■掲示板に戻る■ 全部 1- 101- 最新50 read.htmlに切り替える ファイル管理
■ 月下の蜘蛛は露となり―――それでも彼女は笑うのか?

67 名前:『悪魔の妹』 フランドール・スカーレット ◆495/xezQ72 :2007/03/22(木) 02:57:160


 結界を壊さないように、注意深く、くぐっていく。うかつに壊すと面倒なことになると、
良く知っている。せっかく内緒で抜け出してきたのに、目立つようなことはしたくない。
 運よく見つけた綻びに身を躍らせ―――ほら、出てきました。
 ぽつぽつと地上に光が見える―――外の人間の街。普段見ることすらない、空を突く建
物の並ぶ人間たちの城。今は夜だから、誰も出歩いてはいないけれど。目印にするには十
分だった。背が高いから、見失うこともない。とりあえず、ぴかぴかと光る大きな看板を
ぶらさげたあの建物を目印にしよう。
 足元の森が消えたところで、私は歩いてみることにした。
 音もなく空を下って、足元の硬い感触を楽しむ。

「よくこんなので歩けるなあ。疲れないのかな」

 かつ、かつ―――
 わざと足音を立てて歩く。楽器を奏でるように強弱とテンポを変えながら、踊るように
足を進めていった。途中で加減を間違えてめり込ませてしまったけど、気にしないでおく。
きっと誰かが直すだろう。咲夜みたいに有能な人がいれば、だけれども。
 道に立ち並ぶ灯りは、夜でも遠くまで見通せるようにと、立てられたのだろうか。
 私には必要ないけど、人間にはきっと便利なものなのだろう。
 ただ、それでもわだかまる闇を消せはしない。

「……あら」

 慣れ親しんだ匂い―――血の香り。
 無機質な外の香りに混じって、じわりと実在を意識する印象。
 なんでだろう、慣れてるはずなのに、その香りに気が惹かれる。
 だから、それを辿りながら足を向けていく。
 闇へ、闇へと―――縫うように建物の影を渡り歩いて。

 見つけた。

「ねえ、貴方は何をしてるのかしら」

 声をかけてから、ちりちりと背筋が熱いことに気がつく。
 足元には血が満ちている。それが気分を高揚させる。零れ落ちているのが少々もったい
ないけれど、それはとても綺麗に夜の明かりで照らされて、美味しそうにも見える。
 彼のいる袋小路は―――血で描かれた油絵のようになっていた。
 血と、肉と、死。
 非日常が―――生きている間では味わえない幻想が満ちている。

 ―――背筋の感覚が何なのか、思い出す。
 そうだ。私と対等に遊べる遊び相手と出会ったときだ。




124KB
新着レスの表示

掲示板に戻る 全部 前100 次100 最新50 read.htmlに切り替える ファイル管理

名前: E-mail(省略可)
画像:

削除パス:
img0ch(CGI)/3.1.10