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■ 吸血大殲 夜族達の総合闘争会議室 其の五

159 名前:シュレディンガー准尉 ◆SatooB.weA :2007/05/14(月) 02:28:450


  とおりゃんせ とおりゃんせ
  ここはどこの細道じゃ 天神様の細道じゃ
  ちょっと通してくだしゃんせ
  ご用のないもの通させぬ
  この子の七つのお祝いにお札を納めに参ります
  行きはよいよい帰りは怖い
  怖いながらも とおりゃんせ とおりゃんせ…


旦那さんはこの歌は知っとるかね。
妾(わらわ)は女郎として此処に入れられてはじめて知ったわ。
そいで歌の意味を聞いて嗚呼ともう一度溜息をついたわ。

旦那さんは歌の意味を知っとるって?
そういや旦那さんとこは庄屋やって分限者(*金持ちの意)らしかね。
ほいじゃ妾と違って学もあるわな。
妾は、ほほ、女郎になるまで学どころか数を拾までも勘定しきれんかったよ。
女郎は牛馬とおんなしや言うがありゃ嘘や。
牛馬は数なんぞ数え切れんし、糞尿は垂れ流しで酷いもんや。
崩れかけた牛小屋で住んじょった妾がその辺良く知っちょる。
此処は天井もあるし、雨風も凌げるやろ、どう考えても女郎の方が恵まれちょるわ。



……妾について聞きたい?
旦那さんも変わっちょるねえ。
まあ、眠れんちゅうならひとつ寝物語でもするわ。

さっきの歌やけど、あれは間引きされた子等を悼んだ歌らしかね。
七つまでは子供は神様の預かりもんやけん、殺さん。
けどそれ以上やと飢饉が来りゃ口減らしや、天神様のお社の裏まで手を引いてや。
連れて行かれる子は祭やとはしゃいでよいよい。
帰りは当たり前やけど親一人や、後ろから子供が追いかけてくる様で怖い怖いとな。

本当は違うんよ――――妾の村では違っちょった。
そんな七つまでも生きられりゃせんもん、股座から引っ張り出されてすぐぽいや。
糞尿の桶に血塗れのままぽいと放り出されて仕舞い、親の方は見向きもせん。
飢饉でなくとも皆食う物に困る通称日照り村や。
楽しみと言えば股座に突っ込む事ぐらいで結果投げられる子ばかり増えていくんや。
じゃから、天神様のお社の裏なんて連れて行くなんてこともないんやな。
こないな子潰しの後始末が妾の仕事やった。

川にぽい、川にぽい、川にぽい…………山には投げんかったねえ。
川は皆流してくれる、実際はそんな事はないんやけど少なくとも山よりはマシや。
汚れた真っ赤なおべべは水が洗い流してくれる。
泣く声もさらさら歌う水音に混じって少しは綺麗に聞こえるわ。
それに水子って言うくらいやからな、水の中に還してやった方がとなあ。

そやけど、やっぱり気持ちいい光景やない。
大体、投げられても殆ど皆生きとるんや。
其れから数日かけてゆっくり渡っていくんよ、三途の河をな。
そいでもおぎゃあおぎゃあ泣いてその声が段々小そうなって……ぶつりはまだ幸せな方やで。

まず水に飲まれて溺れるな、これがけっこう多いわ。
泣いて泣いて涙をさんざ流して溺れての最期、こないなくしゃくしゃの最期の顔は
どれだけ見たかわかりゃせんわなあ。

で、これからが本題や。
或る時、いつもどおりに赤子はぽいしに、向こうのの川縁に人形が投げられとった。
これが割と大きくってな、しかもえらく綺麗な、精巧な人形やった。
はじめ妾が誰か倒れてると勘違いしてくらいにな。
ちいと考えれば妾の村にあないな高そうな牡丹の着物を来てるのなんておるわけがなかし、
皺だらけの女しかおらん日照り村に皺ひとつない女なんてありえんわ。
そんなこつで人じゃないと思う妾も大概やがな、そう思わせるものがあったんよ。

何でこないなもんが投げられとったかわかりゃせんかったが、勿体無いとは思ったわ。
といっても川は妾みたいな子供が渡れるほど浅くも緩くもなかった、雨上がりやったし。
橋まで結構あったんやけどひとつ決心して人形のところに行くことにしたんや。
―――――それが全部はじまりやったわ、妾も未だ夢かって思うくらいのな。



十分ちょいかかって橋を渡ってから其処までついた時、周りはかわっとった。
最初に見たのは血色の川辺………まあこれは実は珍しい事じゃないんよ。
狗や狐とかには投げられた赤子は格好のご馳走や。
さっき弱ってぶつりは幸せといったやろ?
生きたまま獣に食われるのに比べれば余程幸せや。
獣やし、お行儀とかはありはせん、さんざ血肉は食い散らかすわで
川辺が紅くなるなんて珍しくないんよ。
ほほ、妾も行儀でいえば獣どうこういえんけどな、箸は此処に来る前までは満足に使えんかったし。

もっと凄いのもあるんよ?
赤ん坊が赤ん坊を食おうとする、なんてのもあんまし無いけどあるんや。
流れてきてぶつかった赤ん坊をまだ元気のある赤ん坊がその指にしゃぶりついてがぶり、なんてな。
旦那さん、餓鬼ってこういうのをいうんかねえ………あ、話の続きな。
急かさんでも夜は長いから大丈夫や。

ま、そんな訳で別に赤いからぐらいじゃ妾はきょうさめん。
妾が肝を抜かれたのは、『立っていた』んよ、投げられて地面に倒れていた人形がな。
良く見るとな、人形の周りには狗だったものが散乱しとる。
嗚呼、そういえば何時もより紅い訳やと得心したわ。
赤子の他に狗どもの血肉までも一緒に散乱すりゃその分もっと赤くなるわ。

綺麗やったなあ、妾は多分これからもあないな綺麗なものは見る事はないわ。
そう人形は艶やかに笑ってつぶやいたんよ。

 「人になれず、肉になって、血のユメを見る……気分はどう?」

しんと周りが黙ったわ。
川のざわめきも、風のささやきも、虫の啼き声も、他の水子達の泣き声も。
くすくすって人形の哂いだけがずっとずっと続いて
………そうしてざっと地面を踏みしめる音が聞こえて…………………………


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