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■ 月下の蜘蛛は露となり―――それでも彼女は笑うのか?
- 60 名前:七夜志貴 ◆nb.mURders :2007/03/07(水) 22:05:320
「―――――それはそれは、光栄だ」
少し離れた位置から深い一礼と共に、溜息混じりに漏らす。
―――――やれやれ、”死に難い”とは十分過ぎるほどに理解していたが、千載一遇の好機を潰される
とは思いもしなかった。まあ、だからこそ愉しめるんだけどね。
嗚呼―――――紅の君よ。
その余裕に満ちた、気品と優美さを兼ね備えたあどけない顔は、どう苦痛に歪んでくれるのかな?
その鈴の音のように清らかに流れる声は、どれだけ切ない喘ぎを漏らしてくれるのかな?
その程度の苦痛に喘ぐ声じゃ、まだまだ俺は満足できそうにないんだ。
願わくば―――――死に到るその瞬間まで、君は君のままで居てくれないか。
死とは一瞬の出来事だ。
連続性などあったものではない、刹那に刻まれるべき芸術。長く時間を掛けていたんじゃ見苦しい駄作
しか出来上がらない。空に大輪の華を咲かせるように、澱みない芸術であるコトが望ましい。
だからこそ、最後まで。最期まで―――――
「二幕一場開幕で御座います。観客の皆様は首などの存在の確認をお願い申し上げると同時に、最期の
一時までごゆるりと鑑賞の程をお願い申し上げます―――――」
目の前にはその身にまとう赤よりもなお紅い炎の剣。あどけない少女が握るには、余りにも無骨で、例え
るならばそれはまさに炎で作り上げる巨山。
その軌跡の後には何一つとして残さず、灰すら昇華し浄化を待つだけだ。
そして、付き従う従者は統率が取れた軍隊のように一部の隙すら存在しないまま隊列を組み、主に敵対
する全てのモノに、今まさに牙を向けようとしている。
は―――――こんなにも月が紅いから、”殺す”にはいい日だ。
「なお、当舞台は生死に関わる舞台で御座いますので、観客の皆様は巻き添えに十分ご注意下さい」
地を這う獣は疾走を開始する。なによりも速く、その先が絶望のみが待ち受ける死地だったとしても、そん
なコトは些細な問題だといわんばかりに駆け抜ける。
右手にはなんの捻りもない無骨なナイフを。幾人もの血を吸い、幾人もの油を呑み、幾人もの骨を喰らっ
た生涯代わるモノなど見つけるコトができない半身。
今日もまた蹂躙に蹂躙を重ね、犯しに犯した血塗られた短刀は、月明かりを反射し鈍く輝きを放つ。その
刀身に移る己の顔には壮絶な笑みが張り付き、さながら悪鬼―――いや、羅刹。殺すコトのみを突き詰め
た修羅。
左手には―――――無造作に拾い上げた、死者の生首。
死相は恐怖に歪むでもなく、悦楽に微笑むわけでもなく、眠ったように静かでもなく、ただ驚きのみを写し
ている。
まあ、驚くだろうね。
なんと言っても首だけで飛べるんだから、さ――――――!
振るわれる剣の支点―――――担い手の腕に向かって投擲。
さして障害になる筈もなく、されど僅かに剣速は鈍る。
だが吾にとってその一瞬、その一刹那が十分に活路としての価値が生まれる―――――。
疾走の勢いを殺さぬままに進路変更。目の前には壁。様々な余波で今にも崩れ去りそうなビルの壁を
蹴り上げ、昇り、空を翔る。
振り下ろした勢いをそのままに振り上げるコトなど、彼女にとっては朝飯前と言ったところだろうが、生首
に刹那の時を奪われてしまえば話は別だ。凪払いでは高さが足りぬ位置まで昇ってしまえば、空間の制
圧は不可能ではない。
ボコボコとコンクリートの壁が沸騰する音がする。
だが―――――遅い。
吾を殺したくば音よりも速く、刹那よりも短い時に生きてくれなくては。
中空でくるりと反転。
背後に回り―――――
「―――――覚えておけ、これがモノを”殺す”というコトだ」
銀の輝きが断ち切るは歪な線。
彼女の直線位置にある電灯に浮かぶ無様なラクガキをなぞれば―――ほら、”死”んだ。
やれやれ―――――折角興が乗って来たと云うのに、無粋な。人口の赤い光が微かながらも遠くに
見えるのだから始末に終えない。
オマエ達は知らなくていいんだよ。―――――知れば後戻りできないんだから、さ。
存分に”殺せる”んだ。
場所を変えるとしよう。なに、アレは必ず着いてくる。同じモノを持つのならば、確実に。
向かうは深海にも似た深林。闇に紛れ狩るには絶好の狩場だ。
―――――さあ、二幕の序章は終わりを迎えた。
即興曲に合わせ終わりを目指して行くとしよう―――――。
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