揮は幻也である。だが当然のように監査を行う人員は一人ではない。
任務に応じた権限を与えられるのが特務員の常だ。今回は監査に公安の人間を借りることが決定していた。
前にも接触した、『素晴らしき青空の会』のメンバーでもある公安の人間だ。
彼は幻也と組織を仲介する人間として、以降の監査に必ず立ち会うよう契約を結んでいた。
互いのトップが、わざわざ協議のテーブルに立って決めたという取り決めだ。それを反故にするような真似は
不自然だった。
 
指定されたポイントというのも気になった。
記憶が確かならば、その場所はかつて大事故で廃棄された元工場、加えて再開発の目処が立ってない所だ。
いわば都市部に点在する空白、現代の廃墟。
確かに、機密である特殊装備を見せるのなら打って付けではある。
そしてその土地は法的には嶋財団―――『素晴らしき青空の会』の所有地ということにはなっている。
機密保持の手段としては申し分がない。それも、不自然なほどに。
 
何より、決定的だったのが命令を伝えた調査室長の言葉だった。
 
 
     「ああ、これも監査の一環だ。わざわざ君を指名している。
      時間通りに指定した場所で向こうと接触してくれ」

      ―――了解しました。
 
     「まぁ、あまり先方に失礼のないように。
      機嫌を損ねて手のひらを返しはしないだろうが、事は慎重にな」
 
      ―――承知しています。 
 
     「ああ、そうだ。これとは関係ないんだが……」
 
      ―――他に何か?
 
     「実は、最近家内が石楠花の栽培に凝っててね。
      それでちょっと余ったもんだから、少し貰ってくれるとありがたいんだが」

 
 
一見何気ない会話に暗号を交える、公安機関での常套手段。
中でも内調特務においては、主に花の名前が暗号として用いられることが多い。
機密保持の方法としては陳腐で時代遅れだが、それでも有効性は確かにあった。
この場合は石楠花(しゃくなげ)の言葉が符丁にあたる。
そして今回。石楠花の符丁の意味は、そのままそれの花言葉に繋がっていた。
すなわち――――。
 
 
――――注意しろ、という事か。
 
 
恐らくは、『素晴らしき青空の会』の仕掛けた何らかの罠なのだろう。
内閣調査室のもつ力は、国の諜報機関というには余りにも脆弱である。
FBIなどの海外の同じ機関が持つような権力を持たず、概して便利屋として使われるのが幻也の知る実情だ。
少なくとも部下である特務の安全を、雇用主として主張するだけの発言権は存在しない。
もとから公的には存在しないとされている内調特務であれば、尚更だ。
たとえ特務員を陥れるための罠であろうと、正面からの圧力であれば応じるしかない。
最も、それは圧力に屈するとは違う。逆に言えば、その罠を破り切り抜ければそれは取引の材料となる。
そんな抵抗と綱渡りを繰り返し、借りと実績を得ることが内調の裏のやり方であり、有角を含めた内調特務に
必要な能力でもあった。弱い機関ゆえのしたたかな立ち回り方ともいえるだろう。
 
それに今の室長には恩もあった。
彼は幻也の素性を知る数少ない一人であり、知りながら機関に受け入れてくれた人間だった。
部下を見殺しにすることを良しとせず、影ながら今回のような警告をしてくれる人物だ。
ならば善意を感謝こそすれ、恨む理由は何一つなかった。

36 名前:有角幻也 ◆rX9kn4Mz02 :2008/06/18(水) 01:44:46
>>
   
漆黒の闇を裂いてその存在を主張する、更なる漆黒のランボルギーニ。
もはやハイウェイを降りたそれは世界で750台しか存在しない雄牛の一台、その中でも初期型のミウラP400だ。
しかし、その中身はほぼ別物になっている。
後のモデルチェンジで改善されたサスペンション系統・オプションは元より、電装系・制御系統は完全な最新式。
ミウラのシンボルでもあるV12エンジンに至っては、特別チューンまで施された非合法ギリギリの代物だった。
すなわち、幻也の“仕事”に耐えうるような専用の改修を受けているということだ。
彼は懐古主義者でもなければ浪漫主義者でもない。むしろ一種のリアリストですらある。
そのため彼の意向によって大幅な改造が成されていた。
尋常の皮をかぶりながらも尋常ならぬ力を秘めた、有角幻也という男が駆るに相応しい機体に。
 
 
その機械仕掛けの雄牛が今、約束の場所に乗り入れる。
人気のない、再開発が放棄された廃墟。
現代において生まれた繁栄の陰にして隙間、光溢れる世界に再び現出した無人の闇に。
 
月下。 
雨ざらしのコンクリート。
朽ちるのみを待つ建築物。
地虫すら蠢く気配のない大地。
  
未だ車輪を進める鋼鉄牛が、幻也と共に荒野を進む。
 

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