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■ 日守 秋星 vs 後藤

14 名前:◆bOIWj9Hr0g :2008/11/30(日) 23:11:51
田宮良子と名乗る個体は、寄生生物の中でも知的好奇心が強く、何事にも興味をもち様々な実験を行っていた。
性交をして子供を作る試みや、寄生生物の、寄生生物による、寄生生物のための町づくり計画もその一つである。

そんな彼女?はまた一つ実験を行おうとしていた。
実験素材の前で、これから行う実験の趣旨を仲間達に説明し始める。

「ところでもう三度も失敗しているが、本当に可能なのか?」
「私の予測が正しければ、可能なはずよ。
 それに失敗の原因は分かっているわ、五体もの仲間を同時に寄生させると、仲間同士の連結ががとても難しくなるの。
 それでも3度目は13時間は上手くいっていたわ。今度こそ『後藤』が完成するわよ。」
「なんでもいいが、付き合わされる身にもなってくれ。」
「じゃあ早速はじめましょう。」

実験素材は田宮良子の顔がゴムのように変形したのを見た。
次の瞬間、零れていく視界から自分の胴体を見た。
転がり落ちた先で、同じく切り落とされた手足を見た。
次第に消えていく意識の中で、田宮良子の言葉を聞いた。



       


屋上のドアを開けると、広川の視界にパイプ椅子に座りスーツを着た男の背中が飛び込んできた。
奇妙な光景だったが、広川は動じずにビジネスマン風の男に声をかけた。

「ああ、やっと見つけたよ、後藤さん。」

後藤と呼ばれた男は、くちゃくちゃと口に含んだ食べ物を咀嚼しながら振り返ると
じっと男を見つめてから食べ物を飲み込み、口を開いた。

「どうした、ボス。」

「食堂≠フ件で相談がある。」
「何か問題でも起こったのか?」
「いや、そうじゃない。以前議題に上がった食堂≠フ数についてなんだが、現状ではまだ数が多いようで
 こちらの方でも利用状況を把握しきれていないんだ。
 そこでもう一度数を減らそうと思うんだが、一番食欲のある後藤さんなら、どれくらい必要か聞いておきたくてね。」
「貯蔵庫≠設置する案も出ているんだろう?それが通れば三つもあれば十分だ。」
「ふむ、それくらいなら把握は容易いな。貯蔵庫≠ノついてはまだ未定だが。」
「貯蔵庫≠フ管理はどうする気だ?」
「交代で見張りをつける形になるだろうな。後藤さんにもやってもらうよ。」

地面に落ちている左腕を拾い、その白い細腕を肩の付け根からゴリゴリと齧りながら、後藤が呟いた。

「……我々もやる事が人間染みてきたものだ。」


「ここも閉鎖するのか?」
「予定ではそうだ。」
「そうか、残念だ。ここは景色が良くて、気に入っていたのだが。」
「なに、立ち入るだけなら自由だよ。」
「見晴らしのいい場所で食事したいんだ。ところで、選挙の方はどうだ?」
「市民の反応は上々だ。特に若い女性からの反応が良い。」

そこまで言って、広川は後藤が食べている腕に気がついた。
もう掌から肘の部分までしかないが、恐らくは女性のモノと思われる。

「だからしばらくは女性は控えてくれると助かる。」
「安心しろ、本人は19歳と言っていた。」
「そうか、なら良いが。」

後藤が腕を食べるのを広川は興味深く見つめていた。

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