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■ 月下の蜘蛛は露となり―――それでも彼女は笑うのか?

29 名前:七夜志貴 ◆nb.mURders :2007/02/10(土) 22:40:090
 無防備であどけない少女とは言え、壮絶で凄惨な絵を見せるこの空間に立つコトができるのだから、
手を抜くわけにも行くまい。
 なにより、『線』も『点』も辛うじて見える程度なのだから―――――まったく、俺も誰かのコトは笑え
やしないようだ。

 感謝するよ、兄弟。  ―――――オマエの体質のお陰で愉しめる。

「                        」

 逆手に構えたナイフは物欲しそうに怪しげな光を鈍く放ち、紅い月よりなお紅い液体を滴らせる。それ
はまるで品のない犬のような姿だ。
 しかし妄りに振舞う女のような芳香に、否が応でもこの躯は反応する。


            手が、
                腕が、
                    足が、
                        脚が、
                            心音が、
                                 思考が、


                          早く―――
                        速く―――
                      疾く―――


 殺せ、殺せと発情したかのように、囃し立てる。

 まあ、待て。
 未だ夜は長く、月は空を我が物としたかのように天に収まり、太陽は惰眠を貪っている。
 ならば吾等に残された時間は両の手で抱えきれぬほどに存在し、絶頂に到るまでは十分以上に
有り余っている。

 舞台の幕は上がったばかり。
 一幕一場は状況の説明以上の意味はなく、それが殺し合いともなれば小競り合いもいいところだ
というもの。
 巧く殺すのは二の次に、一先ずは挨拶を交わそうじゃないか。

 地を這うように腰を落とし、疾走を開始する。
 この程度なら十分対応できるコトを願っておくよ、お嬢さん?


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