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■ 月下の蜘蛛は露となり―――それでも彼女は笑うのか?

18 名前:『悪魔の妹』 フランドール・スカーレット ◆495/xezQ72 :2007/02/09(金) 17:28:070


 ここには風は通らない。光一つ差さない閉ざされた領域。
 冷たく薄暗い世界。私のほとんどが納められた場所。
 そんなところでも、生まれつきなのか、月の満ち欠けだけは肌で分かる。
 まるでこの目で見たかのように分かる。今日は紅い―――満月の夜。

「―――でよっか」

 だから、私は当たり前のように、外に出た。
 閉ざされた壁を砕き、歪められた空を潰し、封じ込める呪いを引き裂く。
 全ての運命の終わりは、私の右手の中に。
 ただ、それを握り締めれば、私を阻むものはない。
 ―――まあ、面白くないから、あんまり使うことなんてないけど。
 そんなことより、弾をたくさん撃ったり撃たれたりしたほうがはるかに面白い。

 長い階段を飛ぶように駆け上がり、紅い紅い―――月明かりでさらに紅い廊下へ出る。
 音もなく窓を破ると、冷たい風が体を掠めていく。この館は窓も風通しもほとんどない
ので、新鮮な感覚だった。
 ―――導かれるように、外へ飛び出す。
 音もなく、誰にも気づかれないように出て行くのは、なんだかいけないことをしている
ような気がして妙に楽しい。私が興味を持つ、数少ないこと―――外に出ること。
 外には見たことがないものも、壊したことがないものも、世界の果てまで広がっている。
 だから、気が向いたときだけ、私は外を楽しむ。

「……あは」

 空を見上げれば、真円を描く月。血を吸う悪魔の守り神。
 それが座する蒼い夜を、白い雲の狭間を、私は駆けていく。
 外へ。外へ―――
 それだけを気持ちに抱いて。
 足元には、深い森が広がっていた。
 深く―――深い緑色の地平が何処までも続いているような気がした。

 そして、その無何有を阻むのは、大きな結界だけ。


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