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■ 月下の蜘蛛は露となり―――それでも彼女は笑うのか?

51 名前:『悪魔の妹』 フランドール・スカーレット ◆495/xezQ72 :2007/02/21(水) 05:32:480


 蔓が建物をひねり潰しながら降り注ぐ。
 その中を、掠りすらせずかわしていく―――軽やかなステップ。
 見惚れるような身のこなし。まるで翼が生えている。もしくは空を飛んでいる。地上を
離れて駆け往く姿は空の星。流星にも似た残像一閃。きらめくナイフ。私は突然貫かれた。

「―――いたたたた。よくここまで跳べるね」

 手だけを。
 掴み取ろうと伸ばした手のひら。そこに、あの無骨で日本的なナイフが貫通している。
流れ出す血は紅く赤い。果実を潰した甘露のようで、思わず心惹かれる。でも、私の血を
私が飲んでもあまり意味なんてないから、痛みを忘れてそっと振り払った。
 離れていくおにいちゃん。着地も危なげなく、猫みたいに鮮やかで素敵。

「私に怪我させたのって、何人くらいかしら。人間だと三人しか知らないわ」

 零れ落ちる赤い血を、そっと舐め取る。痛みはあるけど刃創はない。便利なのか不便な
のか分からない、治る早さ。痛みも一緒に治ればいいのに。
 でもまあ、我慢できるからいいや。
 それより向こうは待っている。
 次の曲目、演目を。
 リードすべきステップを。

「それじゃ、いくよ。上手く避けてね」

 私は杖を―――災いの杖を、バトンのように回しながら、頭上に掲げる。
 天には月。赤い光。突き刺すように、杖が止まる。

「―――Lavateinn.」

 囁くように、その術の名を唱える。
 ―――杖に光と炎が走った。
 暗い紅色の熱を肌に感じる。螺旋のように絡みついて伸びる炎。それは天を天を天を切
り裂くように夜を駆け抜けて―――巨人の剣になる。
 手になじませるように何度か振り回すと、火の粉が飛び散っては建物を砕いて溶かして
いく。この術だけは、加減がしづらい。けれど、もともと気にもしていない。
 だから―――

「せーのっ!!」

 笑いながら、真っ直ぐに振り下ろす。
 搭が崩れていくような一撃が、志貴おにいちゃんに落ちかかる。
 圧倒的な炎の滝。どうかいくぐって向かってくるのか、楽しみだった。

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