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■ 月下の蜘蛛は露となり―――それでも彼女は笑うのか?

19 名前:『悪魔の妹』 フランドール・スカーレット ◆495/xezQ72 :2007/02/09(金) 17:40:320


 結界を壊さないように、注意深く、くぐっていく。うかつに壊すと面倒なことになると、
良く知っている。せっかく内緒で抜け出してきたのに、目立つようなことはしたくない。
 運よく見つけた綻びに身を躍らせ―――ほら、出てきました。
 ぽつぽつと地上に光が見える―――外の人間の街。普段見ることすらない、空を突く建
物の並ぶ人間たちの城。今は夜だから、誰も出歩いてはいないけれど。目印にするには十
分だった。背が高いから、見失うこともない。
 足元の森が消えたところで、私は歩いてみることにした。
 音もなく空を下って、足元の硬い感触を楽しむ。

「よくこんなので歩けるなあ。疲れないのかな」

 かつ、かつ。
 わざと足音を立てて歩く。
 ―――途中で加減を間違えてめり込ませてしまったけど、別にいいや。
 立ち並ぶ灯りは、夜でも遠くまで見える。私には必要ないけど、便利なものなのだろう。
 ただ、それでもわだかまる闇を消せはしない。

「……あら」

 慣れ親しんだ匂い―――血の香り。
 なんでだろう。
 気が惹かれる。だから、それを辿りながら足を向けていく。
 闇へ、闇へと―――


 見つけた。


「ねえ、貴方は何をしてるのかしら」

 声をかけてから、ちりちりと背筋が熱いことに気がつく。
 足元には血が満ちている。それが気分を高揚させる。
 彼のいる袋小路は―――血で描かれた油絵のようになっていた。
 血と、肉と、死。
 非日常が―――生きている間では味わえない幻想が満ちている。

 ―――背筋の感覚が何なのか、思い出す。

 そうだ。私と対等に遊べる遊び相手と出会ったときだ。
 思わず、顔が笑う。嬉しさを押さえ切れなかった。

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