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■ 『異聞』 〜定められた終幕(エピローグ)へと到る物語〜
- 57 名前:“動かない大図書館”パチュリー・ノーレッジ ◆fPATcHE/tU :2011/12/02(金) 00:18:19
- >>(ケフカ)
>>(エリ)
鉄巨人が道化をひきつけた一刹那。
それは、魔女にとって千載一遇の好機でもあった。
「……あら、腕を献上する必要はなさそうね」
即座に呟く魔女。
「解けろ」
それは呪文ではなく、合言葉。
即座に、彼女の身に着けていた数少ないアクセサリが全てはじけ飛び、魔女の周囲に幾重もの光の魔法陣を描く。
それは、以降の加護を失う事と引き換えに、瞬間的に魔力を増強する強化術式。
その持続時間は決して長いものではない。彼女は矢継ぎ早に呟いた。
「丙、巳、丁、午、螢惑の光、
赤金に刈らるる麦、杏喰らう羊。
螢惑の光、丁、午、丙、巳」
それは意味のある言葉であり、意味のない呟きでもあった。
呪文の詠唱とは、基本的に世界に物を言って聞かせる方法の一つである。
逆に言えば、物を言って聞かせられるなら、その順列に意味はあり、
聞かせられないなら、言葉として美しくとも意味はないのだ。
そして、魔女のつぶやきは、まさに意味のある言葉であった。
魔法陣の光が収束し、魔女の右の掌に赤い光の球を形成する。
それは、数刻前、道化が「吸収の魔法を随分と丹念に組み上げた」「匠の仕事」と評した
青き光の球と同質の、だが何かが決定的に異なる形成体だった。
例えるならば、赤いビードロと、青いビードロ。
組成は同じでも、与える印象はまったく異なる。
「………」
数秒の見分。
魔女は、それが彼女の思惑と寸分たがわず形成されたのを見て取ると、
即座に掌を下に向けた。
光の球が放たれ、灼熱地獄の中枢へと飛び込んでいく。
それを見て取った瞬間、ふらり、と魔女の体が傾いだ。
すぐに立て直すものの、その顔色は優れなかった。
限界が近い。それは誰の目にも……彼女自身にも明らかだった。
細工は流々。退路は窮々。
ならば後は、王手を取りに行き、果敢に詰ませるのみ。
しかし。魔女は最後の一手を躊躇っていた。
あの道化。
あの底知れぬ狂乱の底に、あれは、まだ何かを隠している。
それが、彼女の切り札に、影響を与える可能性はないか?
ある可能性は少なかった。
だが、無いとは言い切れなかった。
しかし、決断の時は迫る。
結局、彼女は進む事を選んだ。
「相生せよ」
- 58 名前:“動かない大図書館”パチュリー・ノーレッジ ◆fPATcHE/tU :2011/12/02(金) 00:21:50
- >>(>>57への自己レス)
それは、世界を超えた魔法。
夜が繋がった今の物語でのみ紡ぎうる大魔法。
世界を超えて出で、世界を超えて繋がる。
地球、オーストラリア、ノーザンテリトリー、ウルル-カタ・ジュダ国立公園……
地球で2番目に大きく、最も有名な一枚岩の存在する大地を、黄色に輝く光球が睥睨し、照らし出していた。
黄なる沈思、義の土行。火より出でて、金を育む。
リージョン『最終兵器』、最深部……
全てが金属で構成された鋼鉄の兵装世界の最奥で、白色に輝く光球が鎮座し、鋼に根を張っていた。
白き悲しみ、智の金行。土より出でて、水を育む。
ファシナトゥール、"魔海"であった場所……
かつて仄暗い水に覆われていた場所。そこに暗い青色に輝く光球が転がり、ファシナトゥールの水全てを渦巻かせていた。
黒き恐れ、信の水行。金より出でて、木を育む。
ファ・ディール、マナの聖域、マナの大樹……
世界の根源たる力の象徴である大樹の根元に、緑色に輝く光球が浮かび、大樹の葉をざわめかせていた。
緑なる怒り、礼の木行。水より出でて、火を育む。
そして、ファシナトゥール、書庫であった灼熱地獄……
「赤なる喜び、仁の火行。木より出でて、土を育む」
魔女は呟く。魔女は謡う。
いつの間にか、魔女の左腕は元の姿を取り戻していた。
いや、どころか、全身に負っていた大量のかすり傷すらすべて姿を消している。
彼女が数日を駆けて世界をめぐり、撒いてきた5つの光の球。
光の球一つ一つが、魔女の断片と言っていい魔力の結晶だ。
球は周囲の力を吸収し、また循環させる。
力は巡り巡り、大きな力の輪となって、魔女の魔力となるのだ。
それは、余禄だけで彼女の傷を全快させるほど膨大な物。
その魔力は、彼女の目的を遂げさせるに必要十分なものとなる。
それこそまさに、魔女の秘跡。
火水木金土符「賢者の石」
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