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■ 月下の蜘蛛は露となり―――それでも彼女は笑うのか?

25 名前:『悪魔の妹』 フランドール・スカーレット ◆495/xezQ72 :2007/02/10(土) 00:01:450


 背筋が熱い。高揚しすぎて燃えてしまいそう。
 三つの亡骸に、鮮やかな紅い筆遣い。燃え上がるような色彩は文字通り炎を描いて――
硬い地面と高い壁をキャンバスみたいに仕立て上げている。

 画伯は、目の前の彼。
 優雅に、大げさに一礼するその姿が、とても気に入った。

「素敵な絵ね。それに貴方も。こんな血の匂いでそんな嬉しそうな顔が出来るのなんて、
私は一人しか知らないわ」

 その一人はお姉さま。運命を手に握る紅い悪魔。
 ―――私は、その妹。

「フランドール・スカーレットと申しますわ、絵描きのお兄さん。今日は月も綺麗だから、
ちょっと散歩に来たの。誰にも気づかれないように―――こっそりとね」

 くすりと悪戯っぽく笑う。一歩下がってスカートを持ち上げ、丁寧に一礼を返す。
 淑女の嗜みは大事な物。私も壊せない素敵な決まりごと。

「ところで、この絵。今日はどれだけ描いたのかしら。見たところ、筆はなかなか早いと
思うんだけど。これは―――三つで一つの絵になってる、ってところかしらね。躍動感が
あって好きよ、こういう絵。まるで何かが燃え上がってるみたいで―――綺麗」

 命の流れで描かれた絵画は、生き物のように揺らめく錯覚を覚える。まるで絵の具自体
が生きているようにゆらゆらと―――むせ返る血の匂いがそうさせるのだろうか。騙し絵
みたいに炎の抽象画がちらつく。

「出来れば、描いてるところも見てみたいわ」

 こみ上げる愉快さに、笑みを浮かべながら、私はそういった。
 ―――この人は、どんな風に私を魅せてくれるのだろう。
 その期待が、胸の奥の鼓動とともに、少しずつ膨らんでいった。


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