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■ RHマイナス板専用テストスレッド

548 名前:◆KOJI2a34Bo :2007/04/28(土) 22:09:040
よせてはかえす波の音。
月影が射すその砂浜に潮騒のみが静かに響き渡っていた。

眼前に広がるその景色は、かつて見た光景だった。
それは人であった彼の世界の終わりの光景。
あの日。慶長壱拾七年の春卯月。
豊前(ぶぜん)の海峡に浮かぶ孤島で見た光景と寸分たがわぬものだった。
白砂を朱に染めて、彼が斃れ付したあの場所そのものであった。

あえて差異を挙げるとすれば、この船島には己のみしか存在せず、そしていまが夜であることか。
しかし夜とはいえど、宵闇からは程遠い。見上げれば天を埋め尽くすほどの巨大な月が。
虚ろな月は禍々しい光を放ってあたりを照らし、虚空に唯我独尊の王者のごとく、唯一つ空に浮かんでいた。

一人の男がそこにはいた。
猩々緋の袖無し羽織に革染めの袴を纏った男だ。
六尺二寸に余る長身ながら、その線の細さと、何より女人と見紛うばかりのかんばせにより不思議と威圧感はない。

彼はかつて四百年余の昔、西国一と謳われた白皙の天才剣士だった。
たとえ顔を知らねども、その背に担いだ刀を見れば、思い当たるものも多くあろう。

長い朱鞘の刀だ。それは長い長い刀だった。
異様なまでに長い刀だった。全長六尺に余る大太刀だった。
決闘に用いるには非現実にこの長い刀は、講談の花とするのもけれんみが強く、
後の世では、腰にたばさんだ三尺余寸の太刀の方が彼の愛刀として知れ渡っていた。
その銘おば備前長船長光なり。その仇名おば『物干竿』なり。
そしてその魔剣の持ち主は、いかに歴史を紐解こうと、ただの一人しか存在せぬ。

そう彼の名をば――――――。



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