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■ ユメで遇いましょう

1 名前:呂布奉先:2010/07/03(土) 22:26:33
――ブラリ、ブラリと。
 
 原色の灯り、雑踏、喧騒――煩わしいと思いつつもブラリ、ブラリと。
 なんでもないただの散歩――そうしている事が不自然なんだと頭の片隅で思ってはいるのに、自然と脚は進む。
 
 カラダが火照って仕方ない。
 それを冷ます為に歩いているんだと、自分に言い聞かせて。
 
 だって、今夜はこんなにも月が綺麗だから――これ以上ない程に丸く、世界に大きな孔を開けるようにぽっかりと口を開けている。
 月の満ち欠けとカラダの周期。まったく――不便だ。
 
 こんなにもダレかの体温が欲しくて。こんなにも自分の衝動を抑えられなくて、かといってぶつける相手は居なくて。
 発散しようにもイカせてくれる相手が居ないんじゃ、一人で街を歩く破目になるのも仕方がないコトだと思う。
 
 夜の街で視線が集まる――それも当然。
 素肌に、ブレザー。上半身はそれだけで。チェックのスカート――詰めすぎた丈は隠せるものも隠せはしない。ローファー、ルーズソックス。
 ツインテールで髪を括って、唇には薄めのルージュ。化粧はあんまり好きじゃない――どうせグチャグチャになってしまうのだから。
 
 周りを見てみれば、上半身意外はそんなに目立たないのでオッケー……個人的に。これが落ち着く格好なんだし。
 
 それにしても――こんなにもダレかが欲しいなんて。
 火照るカラダ、熱に浮かされたかのように潤む瞳、切なく喘ぐような呼吸――金魚みたいにパクパクと。
 お陰で喉が渇いて仕方ない。
 
 コンビニにでも行こう。二十四時間営業で、何処にでも在る。こんな時の心強い味方だ。
 そう決めてしまえば目的のない散歩も、一人の寂しさも、紛れてくれるだろう。
 
 コツコツとアスファルトを刻む音。
 煩いぐらいに騒がしい街なのにやけにはっきりと聞こえるその音に驚く。
 道を歩けば音が出る。自然なコトだ。街であれば他人の足音だって聞こえてくる。
 だけど、やけにハッキリと自分の足音を自覚する――不思議な気分だ。アスファルトを刻む音だけがハッキリと聞こえてくるなんて。
 久しぶりの散歩だから――そう、自分に言い聞かせるコトにした。
 
 何時以来だろう。一人きりで夜の街を歩くなんて。
 何時もはダレかと一緒だった、と思う。それがダレかまでは、思い出せないのだけど。
 ビル風が胸元を撫でて行く。ひんやりとした風――ダレかが隣に居れば、居てくれたなら、こんなにも肌寒くはないんだろう。
 今は一人なんだから、悔やんだって仕方ない。
 
 早く、この乾ききった咽を潤したい。考えるコトはそれだけ。
 
         ※  ※  ※  ※  ※
 
 コンビニに着いて、飲み物を物色。
 ブラッドオレンジジュースなんてものを手にとって、会計を済ませて、外に出て。
 蓋を開けて飲み干しても、まったく渇きは潤せなかった。
 それどころか、余計にカラダが火照ったような気がしてならない。
 
 深刻だった。
 
――ダレかに声を掛けよう。あの人みたいに。
 
 一夜限りで良い――良いように扱われるのはゴメンだけど、割り切ってしまえば楽しめるかもしれない。
 欲求不満が募るだけだったら、殴って帰ってしまえば良いんだし。
 
 我ながら名案だと思った。
 幸いそんなに時間も遅くない。イイ男――あるいは女の子……女の子は駄目かな。流石に悪い気がする――を釣るには時間はたっぷりとある。
 幸い見た目には自信があるし、体型も悪くない……控えめに言わなくてもかなり良いほうだ。
 ウブな男の子なら声を掛ければ直ぐだろう。
 
 決めてしまえば行動は早い。
 ゴミ箱へ中身のなくなってしまった容器を捨てて、振り帰るコトもなく歩いた。
 谷間を撫でて行く風は、やっぱり冷たかった。
 
          ※  ※  ※  ※  ※
 
 街には色んな人が居る。
 スーツ姿の酔っ払い、人相の悪い如何にもな集団、学生、どうみてもあたしより若い女の子を連れている中年、逆のパターンも。
 多種多様――しっくり来る言葉だ。
 
 そんな中で彼に目をつけたのは――あの人の面影に似ていたからなのか、自分でもちょっとわからないけど。
 
 失敗したかな、と自己嫌悪。
 外見だけじゃなくて――表面上の中身まで近かったなんて。
 
 人気のない公園――近付く顔、重なる影。
 スルリとブレザーの内側に入ってくる彼の手――口の中で舌と舌が溶け合っている間に。
 元からそのつもりだったとは言え、流石に外だとは思いもしなかった。別に場所を選んでだとか、ムードだとか、そんなものを求めるほど上品じゃないつもりだったけど、この手の早さには驚いた。
 まあ、驚いただけで悪い気はしていない。ギブアンドテイクだ。
 
 鼻から漏れる甘い声――自分の物だと気付いて、割と興奮しているんだ、なんて冷めた事を考えながら、そっと相手の体に指を這わす。
 太腿からゆっくりと、触れるか触れないか、その程度の力強さで。
 背中、胸板、首――ブレザーに差し込まれた手は、優しく、時に力強く、あたしのカラダを舐めて行く。
 因みに、両手が差し込まれているわけじゃないので、空いたほうの手は好き勝手に色んなところを――快感に彩を添える為に、撫でている。
 ただ一つの救いは――あの人のようにあたしの悦ぶところを確実に突いて来ない、くらいだ。
 
 唇が離れる――ツッと伝う唾液。もう一度求める。
 聞こえる心音。ドクン、ドクンと脈打っている。やけにハッキリと、靴底がアスファルトを打っていた時の様に、ハッキリと聴こえてくる。
 彼の首を指先でくすぐる。呼吸から、ここがイイと伝わってくる。そうして、そこから目を離せない、あたし。
 ブレザーに差し込まれていた手が突然抜かれ、下へ、下へと這って行く。
――ちょっと急ぎすぎ。チョーシに乗るなってコトで舌を軽く噛んでやる。少し切れたのか、口の中に広がる血の味。
 驚いたように、下へと這っていった手が止まり、再びブレザーの中に納まる。
 口の中に広がる血の味と、快楽に浸るあたし。
 まるで、吸血鬼にでもなった気分。
 
 また唇が離れ、彼がおでこにキスをする。その間にも手は動く。強く、弱く、体中を、隅々まで。
 少しずつ荒くなる呼吸――パクパクと金魚みたいに。
 
 切なく吐息――凭れ掛かるように、カラダを預ける。
 目の前には、首。
 
 軽く、キス。
 何度も、何度も。
 軽く、キス。
 
 雨のように。
 何度も、何度も。
 
 吸い付く。
 その時の彼の目に、恐怖が浮かんでいた事なんて、あたしから見える筈なんてなくて。
 
  
――口の中に広がっていた血の味は、決して舌を切ったものだけじゃなくなっていた。そんな簡単な事に気付いたのは、冷たいカラダが腕の中で重くなった時だった。
 
          ※  ※  ※  ※  ※
 
 それが――あたし。
 呂布奉先の、初めてだった。

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