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■ RHマイナス板専用テストスレッド

338 名前:◆mSTYrlov6I :2005/09/08(木) 16:14:04
 人工の光が無い夜。人以外のモノしか、音を立てない森の中。
 一寸先は闇、と言われる。
 人は闇に灯りを点し、駆逐してきた。なぜなら見えないと云うことは、人間にとってとても恐ろしいことだったから。

「えー、うなぎー、八目鰻だよー」

 人の畏れる闇夜の静寂を台無しにしながら、人の畏れる妖怪が月明かりの下を練り歩く。

「混じりモノもあるけど、取りあえず夜盲には効くよ〜。ビタミンAたっぷりだよ〜」

 すでに宣伝ですらない、堂々とした詐欺の告白。いや、これでは最早詐欺ですら有るまい。口上の意味を、考えてから
口にしているかすら疑わしかった。
 堂々とした犯罪の暴露を、がらがらと屋台が引きずられる音が追いかける。灯りなどどこにもなかったはずの視界に
近付くと唐突に現れた紅提灯には、力強い筆致で「八目鰻」と。

「効かなくても、私が夜盲を解除するよ〜。……おっかしいなあ、今日はお客が来ないや」

 この店主、種族を夜雀、名をミスティア・ローレライと称する。少女の形をしてはいるが、世紀を渡って生きる歴とした
妖怪だ。
 夜雀は歌で人を狂わせ、夜道に惑わせる。人の夜目を効かなくし道に迷わせる怪異が、夜目に効くと八目鰻を売っている
のだ。毒を撒いて解毒剤で儲けるようなものである。
 むしろ客が来る方が、本来おかしい。
 おかしいのだが、店はなぜか繁盛している。おかしな妖怪がやっている商売故に、おかしな事も起こるのかも知れない。

「ん、あれ?」

 ふと何かに気付いて、夜雀が辺りを見回す。忽然と居場所が変わっている。月の位置も、木々の位置も、そもそも生えて
いる種類からして異なっている。

「もー、私が道に迷ってどうするんだか。私は迷わせる方なのに〜」

 そうは言ってみたものの、居場所がどこだかすらさっぱり判らない。それでも先ほどまでいた場所と全く異なることは、
疑いようもなかった。なぜなら、

「むむ、こいつは臭いわ〜。ゲロ以下の匂いがぷんぷんするわ〜」

 こんな下品な匂いは、長らく嗅いだことがなかった。少なくとも幻想郷では、吸い殻をポイ捨てするようなマナーの悪い
者など覚えがない。

「んじゃここは外かな? って吸い殻に聞いてもしょうがないか〜」

 目の前を彷徨く吸い殻、喰屍鬼グールである。腐りかけ、あるいは腐りきった腐臭が鼻を突く。喰屍鬼からは、夜雀の姿は見えて
いない様子である。
 無数の羽音が集う。
 それらは夜に全くそぐわない、雀の群れだった。しかしその羽音の群れは、雀にそぐわぬ凶暴な光をその目に宿している。
 猛禽ですらない、魔物の視線。
 夜盲の領域であたり包み込ませていた使い魔たちは、どうやら一緒にここへと飛ばされたようである。夜盲の妖力も途切れ
ていない。

「こーら。吸い殻相手にがっつかないの〜。ちゃんとエサあげてないと思われるじゃない」

 夜雀は興奮している眷属へ、たしなめるように言葉を掛ける。

「慌てなくても、外ならきっと新鮮なのが手に入るわ〜。人口問題、ってやつの解決を手伝ってあげましょ?」

 そこで、ふと気付いたように屋台を覗き込む。

「……、まあ八目鰻も売りながらね」

 今日はまだ売れていなかった。


(初期位置:B-1「森林地帯」に出現)

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