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597 名前:ゼアド ◆rX9kn4Mz02 :2007/11/23(金) 20:18:48

『死神(デス)ゼアド vs <呪われし公子ゲイナー>』
 
>>67 
 
その全てを呑込む深(侵)緑の坩堝に、漆黒の影は埋没することなく存在していた。
 
 
カソックじみた黒衣を纏う禿頭の男である。
その俗さというものを感じさせない、物静かで飄々とした装いは牧師のそれだ。
 
だが男は凡庸な存在とはまるでほど遠く、むしろ異様ですらあった。
露出しているのは首から上だけであり、それ以外は全て黒の装束に覆われている。
異様なのは唯一露出した頭部もだった。  
一切の体毛が存在しないのだ。頭髪はもとより、眉毛や睫毛、さらには産毛の一本までも。
まるで髑髏へ肉付けのみをした死面(デスマスク)を思い起こさせる。
それは男のいる施設においても同様で、他の職員は皆、彼を心の底で恐れていた。
嫌悪感でもない、それ以上の本能的な恐怖と畏怖。
施設に収容されているいかなる異形より、死を想起させるものとして。
 
だが、それよりもこの男を異様たらしめているものは。
  
 
「――――ああ、お待ちしておりました。 
 貴方もご健在だったようで。それはそれは……」
 
まこと、ご災難であったでしょう。
そう続けて男が続けて切り出したのは、バトラーが客賓を迎えるがごとき恭しい一礼。
常より躊躇も乱れもない柔らかな物腰、相手の地位役職を問わず丁寧懇切であり流暢なその語り口。
世に言う慇懃無礼、などというものとは違う。
“これ”は理屈(ロジック)で現せるような表層ではなく、もっと根源的なものだ。
例えるなら、
  
「はて……何を、と申されますか。
 ですがゲイナー殿。言うなれば……それは此方の台詞。
 貴方こそ、一体何をされるお積りですか」
 
その声音は流暢でありながら、
口以外の部位から捻り出され、心の奥底へ、ねっとりと絡み付くようであり。
 
「貴方ならばお分かりの筈……左様、これは“可能性”なのです。
 今、怠惰と腐敗を重ねた現世に、聖処女は黒の位相より舞い降りた。正に“奇跡”と言えましょう。
 そして、世の因果、秩序に反するこれこそが<混沌>―――これぞ貴方も深く知るところである、
 無限に広がる“可能性”の発露ではありますまいか」

僅かに熱に浮かされながらも、その物言いは聞こえよく淡々として。
 
      ――――嘔吐を催す絶対的な嫌悪感は、
              生きた人間を材料にして奏でる楽器の 
                 隠しきれぬ怨念と絶叫を孕んだ牧歌を聴くようで。
    
  
「ならば、です。この祝福の、何を阻み蔑む道理がありましょうか?
 そう……貴方様は何ゆえに? グルマルキン公ですか?
 ああ、残念ではあります。私も不肖ながら別室で見ておりました。
 しかし、いや……よもやあの剣が一体誰のものか、分からずじまいだったとは……」
 
心の底から残念そうに、かぶりを振る仕草。
彼の動作は滑らかでありながら、
本来人間のあるべき動作からは極めて僅かに、だが致命的に掛け離れ。
 
「しかし悔やむ事もありますまい。いずれ、抑止の手も届きます。
 貴方の想定とは違うでしょうが…“世界”よりの修正を受ければ、抱く願いも叶うのではと」
  
向き直り、まるで最良の結果を告げるように。歌うように。
 
      ――――潜在的な領域で揺り起こされる不快感は 
              生贄である大勢の人間を搾り絵具とした
                 清冽さと優雅さを謳った油絵を見せられるようで。

 
 
「何より、折角の祝祭です。手を引いて頂きたい。
 貴方とて異界はマシャバク神の下僕、世に<混沌>をもたらすべきもの。
 これは好機ともいえる、破滅と混乱の発露なのです。貴方の務めにとっては祝いこそすれ、止める道理など…。
 ああ……いや、まさか。まさかとは思うのですが……」
 
そこで相対するゲイナーへ、男―――ゼアドが初めて表情を形作る。
そう、“作る”。
まるでヒトならざるモノが人を模したかのような違和感。
まるでヒトの声を持たざるものが人間のそれを真似たかのような違和感。
その酷くおぞましい存在の歪みが、最大となる。
 
「あの『聖女』に憐憫の情でも覚えられましたか? 
 災厄として死してなお担ぎ出される救国の英雄に……永遠の救世主として時を越え、残滓として君臨
 し続ける乙女に………いやいや、或いは同情か、哀れみか。
 よもや、恋慕などということはありますまいが――――――」
 
 
薄闇の中。
深(森)淵の中で朗々と語り、問い、そして笑む。
薄い哂いを張り付かせ。
生で満ちる異界を死で満たし。
正気なき地を瘴気で満たす。
            
      ―――――多彩の公子に対峙し嘲う黒白は
               死と闇より生まれ其れを知り尽くした
                   忌まわしい神を、誰もが知る忌まわしき神を

 
薄闇の中、独り笑む。
其れは黒衣を纏う白い髑髏。 
 
 
【現在地:C地区 腐海神殿(研究所)地下】

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