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■ 「陰陽頭」と「堕ちた天秤の騎士」の会議場
- 27 名前:柳生友景:2011/08/14(日) 01:44:33
- >>26 続き
「そなたには苦労をかける喃」
崇徳上皇はうるんだような眼差しを友景に向けた。
「ご案じ召されますな。友景は主上の臣、院宣を果たすは当然にて。
されど、如何にして未来世界へ赴けばようございましょう。かの朝鮮妖術には、時空間の移動
を可能にする秘術があるとは伝え聞きますが」
友景にその技はない。上皇は自信ありげに言った。
「されば、能を遣う」
「能――」友景は美しい眉宇を顰めた。「それは、夢幻能をという事でございましょうや?」
「流石は友景じゃ」
上皇は莞爾と微笑んだ。
「能とは畢竟、変身のわざなり。演者は亡霊に成り変わり、その語る亡霊の世界、つまり過去世
を現世に生じさせしむる芸術である。
この機能極まり、過去世となった舞台を観る者は、過去へと飛ぶも同義ならん。
此度はそれを逆手に用い、以ってそなたに時空を渡らせる<径>と成そうよ」
――旅の僧侶の前に亡霊が現れ、過ぎ去りし日の物語を語るのが、夢幻能と呼ばれる即興演
劇の基本的構図だ。
その構図が真の意味で完成した舞台、これを見る観客は過去を見る事になる。つまりは過去
の世界そのものへ送り込まれると云っても過言ではない。
それは能を航時機(タイムマシン)となさしめる可能性への言及に他ならなかった。
そのシステム、本来は過去へと飛ぶ処理方向を変換させて、観測者たる友景のみを未来へと
転送(ワープ)させる。上皇の意図はそういう事であった。
「――あの御方より、三百年後の未来については伺っておる」
友景は少し双眸を光らせた。
魔界の大皇(おおきみ)たる崇徳院その人をして、礼を以って語るあの御方≠ニは、そも何
者なのか?
「未来へ翔ぶ夢幻能を演じる事に関しては仔細ない。敵の術客が企みし儀式の場へ、直接そな
たを渡せられるであろう。
また聞説(きくなら)く、変身の芸である能に依って時空を渡れるは、同じく変身の力を、つまり
別の自分に成り変われる力を持つもののみ、と。
時に陽中の陰と変じ、また陰中の陽と化す神妙剣、陰ノ流レ――新陰流を極めたそなたなら
ば、己が霊力の後押しによって、必ずや未来へと翔べよう」
「成る程。ではシテは真逆?」
「無論、朕が」
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