■掲示板に戻る■
全部
1-
101-
201-
301-
401-
501-
601-
最新50
read.htmlに切り替える
ファイル管理
■ RHマイナス板専用テストスレッド
- 602 名前:名無し子猫:2007/12/10(月) 05:17:46
- 憂いはたった今断った。
するべき事は全て終え、留まる意味を失った。
いや、これ以上留まる事は危険を呼び込むだけでしかない。
人が何人も消えている事実と自分の存在が、結び付かない筈がないのだから。
遠からず世間は騒がしくなり、そうなってからでは逃げるには遅い。
動くのならまだ容易な今の内に。
そうして、この狭い国から脱出する事を決意した。
潜り込むのなら、隠れる余地の多い大きな船が良い。
大勢の乗客が乗り合わせる客船よりは、タンカーの類の方が見つかる危険を抑え
られるだろう。
水や食料は、乗員用の物を拝借すれば問題ない。
何しろ病院内に数ヶ月も住み着いた経験があるのだから、それを参考にすれば
さほど難しい事でもないだろうと思う。
彼女にばかり負担を押し付けてしまう事になるが、下手に僕が出歩いて見つかる
よりは余程良い……と言われてしまっては反論の余地もなかった。
選んだ船が燦月製薬所有の船舶だった事も行き先がフランスのとある新興都市だ
った事も、偶然の産物だった。
偶然の産物とはいえ、日本の企業が進出したお陰で急速に発展しつつある新興都
市と言うのは、極めて都合が良かった事は言うまでもない。
よそ者の日本人が一人でうろついていても注目を引く事は無く――いや、実際は
そうでもなかったのだろうけれど、住人が好奇心その他から声を掛けてくるよう
な事は皆無だった。
僕としては、それだけで十分だった。
急速な発展と言う強い光が街の足元に歪んだ黒い影を落とす。
そんな公式は日本でも海外でもそう変わらないらしく、それなりの賑わいから切
り取られた隙間のような空間がこの街にも同じようにあった。
繁華街の外れの入り組んだ裏道を進み、投棄された様々なごみの合間を抜けて、
そんな空間の内の一つに腰を据える事にする。
この場所なら暫くは落ち着けるだろう――そんな風に考えて。
とは言え、生活そのものは注意して行わなければいけない事だらけだった。
万が一騒ぎになってしまえば、ここも去る羽目になる。
基本的には殆ど出歩く事も無く、食事も自制に自制を重ねた。
日々人口が増え月単位で成長する都市であれば、その内の数人が消えても大した
問題にはならないかとも思ったものの、警戒心を忘れてしまう事は避けなければ
いけない。
何処まで行っても、人の社会にとって僕は異物なのだから。
805KB
新着レスの表示
掲示板に戻る
全部
前100
次100
最新50
read.htmlに切り替える
ファイル管理