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■ 名護啓介 VS 有角幻也 闘争会議室

1 名前:[-{}@{}@{}-] 名護啓介 ◆753/IdWG5E :2008/05/24(土) 20:35:46
このスレは 私と彼―――有角幻也の闘争のための会議スレです。
それ以外の人間およびファンガイアの侵入、書き込みを禁止します。

2 名前:有角幻也 ◆rX9kn4Mz02 :2008/05/24(土) 21:32:15
 
……此処か、会議の場所は。
 
【どこかの脱獄囚じみた第一声だが、そんなことはどうでもいい】
 
 
…それは兎も角だ。
シチュエーションは向こうで提案した通りだが、それで構わんなら次は闘争までの流れを
決めねばならん。
 
最初の導入は街角で遭遇するとしても、そうだな。
昼下がりのオープンカフェ辺りで、お前の捕り物に巻き込まれるのがらしい”だろう。
互いの情報は(会うまでは名前くらいだが)ある程度知っているか、或いは、後に上から素性を
聞かされるか。
ただし、顔を会わせたのは完全なまでの偶然という事にしたい。
   
その後は私の素性を聞かされたお前が尾行。
そして、それに気づいた私が平成の採石場に誘導するといった具合だ。
  
 
一先ずはこんな所か。
闘争までの因縁に繋げるためにも、導入からある程度仕込みは行っておきたいが。

3 名前:[-{}@{}@{}-] 名護啓介 ◆753/IdWG5E :2008/05/24(土) 21:51:18
お待たせしました。
>>2
なるほど、では導入はこのような流れになるかと。

フィットネスクラブで嶋さんから「近々監査が入ることになる」と聞かされる

ボタン狩り

偶然出会う

正体を知る

襲撃及び戦場までの誘導

私としては、やってみたい……いや、やっておきたいネタが一つあります。
それは「イクサナックルで走っている車の電子制御系統を焼き切る」という物です。
公式サイトでの説明にあったように、イクサナックルの戦闘以外での用途に挙げられているシチュエーションですね。
……交通事故に見せかけることが出来て、非常に便利な機能だと思いませんか。

4 名前:[-{}@{}@{}-] 名護啓介 ◆753/IdWG5E :2008/05/24(土) 21:56:37
あともう一つ、挙げるとすればこの闘争のサブタイトルです。
キバ本編に倣い、「音楽に関連する用語・音楽記号・その回にあったフレーズ」という構成で
サブタイトルを付けたいのです。
音楽記号は、機種依存文字よりもマイナーな存在なのでこの際オミットしますが。

とりあえず、不協和音という意味の「ディスコード」を使いたいのですが……。

5 名前:有角幻也 ◆rX9kn4Mz02 :2008/05/24(土) 22:18:30
>>3
 
了解した。
ならば、最初はそちらの
 
・「近々監査が入ることになる」と聞かされる
 
場面からだな。
その後は私が捕り物に遭遇するシーンだが…。
 
・有角のレス 
 昼下がりのオープンカフェで休憩中
 または監査に関することで、何らかの待ち合わせ中
             ↓
・名護
 ボタン狩りのターン。
 逃げる犯罪者にパーフェクトハーモニーを奏でる。
             ↓
・有角
 共犯者が名護を拳銃で狙った瞬間、とっさの投げナイフ(またはスプーン)で鎮圧。
 (名護にとっては避ける事など造作もないが、射線上には子供が)
 その件で名護をたしなめるかもしれない。
            ↓ 
・名護
 偶然出会う。恐らく名護にとってはすごく悪い第一印象。
 
 
正体を知るのは後日か、或いは出会った時か…それはどちらでもいいだろう。
 
  
申し出の方も了解した。
  
ttp://www.supercarnet.jp/LamborghiniWEB/Miura-21.jpg
 
この闘争で、私が使用するランボルギーニだ。
中身は「私の仕事にも使える」程度の別物だがな。本来はバイクとのカーチェイス用に想定していた。
予備システムとニトロくらいは積んであるかもしれんが……そうだな、「事故」に見せかけるには丁度いいか。
  
一つ聞くが、それは襲撃〜誘導の場面で使う予定か?
ちなみに此方はどの辺りでも構わん、好きに仕掛けるがいい。 

6 名前:有角幻也 ◆rX9kn4Mz02 :2008/05/24(土) 22:24:23
>>4
 
そうだな…。
此方も自身の原典に習い、「〜の〜曲」といった構成を考えていた。
ならば私の原典でもある「月下の夜想曲」から取って、
 
・「月下の不協和音(ディスコード)」
 
 
……安直とは思うが、そんな事はどうでもいい。
ともかく、その要望は受け入れよう。

7 名前:[-{}@{}@{}-] 名護啓介 ◆753/IdWG5E :2008/05/25(日) 21:20:43
やぁ!
【ボタンを手に入れた喜びが溢れ出た笑顔で】

まずは、昨日返しきれなかった分の返答を。

>>5
>一つ聞くが、それは襲撃〜誘導の場面で使う予定か?
>ちなみに此方はどの辺りでも構わん、好きに仕掛けるがいい。 
そのつもりです。
現在の自動車は、燃料制御などにコンピューターが使用されているそうなので
運転中に電子系統を破壊された場合、強力なエンジンブレーキが突然かかることになると思います。

>>6
サブタイトルですが、提案された「月下」を加えて
「ディスコード 月下の決闘(ショウダウン)」というのはどうでしょうか。

8 名前:[-{}@{}@{}-] 名護啓介 ◆753/IdWG5E :2008/05/25(日) 21:24:33
続けて、導入の「監査が入ると聞かされる」部分の草案です。

[導入1]
―――とあるフィットネスクラブの一室。
最新鋭のマシンが所狭しと並ぶ中で、一人の壮年男性が汗を流していた。
決して急がず緩まずのペースを維持しつつも、その目線は液晶画面上で変動し続ける、自身の体脂肪率に注がれている。
彼の名は嶋護。有数の資産家として各界に強力なコネクションを有する男。
そして、『ファンガイア』と呼ばれる吸血種に対抗するべく結成された『すばらしき青空の会』のリーダーでもある。

「監査、ですか」
嶋の傍らに立っていた青年が、反芻するように問う。
「そうだ、ある政府機関が我々『すばらしき青空の会』が“吸血鬼ハンターの組織”として正常に機能しているかどうかという事が気になっているらしい」

吸血鬼ハンターは、大きく二つに分けられるといっても過言ではない。
一つは、バックボーンを持つもの。もう一つはバックボーンを持たざるものだ。
この場合のバックボーンとは、権力的な背景を指す。すなわち、政府や宗教だ。
バックボーンを持たざるハンターは個人零細の自営業として、吸血鬼を狩るだけでなく日々の糧を得る為に腐心せねばならない。

しかし、『すばらしき青空の会』は違う。嶋の財力とコネクションに支えられた私的なハンター組織だ。だが、そのバックボーンが有する権力は、政府や宗教のそれと比べてもなんら遜色は無いと言える。
つまり、その政府機関は『すばらしき青空の会』がハンター組織以上の存在に変化することに危機感を覚えたのだ。

「……それは杞憂でしょう。私のような優れたハンターの存在と、イクサへの嫉妬が彼らの目を曇らせているに過ぎません」
青年―――名護啓介はやや優越感が滲んだ笑顔を浮かべてみせた。
「君ならそう言うと思ったよ……体脂肪率8%。完璧だな」
目標に達したのか、嶋はフィットネスマシンを停止させ運動を切り上げる。

「現時点で私が把握しているのは、監査官の名前だけだ……関係先には青空の会のメンバーが居ないので、それが精一杯というところなんだ」
嶋は、傍らのマシンに掛けてあったタオルで汗をぬぐいながら、名護が今もっとも欲するであろう答えを提示した。
「構いません、素性を調べるのは監査官が来てからでも遅くは無いでしょう。……で、その監査官名前は」

「―――有角、幻也。名前がわかった時点で素性は調べさせているが……もう少し時間が掛かりそうだよ」


監査が入る理由について、もう少し考えてみましたがどうでしょうか。

9 名前:有角幻也 ◆rX9kn4Mz02 :2008/05/25(日) 22:48:36
>>7
 
了解した。
…制御不能と聞いて、
「ブレーキが利かない→衝突→横転→死亡確認? →脱出済みで背後に」
というネタも考えたが、簡単に潰しては始末書ものでな。
車を潰すのは、別のネタのために取っておくとしよう。
 
【結局壊す気か】
 
 
>サブタイ
……そうだな。
それでもいいが、最後の部分だけを差し替えて
   
「〜ディスコード〜 月下の競奏曲(コンチェルト )」
  
というのはどうだ? 
コンチェルトは各楽器(群)が掛け合いで競いあうことから、かつて競奏曲と呼ばれていた。
今回の闘争は競い合いを越え、互いを否定するために奏でる、いわば不協和音同士の競奏曲ともいえる。
互いの条件は満たしていると思うが……返答を聞こう。
 
>>8
委細、確認した。
確かにそういった理由が自然だな…分かった、それで頼む。
  
次は俺の番だ。
同じく草案程度になるだろうが、書き次第上げておくとしよう。

10 名前:名護啓介 ◆753/IdWG5E :2008/05/29(木) 21:32:49
……お待たせ。
【四日ほど空いた申し訳なさとボタンが欲しい一心が入り混じった表情で】

>>9
サブタイトルの件ですが、それでいいと思います。
ただ、協奏曲を狂想曲(カプリッチオ)と掛けて『狂奏曲』とすると言うアイデアも浮かんできたのですが。

……別に私のボタン欲しさの振る舞いに掛けたわけではないのですよ?

時間が空いたため、次のボタン狩りのシーンまで筆が進んだので投下しておきます。

11 名前:名護啓介 ◆753/IdWG5E :2008/05/29(木) 21:34:37
[導入3(邂逅)]

その日、名護啓介はハンターとしての仕事に勤しんでいた。
ただし、相手はファンガイアではない。人間の、それも指名手配犯だ。
世間的には、名護啓介という人物は腕利きのバウンティハンター(賞金稼ぎ)として知られている。
(名護自身は、「バウンティハンター」と呼ばれるよりも「正義の味方」と呼ばれることを好んでいるが)
それも、報酬を全額恵まれない子供のために寄付している変わり者のハンターとして。

慌てふためきつつも、人込みを切り裂くようにして逃げる犯人。
鍛え上げられた肉体を全力で奮い、彼我の距離を詰める名護。
ゼノンのパラドックスが差し込む隙さえ無い、一方的な追跡劇は名護の勝利によって打ち切られる。名護の手が犯人の腕を掴んだのだ。

腕ごと引き寄せた犯人の身体が宙を泳ぐ。両肩を絡め取られ、有効な反撃手段を封じられた犯人の鳩尾目掛け、名護の膝が一直線に走る。
名護が指名手配犯と交戦する際は、確実に相手の行動を封じる一撃が初手になるように攻撃を組み立てる。
武器を持っているかもわからない相手に徒手空拳で挑む為の鉄則を忠実に守っていると言えるだろう。
そして、相手が立ち上がり反撃に移ろうとする瞬間に体勢が崩れるほどのロングストレートを叩き付ける。
反撃に移るたびに打撃を浴びせられ、気勢を削がれ抵抗する力を失った犯人が道路に倒れこんだ。

犯人を取り押さえた名護は、犯人の胸元のボタンに手を伸ばし服から千切り取る。
「このボタンは頂いておきます。貴方を捕まえた、記念にね」
―――このボタン集めは、名護の最大の特徴であるといっても過言ではない。
バウンティハンターとなるより昔、名護の心の奥底に刻み付けられた習性だ。
そして、手中に収められたボタンは“証”として輝き続ける。名護啓介という人間が、己の正義を万人に知らしめた足跡と共に。


しかし、今回はいつもと違っていた。
名護の口上は、雷鳴を思わせる轟音で断ち切られたのだ。
その轟音が耳に届いた瞬間、名護の身体は緊張状態へと入った。

―――これは銃声だ。俺が、撃たれた?

   撃たれた場所はどこだ? 痛みを感じない、いや感じられない状態なのか?―――

脳が情報を求めて全身の神経を励起させる。生存本能が求めたレスポンスが返って来るまでの一瞬は、体感的に無限に等しいほどに引き伸ばされていく。
実時間で5秒を数えた頃、名護は自身の肉体に何の損傷を受けていないことを把握した。自我の視点は内面観察から外界の把握へ切り替わる。
制圧した犯人の相貌には、驚きと諦めの色が浮かんでいる。諦めの意味は判る。余りにも大きすぎた実力の差と、正義に抵抗する愚かさを思い知ったと言うことだろう。
では、驚きの意味は何か? そう考えると、先ほどの銃声の意味も自ずと判って来る。

―――仲間が居たということか。
想定の範囲外、という使い古されてきた言葉を使うほどの事実ではないだろう。指名手配犯が長期間逃走を続ける為には協力者の存在は必要不可欠だからだ。
そして、万が一のために付かず離れずの距離を保ち護衛を務めていたというわけか。
―――では、万が一の事態のために放たれた銃弾はどこに行った?
犯人の視線の先に在ったのは、手を押さえた一人の男の姿。足元には拳銃が横たわっている。これが先ほどの銃声の主だろう。

男が手を取り落とした拳銃に伸ばそうとした瞬間、その手は名護によって踏みにじられていた。ぎゃあ、と短い悲鳴を上げた男をバックナックルで一撃加える。


====
※以降は、そちら側の動きに合わせて修正することになると思いますが参考のために。

12 名前:有角幻也 ◆rX9kn4Mz02 :2008/05/29(木) 22:57:57
>>
 
[導入2]
 
 
>>
 
 
昼下がりの穏やかな一時。
太陽を優しく受け止めるイチョウの淡い緑が、並木道を染め上げる。
そよ風に乗り、木々のかすかなざわめきに混ざるのは人々の声であろう。
あるテーブルでは長年連れ添った老夫婦が語らい、また隣のテーブルを囲んでいるのは親子連れか。
気心の知れた友人同士が軽食を、付き合い始めたばかりの恋人達が談笑している。
  
場所は青山、銀杏並木通りに面するオープンカフェ。
ランチタイムの繁忙期こそ過ぎたものの、日曜である今日に限っては客足も常より多く、
喧騒というには間延びした、平和そのものといえる緩やかな時間が流れていた。
東京とは思えない、緑があふれる一角のオープンテラス。
その席の一つに、一人の男が座っていた。
 
 
――――それも、この場にはおおよそ相応しくない、全身黒ずくめの美丈夫である。
まるで彫刻を思わせる端整な顔立ちに、闇を解かしたような黒い長髪。
均整の取れた体を包む細身の黒いダブルスーツは、ブリティッシュ・モデルの本場『サビル・ロウ』の
オーダーメイド。
胸ポケットの赤いスカーフがアクセントとなり、スーツの深い黒を更に際立たせている。
そして注文したカプチーノを軽く片手に、目を通しているのはニューズウイークの英語版。
 
それでも。
この非日常の象徴のような男の姿は、この場所という「日常」の風景に溶け込んでいた。
『誰も気づかず、振り向かないのが紳士の服装である』。
まるで紳士服の歴史に革命をもたらしたダンディズムの祖、ボー・ブランメルの言葉そのままに。
それは男が自らの気配を消し(そも、高級なスーツからして男は自然に着こなしていた)、順応しているのか。
それとも、この男の尋常ならぬ美しさが、周囲の風景すら従えて同調させているのか―――。
そう。
今は周囲に埋没してこそいるが、そう錯覚してしまいそうなほどに男は美しかった。
それこそ浮世離れした、いや、人間離れですらある一人の美しき男。
 
 
男の名は、有角幻也という。
 

13 名前:有角幻也 ◆rX9kn4Mz02 :2008/05/29(木) 22:58:36
>>
 
  
内閣調査室。
政治的立場の脆弱さゆえ、その主な力を国内の暗部調査へ向けざるを得なかった諜報機関。
中でも機密の任務に携わる非合法要員は別名『内調特務』と呼ばれ、分野に応じ特別な予算と権限
を与えられた便利屋として使役される。
  
中でもこの男―――有角幻也は、オカルト・超常現象に長じた希少なエージェントであった。
 
日本における退魔機関の大半は寺社に属する特殊戦闘の集団であり、対化物の殲滅・浄化にのみ特化している。
そのため情報の収集といった分野は協力体制にある公安に依存するほかなく、だが公安には対化物の技術も
装備も有していないのが常だ。
例外は朝廷の禁衛府から派生したと言われる『聖霊庁』と政府直属の特殊機関『森羅』だが、前者は
権限と能力面の問題から調査部門と実行部門は分割され、後者において調査能力はあくまで付随す
る要素に過ぎない。
 
そして現代、オカルトが社会の複雑な構造の陰で潜む時代において。
吸血鬼や悪霊といった常ならざる存在に熟知し、対処できる諜報局員(エージェント)の存在は極めて貴重といえた。
優れた情報収集能力と、必要とあれば障害を排除しうる高い戦闘能力―――それらを併せ持つ人材は各所で求められ
ていたのだ。
 

有角幻也。
日本政府の誇る超一流の退魔要員、命を無視されたオカルト専門のイリーガル。
その美しき男は今、調査室長より特別な依頼を受けていた。
 
 
―――『素晴らしき青空の会』。
そう呼ばれる秘密組織への、徹底的な監査の指揮を。
 

14 名前:有角幻也 ◆rX9kn4Mz02 :2008/05/29(木) 22:59:08
>>
  
 
『素晴らしき青空の会』。
表向きはボランティア/健康的な生活を目的とした非営利団体と法人登録されている。
―――そう、表向きは。
 
その本来の姿は22年前、一人の男が創り上げたハンター組織である。
ハンターといっても、狩るのは猛獣の類などではない。
それよりも遥かに強大で狡猾な存在、いわゆる『ヴァンパイア』の殲滅を目的とした組織だ。
なかでも当時、爆発的に勢力を伸ばし始めた“異種”―――コールネーム『ファンガイア』を
狩るために創られた組織だ。
 
最大の特徴は、バックボーンを持たないということ。
すなわち政府や宗教といった、帰属する母体を持たないのである。
本来はそうではない。あらゆる巨大な組織において、バックボーンとは必要不可欠な存在なのだ。
かの有名な英国国教騎士団しかり、ヴァチカンの聖堂教会、西欧聖霊庁特務、そして1999年の
『バトル・オブ・ブリテン』以降衰退したイスカリオテといった教会の代行者しかり。
その構造特有の問題こそ生じるものの、巨大な暴力を所有するハンター組織は、統治する存在を
別とするシビリアン・コントロールの構造を取る事によって長年存続してきたのだ。
   
だが、『素晴らしき青空の会』は異なる。
創設者が財界・政界への強力なコネクションと財力で築き上げた個人の組織だ。
端的に言えば、創設者の意によって動く『私兵』の集団であるといえた。
それも、個人のレベルを逸脱しつつある程の規模・ネットワークを有している。
例えば、表の顔とされている法人団体。
そこに属するメンバーだけを見ても、大物議員の二世三世、日本が誇る企業グループの会長、
防衛庁の元長官といった、隠然たる権力を持つ大物の名が連なっている。
はてには国境を越えた名誉会員と称して、某外資企業の筆頭株主(その企業の母体は軍需産業で知られる)
などといった者までいた。
裏側の非合法なメンバーまで調べれば、或いはそれ以上の大物がかかるであろう。
この調子で拡大を続ければ、世界を征服できる―――というのはこと大袈裟に書かれたゴシップ誌の記事だが、
将来の危険性という意味では決して間違いではない。
 
   
急速に発展した、特別な武力を所有する大型組織。
たとえ創設者が政財界にコネクションを持とうとも、いずれ危険視されるのは当然といえた。
それは、組織に属する議員とは異なる派閥の中で。
或いは、純粋に肥大化した組織を警戒する高級官僚の間で。
 
「―――『素晴らしき青空の会』を監査せよ」  
 
政府によって育まれ絡み合った疑心と利害、政治的思惑は内閣調査室への一声となった。
 

15 名前:有角幻也 ◆rX9kn4Mz02 :2008/05/29(木) 23:00:13
>>
 
そして、それゆえに今回の監査で白羽の矢が立ったのが幻也であった。
肥大化しつつある判断された対吸血鬼機関の監査。
ある意味、これほど幻也という男に適した任務もなかった。
こと幻也の冷徹とまでいえる任務への姿勢も、監査という任務には打ってつけである。そう上も判断したのだろう。
   
とはいえ現在、組織そのものを潰す気はない。
政府内の様々な思惑こそ絡んでいるものの、あくまで今回は組織の把握と監査だけに留める。
これは幻也に依頼した“上”と、また幻也自身の共通見解だ。
 
近年世間を騒がした『夜刀の神』の一件―――日本古来の吸血種が引き起こした事件を引金として、
この国でも強力な対吸血鬼戦力が強く望まれている。
無論、日本にも多くの退魔機関が存在する。だが、それら機関の多くが少数精鋭であるように、
この国でも最前線で戦える指折りの執行者は多くはないのだ。
そして、『素晴らしき青空の会』が不足している人手を肩代わりしてくれるならば、それに越したことはない。
監査の結果にもよるが、政府は最終的にハンター組織との協力体制を視野に入れている。
これが予め、すでに定められた互いの着地点。
監査という結論に至るまでに取り決められた、この国特有とさえ言える根回しの結果であった。
  
もっとも、そんな体質など幻也にはどうでもいい。
必要なのは何をすべきかであり、その上で結果を出すのが彼に与えられた役割だ。
状況を把握したうえで政府の思惑が彼の利害と一致さえするならば、彼の行動を妨げないというならばそれで
問題はない。
 
そう、状況の把握だ。
木漏れ日のさすオープンカフェで、幻也は人を待っていた。
『素晴らしき青空の会』の監査を行う上で、必要な情報を得る。それが今ここにいる理由である。
関係者だという公安の人間と、この場で落ち合う約束をしていたのだ。
監査の情報を早くも掴んだのか、接触をしてきたのは向こうからだった。
いち早い情報の取得と行動。だが驚愕するほどではなかった、そもそも意図的に流したようなものだ。
これも前もって行われた“根回し”の結果なのだろう。
 

喧騒というには静かな時間が緩やかに流れてゆく。
――――だが、常ならざる世界を生きるものにとっては僅かな小休止に過ぎない。
幻也という男にとって、全てはこれより始まる狂奏の序幕に過ぎないのだ。
  
 
言ったのは誰であったか。
平和とは、戦争と戦争に挟まる猶予期間であると。
 

16 名前:有角幻也 ◆rX9kn4Mz02 :2008/05/29(木) 23:13:24
 
済まんな、此方も4日ほど掛かった。
 
>>12-15
以上が、此方の最初の導入となる。
……必要な事を盛り込んだ結果4レスになったが、そんな事はどうでもいい。
 
【どこか、遠い目をしながら】
 
>>10
>「〜ディスコード〜 月下の狂奏曲(カプリッチオ )」
 
そうだな…それも悪くはない。
ならば、互いのレスで別々の副題を用いても面白いだろう。
私のレスの副題が「〜競奏曲」、そしてお前のレスの方が「〜狂奏曲」といった具合にな。
  
…最も、微妙な差異のため見分けが付きがたいのが難点だがな。
そんな事は(略
 
次も此方のレス待ちという訳か。
了解した、特に問題はない。
即日とはいかんが、今週中には形にしておこう。

17 名前:名護啓介 ◆753/IdWG5E :2008/06/07(土) 20:12:13
とりあえず、>>11で未完成だった部分から先の導入が出来たので張っていこうと思う。

[3-2]

しかし、今回はいつもと違っていた。
名護の口上は、雷鳴を思わせる轟音で断ち切られたのだ。続けざまに巻き起こる悲鳴。
その轟音が耳に届いた瞬間、名護の身体は緊張状態へと入った。

―――これは銃声だ。俺が、撃たれた?

   撃たれた場所はどこだ? 痛みを感じない、いや感じられない状態なのか?―――

脳が情報を求めて全身の神経を励起させる。生存本能が求めたレスポンスが返って来るまでの一瞬は、体感的に無限に等しいほどに引き伸ばされていく。
実時間で5秒を数えた頃、名護は自身の肉体に何の損傷を受けていないことを把握した。直ちに自我の視点は内面観察から外界の状況把握へと切り替える。
制圧した犯人の相貌には、驚きと諦めの色が浮かんでいる。諦めの意味は判る。余りにも大きすぎた実力の差と、正義に抵抗する愚かさを思い知ったと言うことだろう。
では、驚きの意味は何か? そう考えると、先ほどの銃声の意味も自ずと判って来る。

―――仲間が居たということか。
想定の範囲外、という使い古されてきた言葉を使うほどの事実ではないだろう。指名手配犯が長期間逃走を続ける為には協力者の存在は必要不可欠だからだ。
そして、万が一のために付かず離れずの距離を保ち護衛を務めていたというわけか。
―――では、万が一の事態のために放たれた銃弾はどこに行った?
この状況で共犯者が銃撃する対象は名護以外には考えられない。だが、放たれた銃弾は名護の身体に届いていない。
取り押さえられている犯人の視線の先に在ったのは、手を押さえた一人の男の姿。
足元には拳銃が横たわっている。これが先ほどの銃声の主だろう。
名護は、犯人を無力化するための一撃を正確に叩き込み共犯者の下へと駆け寄った。

共犯の男が、手から取り落とした拳銃に伸ばそうとした瞬間、その手は名護によって踏みにじられていた。
ぎゃあ、と短い悲鳴を上げた男をバックナックルで一撃加える。
男が仰向けで引っくり返ったところで、襟首を掴みボタンを毟り取りながら引き起こす。「貴様ァ……こんな人込みの中で発砲するとは……!」
『正義の味方』を自任する名護にとって、このような卑怯で周囲を省みない振る舞いは悪そのものでしかない。
「恥を知りなさい!」
怒りを込めた右フックを男の顎に放り込み、地面へと叩き伏せる。再び上がる悲鳴。それと同時に、騒ぎを聞きつけた警官が現場に駆けつけてきた。
「そして、生まれ変わりなさい……世界の為になることが出来る人間に」
名護は悠然と、警官達に身分証明を行うために立ち上がった。
その手には、幾つものボタンが数珠繋ぎになったものが握られている。そして、今手に入れたばかりの二つのボタンも、その列に並んでいく―――。

事後処理を終えた後、名護は“共犯者が拳銃を取り落とした原因”となった人物の元へとまっすぐ向かった。
彼の介入が無ければ、流れ弾は周囲の群衆に飛び込み惨事を招いていたであろう。
その人物の居場所はすぐにわかった。混乱に支配された人々の中で、平静さを失わず、かつ何処か冷めた目で状況を把握している男。

間違いなく只者ではない、その男の名は―――

18 名前:名護啓介 ◆753/IdWG5E :2008/06/07(土) 20:18:31
[導入5]
Cafe mald'amour(カフェ・マル・ダムール)。
会長の嶋をはじめとする『素晴らしき青空の会』の会員は、この喫茶店を拠点のひとつとして活用している。
カウンター席に並んで座っているのは、名護とファンガイアハンターの麻生恵。親子三代に渡って『素晴らしき青空の会』と関わってきた女性であった。
名護は、この店自慢のコーヒーを一口啜るのももどかしいかのように恵に切り出した。

「恵くん、君はあの有角幻也という男の事をどう思う?」
恵は、名護の言葉の真の意図を察知しつつ返答する。
「んー、いわゆる“イケメン”……だと思うけど」
はぁ、と大きな溜息。
「俺は君にそういう意見を聞いているんじゃない、あの男が信用に値するかどうかということだ」
「……名護くん、あなたのそういう偽善的で独善的な態度、早く直さないと誰にも好かれないわよ?」
恵が呆れたように名護を窘める。
「あいにく、俺の事を嫌うのは悪人かファンガイアだけだ」
感情を押し殺すかのようにコーヒーをもう一口。

次の瞬間、嶋が店内に駆け込んできた。小脇に茶封筒を抱えている。
「良かった、ここに居たか―――名護君、ようやく彼についての調べがついた」
嶋が持っていた封筒を名護に手渡す。その内容は『素晴らしき青空の会』が持つ情報網をフルに活用して手に入れた『有角幻也』に関する報告書。正に値千金/珠玉の情報。
1ページ目を飾るは当たり障りの無い、戸籍謄本や住民票などの『有角幻也』という人物の公的情報。
その手の仕事屋を高給で雇えば、3日も掛からず偽造することは十分に可能だろう。
仕事柄、裏事情にも通じている名護は興味なさげに読み飛ばす。

数ページほど読み飛ばした所で、報告書は公的な情報とは一線を画す、核心に迫る情報を記し始めた。

===ここまで===

情報の内容の描写が思いつき次第加筆していく予定です。

19 名前:有角幻也 ◆rX9kn4Mz02 :2008/06/11(水) 00:21:54
>>12-15を修正する。
 
[導入2]
 
 
昼下がりの穏やかな一時。
太陽を優しく受け止めるイチョウの淡い緑が、並木道を染め上げる。
そよ風に乗り、木々のかすかなざわめきに混ざるのは人々の声であろう。
あるテーブルでは長年連れ添った老夫婦が語らい、また隣のテーブルを囲んでいるのは親子連れか。
気心の知れた友人同士が軽食を、付き合い始めたばかりの恋人達が談笑している。
  
場所は青山、銀杏並木通りに面するオープンカフェ。
ランチタイムの繁忙期こそ過ぎたものの、日曜である今日に限っては客足も常より多く、
喧騒というには間延びした、平和そのものといえる緩やかな時間が流れていた。
東京とは思えない、緑があふれる一角のオープンテラス。
その席の一つに、一人の男が座っていた。
 
 
それも、この場にはおおよそ相応しくない、全身黒ずくめの美丈夫である。
まるで彫刻を思わせる端整な顔立ちに、闇を解かしたような黒い長髪。
均整の取れた体を包む細身の黒いダブルスーツは、ブリティッシュ・モデルの本場『サビル・ロウ』の
オーダーメイド。
胸ポケットの赤いスカーフがアクセントとなり、スーツの深い黒を更に際立たせている。
そして注文したカプチーノを軽く片手に、目を通しているのはニューズウイークの英語版。
 
それでも。
この非日常の象徴のような男の姿は、この場所という「日常」の風景に溶け込んでいた。
『誰も気づかず、振り向かないのが紳士の服装である』。
まるで紳士服の歴史に革命をもたらしたダンディズムの祖、ボー・ブランメルの言葉そのままに。
それは男が自らの気配を消し(そも、高級なスーツからして男は自然に着こなしていた)、順応している
のか。それとも、この男の尋常ならぬ美しさが、周囲の風景すら従えて同調させているのか―――。
そう。
今は周囲に埋没してこそいるが、そう錯覚してしまいそうなほどに男は美しかった。
それこそ人間離れした、いや、人外じみている程の美しき男。
 
 
男の名は、有角幻也という。
 

20 名前:有角幻也 ◆rX9kn4Mz02 :2008/06/11(水) 00:23:04
>>
 
  
内閣調査室。
政治的立場の弱さゆえ、その主な力を国内の暗部調査へ向けざるを得なかった諜報機関。
中でも機密の任務に携わる非合法要員は別名『内調特務』と呼ばれ、分野に応じ特別な予算と権限
を与えられた便利屋として使役される。
 
中でもこの男―――有角幻也は、オカルト・超常現象に長じた希少なエージェントであった。
 
日本における退魔機関の大半は寺社、ないしは小規模なコミュニティに属する特殊戦闘の集団であり、
対化物の殲滅・浄化にのみ特化している存在だ。
そのため情報の収集といった分野は協力体制にある公安に依存するほかなく、だが公安には対化物の
技術も装備も有していないのが常であった。
例外は朝廷の禁衛府から派生したと言われる『聖霊庁』と政府直属の特殊機関『森羅』だが、前者は権限
と能力面の問題から調査部門と実行部門は分割され、後者において調査能力はあくまで付随する要素に
過ぎない。
 
そして現代、オカルトが社会の複雑な構造の陰で潜む時代において。
吸血鬼や悪霊といった常ならざる存在に熟知し、対処できる諜報局員(エージェント)の存在は極めて貴重
であった。
優れた情報収集能力と、必要とあれば障害を排除しうる高い戦闘能力―――それらを併せ持つ人材は各
所で、幾多の局面で求められていたのだ。
それゆえに幻也のこなすべき仕事は多く、また結果として一流と評され、更に多くの案件と功績を持つ事となる。
  
 
有角幻也。
日本政府の誇る超一流の退魔要員、命を無視されたオカルト専門のイリーガル。
その美しき男は今、調査室長より特別な依頼を受けていた。
 
 
―――『素晴らしき青空の会』。
そう呼ばれる組織への、徹底的な監査の指揮を。

21 名前:有角幻也 ◆rX9kn4Mz02 :2008/06/11(水) 00:23:33
>>
  
 
『素晴らしき青空の会』。
表向きはボランティア/健康的な生活を目的とした非営利団体と法人登録されている。
―――そう、表向きは。
 
その本来の姿は22年前、一人の男が創り上げたハンター組織である。
ハンターといっても、狩るのは猛獣の類などではない。
それよりも遥かに強大で狡猾な存在、いわゆる『ヴァンパイア』の殲滅を目的とした組織。
なかでも当時、爆発的に勢力を伸ばし始めた“異種”―――コールネーム『ファンガイア』を
狩るために創られた組織だった。
 
最大の特徴は、バックボーンを持たないということ。
すなわち政府や宗教といった、帰属する母体を持たないのである。
本来はそうではない。あらゆる巨大な組織において、バックボーンとは必要不可欠な存在だ。
かの有名な英国国教騎士団しかり、ヴァチカンの聖堂教会、西欧聖霊庁特務、そして1999
年の『バトル・オブ・ブリテン』以降衰退したイスカリオテといった教会の代行者しかり。
権力、宗教の別を問わず。
その構造特有の問題こそ生じるものの、巨大な暴力を所有するハンター組織は、統治する
存在を別とするシビリアン・コントロールの構造を取る事によって長年存続してきたのだ。
   
だが、『素晴らしき青空の会』は異なっていた。
創設者が財界・政界への強力なコネクションと財力で築き上げた個人の組織だ。
端的に言えば、創設者の意によって動く『私兵』の集団であるといえた。
それも、個人のレベルを逸脱しつつある程の規模・ネットワークを有していたのだ。
例えば、表の顔とされている法人団体。
そこに属するメンバーだけを見ても、大物議員の二世三世、日本が誇る企業グループの会長、
防衛庁の元長官といった、隠然たる権力を持つ大物の名が連なっている。
はてには国境を越えた名誉会員と称して、某外資企業の筆頭株主(その企業の母体は軍需
産業で知られる)などといった者までいた。
裏側の非合法なメンバーまで調べれば、或いはそれ以上の大物がかかるであろう。
この調子で拡大を続ければ、世界を征服できる―――というのは、こと大袈裟に書かれたゴシ
ップ誌の記事だが、将来の危険性という意味では決して間違いではなかった。
 
   
急速に発展した、特別な武力を所有する大型組織。
たとえ創設者が政財界にコネクションを持とうとも、いずれ危険視されるのは当然といえた。
それは、組織に属する議員とは異なる派閥の中で。
或いは、純粋に肥大化した組織を警戒する高級官僚の間で。
 
          「―――『素晴らしき青空の会』を調査せよ」  
 
政府によって育まれ絡み合った疑心と利害、政治的思惑は内閣調査室への一声となった。
 

22 名前:有角幻也 ◆rX9kn4Mz02 :2008/06/11(水) 00:24:24
>>
 
そして、今回の監査で白羽の矢が立ったのが幻也であったという訳だ。
肥大化しつつある対吸血鬼機関の監査。
ある意味、これほど幻也という男に適した任務もなかった。
こと幻也の冷徹とまでいえる任務への姿勢も、監査という任務には打ってつけである。
そう上も判断したのだろう。
   
とはいえ現在、組織そのものを潰す気はなかった。
政府内の様々な思惑こそ絡んでいるものの、あくまで今回は組織の把握と監査だけに留める。
これは幻也に依頼した“上”と、また幻也自身の共通見解でもあった。
 
近年世間を騒がせた『夜刀の神』の一件―――日本古来の吸血種が引き起こした事件を引金として、
この国でも強力な対吸血鬼戦力が強く望まれている。
無論、日本にも多くの退魔機関が存在する。だが、それら機関の多くが少数精鋭であるように、
この国でも最前線で戦える指折りの執行者は多くはないのだ。
その慢性的な人員不足を、『素晴らしき青空の会』が肩代わりしてくれるならば、これ以上のメリットはない。
監査の結果にもよるが、政府は最終的にハンター組織との協力体制を視野に入れている。
これが予め、すでに定められた互いの着地点。
監査という結論に至るまでに取り決められた、この国特有とさえ言える根回しの結果であった。
  
もっとも、そんな体質など幻也にはどうでもいい。
必要なのは何をすべきかであり、その上で結果を出すのが彼に与えられた役割だ。
状況を把握したうえで政府の思惑が彼の利害と一致さえするならば、彼の行動を妨げないというならば
それで問題はない。
 
そう、必要なのは状況の把握だ。
木漏れ日のさすオープンカフェで、幻也は人を待っていた。
『素晴らしき青空の会』の監査を行う上で必要な情報を得る。それが今ここにいる理由である。
関係者だという公安の人間と、この場で落ち合う約束をしていたのだ。
監査の情報を早くも掴んだのか、接触をしてきたのは向こうからだった。
いち早い情報の取得と行動。だが驚愕するほどではなかった、そもそも意図的に流したようなものだ。
これも前もって行われた“根回し”の結果なのだろう。
 
 
喧騒というには静かな時間が緩やかに流れてゆく。
――――だが、常ならざる世界を生きるものにとっては僅かな小休止に過ぎない。
幻也という男にとって、全てはこれより始まる狂奏の序幕に過ぎないのだ。
  
言ったのは誰であったか。
平和とは、戦争と戦争に挟まる猶予期間であると。
  

23 名前:有角幻也 ◆rX9kn4Mz02 :2008/06/11(水) 00:25:36
そして、ここからが待たせていた〔導入4〕となる。
 
 
>>
 
 
気付けば、体が先に動いていた。
  
手の甲から骨まで達する、正に刺すような激痛。
短いうめき声が、上空に逸らされた拳銃の発砲音に重なる。
結果、銃を取り落とす暴漢。
すべては発砲の瞬間に早業で投げられ、空を切って飛来した一本のフォークの仕業であった。
 
他でもない、幻也の投げたフォークである。
見れば先程までテーブルの上に置かれていた、ティーセット用のフォークが一本無くなっていた。
咄嗟の判断。客の一人が拳銃を取り出したのを見逃さず、すかさずその男へ投擲していたのだ。
 
結果として、この混乱に対する死傷者はゼロ。
誰かの命を奪うかもしれなかった凶弾は、幻也の一手によって放たれず事なきを得た。
聞こえてくるパトライト。騒ぎを聞きつけた警察が来たのだ。
連行される犯罪者。そこから軽い事情徴収を終えたところで、ようやく一帯に元の平穏が戻ってきた。
そこで、幻也に歩み寄ってくる一人の男がいた。
この捕り物劇の主役、或いは平穏を破った騎兵隊。自らは正義であると、その自負がにじみ出ている男。
警官との事情徴収に応じていたことから、警察の人間ではなかった。
 
 
―――バウンティハンターか。
 
バウンティハンター。賞金のかけられた犯罪者を捕獲する、国家が定めた民間の「賞金稼ぎ」である。
近年増加の一途を辿る凶悪犯罪に対して、捜査特別報奨金制度を元に日本で導入された制度だ。
ただし導入から日が浅く、資格基準が必要以上に厳しいことからその人数はまだ多くはない。
だが男はその基準をクリアし、かつ第一線で成果を上げている。それは男がある種、きわめて優秀な人間で
あることを証明していた。
 
 
――――『名護啓介』
 
男の名は知っていた。
理由は二つ。
一つは先程の話にも掛かるが、バウンティハンターであるという事。
状況によっては警察や、ひいては幻也たちと利害の衝突する職種である。ある程度名の売れた人間は
前もって機関に情報が届いているものなのだ。更に現在、日本でのバウンティハンター人口は多くない。
となれば当然マークする人間は一握りとなる。名護啓介はその中の“有名な”一人だったというわけだ。
そして、もう一つは名護啓介本人の不手際―――むしろ、不祥事というべきか―――に拠るものであった。
幻也が別件の仕事で、都内の警察署に赴いたときの事だ。
偶然に通りかかった取調室。その事情徴収の場に男は、名護啓介はいた。
容疑は暴行。ただし、被害者は逃亡中の連続強盗犯であり、過剰防衛の容疑に変わったという。
暴行した相手と事情を鑑みて、今回は書類送検と口頭注意のみ―――そう、職員のこぼした話を覚えていたのだ。
 
 
男―――名護啓介が幻也に声をかける。
悠然とした態度は男が持つ自身の表れか。それとも、自らの自尊心を満たす報酬を手にしたがゆえか。
上品なベストの内ポケットにしまわれた、数珠繋ぎのボタン群。
正義としての功績を証明する勲章の数々は、男の精神にそれ以上の意味を持たせているのか。
 
開口し投げかけられた言葉は、感謝の礼か。
自らは善だと主張する涼しげな笑顔、自身こそ何物にも恥じ入るところはないという自信に満ちた口調。
礼節はある、悪意はない。男の仕草には責めるべき要素はない。
 
 
――――だが。

24 名前:有角幻也 ◆rX9kn4Mz02 :2008/06/11(水) 00:26:14
>>
 
 
 
                       
                 「――――そんな事はどうでもいい」


25 名前:有角幻也 ◆rX9kn4Mz02 :2008/06/11(水) 00:29:43
>>
 
 
―――だが。
幻也の美貌には、常よりも冷徹なものが宿っていた。
常に冷静な氷のごとき表情は、だが氷点下の空気すらも凍りつく更なる冷たさを放っていたのだ。
  
「私の行動に気付く程度の理解力があるなら、先にやるべき事があるはずだ」
 
どこまでも簡素で飾らず、それゆえに冷厳さを感じさせる声。
彼を知るものならば語調に僅かな怒気が含まれていることが、幻也という男が怒りの感情を
抱いていることが分かるであろう。
そしてそれを知ったならば、滅多になどありはしないと、恐るべき事態だと断言するに違いなかった。
名護啓介に対して見せる深く静かな怒り。
幻也が僅かに垣間見せるそれは、奈落の底で青白く燃える、鉄をも溶かす煉獄の炎を連想させた。
  
短い沈黙。    
二の句を告げぬ幻也の眼差しは、向かい側のテーブルに向けられている。
その視線の先に、一組の母子がいた。
混乱の最中。逃げ惑うことも出来ず呆然としていた少女と、その娘を庇うように抱きしめていた母親が。
そしてこの母子のいるテーブルは、丁度拳銃を持った暴漢の向かい側。
捕り物に夢中であった名護啓介を狙った拳銃の斜線軸上に位置し、万一に銃弾が標的を逸れるか
避けられた場合、きわめて高い確率で凶弾に見舞われたであろう位置でもあった。
 
 
「お前が下手をすれば、あの親子に流れ弾が当たっていた。
 分かるか? お前が周囲への警戒を怠ったせいで、関わりのない人間が死ぬかもしれなかった
 ということだ。―――何の関わりもない、母親と少女がだ」
  
母か、子か。最悪どちらかの命が奪われる可能性があったのだ。
ことの当事者である名護啓介がボタン蒐集という自己実現へ浸っている間に、罪のない者たちの命が。
それが、幻也が凍てつくような怒りを纏う理由だった。
 
    
「お前が何のために犯罪者を捕まえるのか、何に拘るのか、それで何の不始末を追おうが別にいい。
 それで生きようが、死のうがお前の自由だ。

 だが、これだけは覚えておけ。
 お前が何をしようがいい。だが、お前の身勝手に関係のない人間まで巻き込むな。
 荒事にたずさわるのならば尚更だ。周囲の被害すら考えられないのなら、その仕事をする資格はない。
 そんなものは、ただ迷惑なだけの狂った役立たずに過ぎん」
 
 
幻也の美しい唇は静かに、しかし突き刺すような言葉をつむぐ。
言うべきことを淡々と、それも響くような低さで一切の容赦なく述べる。
それはもはや暴力ですらなく凶器、まるでドライアイスで出来たナイフを傷口へ刺し抉るような辛辣さだった。
 
そもそも幻也は最初、傍観に徹するつもりだった。
混乱といっても追うものと追われるもの、一方的な捕り物だ。共犯者であった男の不審なそぶりも見えていた。
それでも動かなかったのは、男の見せたあからさまな挙動だ。
男は素人目からでも分かる程度に動揺し、慌てて席を動いていた。恐らくは名護の視界にも、犯人以外に一人
不審な男の姿が入っていたはずだ。
たとえ一人でも状況の鎮圧は可能、そう判断した。だが、名護には男が視界に入っていなかった。
犯人一人に気を取られていたのか。それとも、他の何らかの理由で認識が甘かったのか。
そして名護啓介が犯人のボタンを“蒐集”していた最中。
周囲の野次馬を押しのけ、すでに興奮状態に陥っていた犯人の仲間が拳銃を取り出したのだ。

26 名前:有角幻也 ◆rX9kn4Mz02 :2008/06/11(水) 00:30:40
>>

幻也が常に心がけているポジショニングが今回は仇となった。
即時の対応が可能な程度に、周囲を俯瞰できる位置と距離をとる。
だが、それは自身が動くには遠すぎた距離だったのだ。
起こる悲鳴、興奮状態の男。名護啓介と、同じく母子の方へ向けられた銃口。
呆然とする少女と、必死で抱きしめる母親の姿。
心の奥底で自身の甘さを呪い、意識よりも早く右手が閃き――――そうして、辛うじて全ては間に合った。
 
何事もなく助かった事に安堵する母親。
いまだ母親の腕に抱かれながらも、母に無垢な笑顔を向ける少女。
母子は戻った平穏を甘受していた。
誰からも感謝されることもなく、幻也はそれを静かに見守っている。
 
 
――――有角幻也。
そのとき、美しき男の背後で彼の名を呼ぶものがいた。
これが、これこそが惨劇を防いだ男の名だと、名護啓介が知りたがっていた男の名だと告げるように。
声の主は公安の人間だった。
時間通り、落ち合う予定通りに『素晴らしき青空の会』の情報提供者がやって来たのだ。
 
    
「分かったなら早く行け。
 私はお前に用などない、お前も私にこれ以上の用などないだろう。
 名護啓介―――名うてのバウンティハンターであるお前なら、私の言っていることは理解できる筈だ」
  
相手の名前を出したのは彼なりの警告か。
(もっとも名護啓介の場合に限っては、その道では名が知れているというのもあるのだが)
ともあれそう言い放った幻也の表情には、先ほどまで微かに垣間見せた怒気はなりを潜めていた。
あるのは、常と同じ氷のような表情だけだ。
結果として被害はなく、言うべき事は言った。あとは拘るだけ無意味だと、そう判断を下したのだ。
  
黒き美影が席を立つ。
次なる戦いへ身を投じるように、彼が為すべき任務を為すために。
誰も感謝をすることもなく。誰にも感謝される事なく。
それでいいとでも言うように、有角幻也は無造作に席を立ち、行くべき場所へ歩みだす。
 
  
木漏れ日が差す昼下がりの一角。
喧騒と美しき男が去った後も、穏やかな時は流れてゆく。 

27 名前:有角幻也 ◆rX9kn4Mz02 :2008/06/11(水) 00:50:19
 
…済まんな。
慣れんレスを書こうとした結果、2週間近くかかった。
何か不都合があれば修正しよう。
 
 
――――また長くなったが、それはお前が気にする事ではない。

 
  
>>18
 
その私についての情報の内容だが…私の正体がドラキュラの実子というのは元より
ドラキュラを滅ぼすために力を結集させた、1999年の討伐における中心人物という事(原典まま)
が書いてあってはどうだ?
(最も、表向きに中核とされているのは討伐に協力した教会や軍だろうが)
  
1999年のドラキュラとの最終決戦といえば、(私の原典では)裏の世界でも有名な
話として知れ渡っている。その辺りに言及してあるのが自然といえば自然だろう。
そして、その戦力を私という吸血鬼が集められるのならば、その面においても脅威と見なされても
不思議ではない。
一番の脅威は、それだけの戦力を結集せざるをえなかった吸血鬼の血を受け継いでいる事だろうがな。

28 名前:名護啓介 ◆753/IdWG5E :2008/06/13(金) 18:42:58
どうにか、戦闘に入るまでの流れを作ることが出来ました。

>>27での助言も組み入れています。

29 名前:名護啓介 ◆753/IdWG5E :2008/06/13(金) 18:43:41
[3-3]
男の前に立った名護が最初に行ったこと、それは。
「どうやら、あなたに助けられた……ようですね」
礼ではなく、彼の不必要な介入を咎める言葉を投げつけることだった。

「少なくとも、あなたの手助けが無くとも私は彼らを取り押さえられました。ですが、あなたの行いは世界のためになることだったと―――」
そして、本題であるはずの感謝の言葉に入るかという矢先。


「――――そんな事はどうでもいい」


切れ味鋭く、怜悧な一言を持って切って捨てる男。
ぴくり、と名護のこめかみの辺りが僅かに動いた。

「私の行動に気付く程度の理解力があるなら、先にやるべき事があるはずだ」
矢継ぎ早に投げつけられていく棘のある言霊の群れ。
言霊の主は、メタンハイドレートの如く冷たく燃え盛る情念を押し隠しながら言葉を続ける。

「お前が下手をすれば、あの親子に流れ弾が当たっていた。
 分かるか? お前が周囲への警戒を怠ったせいで、関わりのない人間が死ぬかもしれなかった
 ということだ。―――何の関わりもない、母親と少女がだ」
男の視線の先には、未だ怯え竦む母子の姿があった。

もしも、名護が最善の一手を打っていなければ。
もしも、この男が介入していなければ。
射線上の二人は、悲劇の主人公として明日の紙面を飾っていたことは想像に難くない。

「お前が何のために犯罪者を捕まえるのか、何に拘るのか、それで何の不始末を追おうが別にいい。
 それで生きようが、死のうがお前の自由だ。

 だが、これだけは覚えておけ。
 お前が何をしようがいい。だが、お前の身勝手に関係のない人間まで巻き込むな。
 荒事にたずさわるのならば尚更だ。周囲の被害すら考えられないのなら、その仕事をする資格はない。
 そんなものは、ただ迷惑なだけの狂った役立たずに過ぎん」

俺は、まだ、負けていない。

30 名前:名護啓介 ◆753/IdWG5E :2008/06/13(金) 18:44:06
名護の口は声無き声を紡いだ。
先日のキバとの戦いにおける敗北。癒えぬ傷口を抉るに等しい言葉の嵐。
だが、それ以上に名護の中で燻るのは、己の正義への信念、そして執着。
名護啓介にとっての正義とは、己の理想郷に至る為の道であり、己の生き様そのものであるといってもいい。
その正義が、今また踏み躙られた。
過去、今は亡き父がそうしたように。

「……黙れ」
―――面子や矜持など、それこそどうでもいい。
「……貴様に、貴様に俺の何がわかる!」
―――ただ、俺が進むべき道を閉ざそうとするものは、赦してはいけない。それは、俺の敵だ。世界を蝕み、破滅を齎そうとする敵だ。

二人の周囲の空気が一触即発の気配を孕み始めたその瞬間、男を呼ぶ声が時間を動かす。
―――有角幻也

その瞬間、名護は理解した。
この男こそが、『素晴らしき青空の会』へ送り込まれる監査官。そして、俺の敵。

「分かったなら早く行け。
 私はお前に用などない、お前も私にこれ以上の用などないだろう。
 名護啓介―――名うてのバウンティハンターであるお前なら、私の言っていることは理解できる筈だ」

有角が席を立つと同時に、残した言葉。
そこには先程までの棘はない。いや、有角にはもはや、名護に対する興味・関心さえ存在していないだろう。

この出会いが、そして『素晴らしき青空の会』への監査が、二人の状況を動かしていくにはまだ、少々の時間を必要としていた。

31 名前:名護啓介 ◆753/IdWG5E :2008/06/13(金) 18:44:40

[導入5]
Cafe mald'amour(カフェ・マル・ダムール)。
会長の嶋をはじめとする『素晴らしき青空の会』の会員は、この喫茶店を拠点のひとつとして活用している。
カウンター席に並んで座っているのは名護と、ファンガイアハンターの麻生恵。親子三代に渡って『素晴らしき青空の会』と関わってきた女性であった。
名護は、この店自慢のコーヒーを一口啜るのももどかしそうに恵に切り出した。

「恵、君はあの有角幻也という男の事をどう思う?」
恵は、名護の言葉の真の意図を察知しつつ返答する。
「んー、いわゆる“イケメン”って感じ……だと思うけど」
はぁ、と大きな溜息。
「俺は君にそういう意見を聞いているんじゃない、あの男が信用に値するかどうかということだ」
「……名護くん、あなたのそういう偽善的で独善的な態度、早く直さないと誰にも好かれないわよ?」
恵が呆れたように名護を窘める。
「あいにく、俺の事を嫌うのは悪人かファンガイアだけだ」
感情を押し殺すかのようにコーヒーをもう一口。
「だいたい、彼はあなたが思うほど悪い人間じゃないわ。監査だって、私達『素晴らしき青空の会』と協力する為の下準備でしょ」
「……恵、やはり君には人を見る目が無い」
再び溜息をつく。名護には、あの時垣間見た有角の姿こそが彼の本性の一端であるようにしか思えなかったのだ。

店内の静寂を破るかのように、嶋が店内に駆け込んでくる。その脇には茶封筒が抱えられている。
「良かった、ここに居たか―――名護君、ようやく彼についての調べがついた」
嶋が持っていた封筒を名護に手渡す。その内容は『素晴らしき青空の会』が持つ情報網をフルに活用して手に入れた『有角幻也』に関する報告書。正に値千金/珠玉の情報。
1ページ目を飾るは当たり障りの無い、戸籍謄本や住民票などの『有角幻也』という人物の公的情報。
その手の仕事屋を高給で雇えば、3日も掛からず偽造することは十分に可能だろう。
仕事柄、裏事情にも通じている名護は興味なさげに読み飛ばす。

数ページほど読み飛ばした所で、報告書は公的な情報とは一線を画す、核心に迫る情報を記し始めた。

『有角幻也―――本名:アドリアン=ファーレンハイツ=ツェペシュ』
『ドラキュラ伯爵ことヴラド・ツェペシュの息子』
名護の目を捉えたのは、有角の隠されていた素性の全て。読み進めるうちに、顔が綻んでいくのが自分でもわかる。


32 名前:名護啓介 ◆753/IdWG5E :2008/06/13(金) 18:48:33
大なり小なり、退魔組織に身を置く者にとって1999年の『最終決戦』は記憶していなければならない大前提の一つである。
それは、歴史を紐解いても類を見ない規模で行われたドラキュラ伯爵率いるその眷属と、人類が起こした未来を賭けた戦いであった。
当時13歳であった名護自身は、その戦いには参加していない。
しかし、名護が『素晴らしき青空の会』以前に所属していた『3WA(ワールド・ワイド・ウィング・アソシエーション)』のアーカイブで、その詳細を知る機会を得ていた。
その時は、人類側の戦力を纏めたのが誰であったかにまで思索を巡らせはしなかった。
だが、今ならばわかる。陰の功労者は有角幻也以外にありえない。

かつて、名護が国会議員だった父親の不正を告発したように、有角も父親を断罪の場に引き摺りだした。つまりは、そういうことだ。

「知らなかった……彼が、そんな凄い人だったなんて」
横から覗き読んでいた恵が、感嘆の声を挙げる。
「……凄いとかそういうことじゃない、奴は俺たちを欺いていたということに過ぎない」名護の心の奥底で、何かが蠢き出した。
それは怒りや憎しみなどというシンプルな感情ではない。
蠢くもの、それは“正義”だ。名護が目指すものは正義によってのみ到達できる。
そして、その正義はより高みに上ろうとしている。“絶対正義”という高みに。
「どれほどの功績を挙げようと、所詮奴には呪われた血が流れている―――俺にとって、奴はキバと同じだ」

“キバ”。
それはファンガイアと人の狭間に立ち、ファンガイアを狩る戦士。恵は何度か窮地をキバに救われていることから好意的に見ている。
しかし、『素晴らしき青空の会』が保有するアーカイブには恵の認識と反する記述が残されている。「世界を破滅に追い込もうとした存在」として。
それ故に、名護はキバを己の宿敵と定めた。己の絶対正義を完成させる為の試練に挑むかのように。

「だけど……」
恵の逡巡を断ち切るように、嶋が割り込む。
「君の考えは判る、だがそれは我々『素晴らしき青空の会』にとっては危険な賭けに出るということでもある」
嶋の懸念は当然だ。現在の有角の立場は政府機関から出向してきた監査官だ。監査自体が予定調和の産物であったとしても、『青空の会』そのものの立場を危うくしかねない。
「……それでも、私は有角幻也、いやアドリアン=ファーレンハイツ=ツェペシュは打ち滅ぼさねばならないと考えています」
名護の決意に、些かの揺るぎも無い。その意思の全ては己が理想を成就する為に有る。

「―――わかった、先方には私の方から説明しておこう」
嶋は、名護の決意に沿う決断を下した。政府には多少の借りを作ることになるだろうが、返済できる範囲の借りだと判断したのだ。

名護は、ベストの胸ポケットに収められたボタンを握り締めた。
この先にあるイクサへの高揚を押し隠すように。

=========

これより先は、車を襲撃して誘い出すシーンになっていくと思います。


33 名前:有角幻也 ◆rX9kn4Mz02 :2008/06/16(月) 00:20:17
反応が遅れたが、レスは確認した。
それで頼みというよりは提案がある。
  
・襲撃及び戦場までの誘導
 
これについてだが、
「私が戦場となる廃墟へ誘い出される→車襲撃(イクサナックルで)」
という流れに変えた方が手間も減り自然かと考える、最初に提案しておいて済まないがな。
…既にそう考えているならばいいが、下手をすると展開が悠長になる恐れがある。
今回は導入から長くなっている状況だ。互いに省略できるところはしておきたいと思っている。
 
――――どの道、一つのシーンで長くなるだろうからな。

【既に手遅れかもしれんが、そn(省略されました】
  
 
……私からは以上だ。
とりあえずは返答を聞きたい。
私の示した提案で構わなければ、車で廃墟に誘い出されるまでのレスを書いておこう。
誘い出される理由はどうにでもなるだろう。(更なる情報提供といった名目、など)

34 名前:有角幻也 ◆rX9kn4Mz02 :2008/06/18(水) 01:41:58
[導入6]※暫定
 
>>
 
宵闇に光る猛牛のエンブレム。
黒い闇夜のハイウェイを、更なる黒が疾駆する。
 
黒塗りのランボルギーニ・ミウラ。
フェラーリに対抗すべくして生まれたランボルギーニ社が創り上げた草分けにして異端児。
12気筒の大排気量エンジンを流麗なシルエットの中に、ミッドシップのスタイルで搭載した車である。
当時12気筒の大排気量をミッドシップに積んだ車は前例がなく、その型破りな発想と全部で750台しか
生産されなかったという希少性。誰一人欠けていたら生まれなかったと言われるデザイン/設計。
そして何よりも、切り裂いた風すらも従えるボディラインに12気筒のエンジンが織り成す重厚な排気音。
スマートとパワフルさを兼ね備えたこの雄牛は、世界で最も荒々しい芸術品とさえ言えた。
 
   
全てが黒に染まったランボルギーニ。
その黒い革張りのシートの中で、幻也は数日前のことを思い返していた。
あの日―――『素晴らしき青空の会』の監査を始め、名護啓介と出会った日のことを。
  
あの時。
幻也は明らかに感情的になっていた。
それは当の本人からみても、極めて珍しい事なのは間違いなかった。
異例を超え、もはや異変だとすら言えた。
“氷の男”。他人が幻也を評するに最も適した言葉である。
そして最も評されるこの言葉の通りに、幻也という男は感情を見せぬ男であった。
属する機関の内外を問わず常に冷静冷徹、鉄面皮で知られる男だ。
事実、それを常時とする男でもある。表情を見せず、感情を見せず。喜怒哀楽を見せることのない氷の男。
それが、有角幻也の自他共に認める事実である。
 
しかし。
あの時は明らかに怒りを抱いていた。名護啓介の迂闊な行動に対してだ。
僅かに垣間見せた程度の冷たい激怒。だがそれでも、幻也が見せるには余りある発露だった。
従来ならば、冷たい言葉を浴びせるにしても感情など込めなかったであろう。
軽く(それでも、常人なら3日は寝込む程度)辛辣な言葉で流していた筈だ。
何故か? 
 
 
―――――母、か。
 
思い至ったならば理由は明白だった。
命の危機に晒されたのが母と子だったからだ。
逆に言えばそれだけの理由だ。だが、それだけの理由で幻也には十分だった。
あの時。犯罪者の凶弾は名も知らぬ母子にも向けられていた。
そう、失われていたのかもしれなかったのだ。
  
母の目の前で子供が、そして子供の目の前で母親が。
なんら謂れのない悪意によって奪われようとしていたのだ。
そう、かつての自分と同じように。
自分を襲ったと同じ悲劇が、形を変えて繰り返されようとしていたのだ。
ならばそれだけで十分だった。
眼前で母を失った悲しみを知るのは己のみでいい。誰も、あんな悲劇を知る必要はない。
そう思ったからこそ、それを自身の迂闊で引き起こそうとした男に怒りを抱いたのか。
  
 
―――――分かっている。
   
そう、所詮はこの怒りも幻也のエゴに過ぎない。
その事を誰よりも幻也自身は知っていた。あの男、名護啓介と同じく歪な陶酔の発露でしかないのだ。
そう深い自嘲と自戒の意を込め、自身の心に言い聞かせる。
  
 
――――我が身に背負うは、罪と罰。
自身はただの咎人に過ぎない。
母を見殺しにし、父を手にかけたこの身が咎人以外の何であるというのか。
誰が否定しようとも、赦そうとも。誰が知らずとも認めずとも。
誰が彼を善と呼ぼうと、背負う咎はいずれ裁かれなくてはならない。
人として生きることも、それ以外のものとして生きることも、己に許されはしないのだ。
 

35 名前:有角幻也 ◆rX9kn4Mz02 :2008/06/18(水) 01:43:54
>>
  
それでも尚、彼は現世に生きなければならなかった。
最初は隠れ蓑だった役職だが、それでも世界は彼のような者の力を必要としているのだ。
成すべきことは多かった。それも、今すべき事が目前にあった。
他でもない、『素晴らしき青空の会』の監査である。
 
幻也が車を走らせるには確たる理由があった。
上からの命令。今夜、監査対象である『素晴らしき青空の会』によるデモンストレーションが行われるというのだ。
使用される武装は『Intercept X Attacker』。機関からは『ハンター』とも呼ばれる対吸血種装備である。
22年前から開発が行われ、今回の監査における重要項目の一つでもあった。
監査に伴う段階的な情報開示の一環。そう説明を受けている。
 

――――表向きは、な。
  
妙な話だった。
タイミングとしては順当だ。もとより着地点の見えた監査でもある、順調ならばそれに越したことはない。
しかし、知らされた内容に不自然な点があった。
責任者の幻也が単身来るように、そう指名があったのだ。
監査の総指揮は幻也である。だが当然のように監査を行う人員は一人ではない。
任務に応じた権限を与えられるのが特務員の常だ。今回は監査に公安の人間を借りることが決定していた。
前にも接触した、『素晴らしき青空の会』のメンバーでもある公安の人間だ。
彼は幻也と組織を仲介する人間として、以降の監査に必ず立ち会うよう契約を結んでいた。
互いのトップが、わざわざ協議のテーブルに立って決めたという取り決めだ。それを反故にするような真似は
不自然だった。
 
指定されたポイントというのも気になった。
記憶が確かならば、その場所はかつて大事故で廃棄された元工場、加えて再開発の目処が立ってない所だ。
いわば都市部に点在する空白、現代の廃墟。
確かに、機密である特殊装備を見せるのなら打って付けではある。
そしてその土地は法的には嶋財団―――『素晴らしき青空の会』の所有地ということにはなっている。
機密保持の手段としては申し分がない。それも、不自然なほどに。
 
何より、決定的だったのが命令を伝えた調査室長の言葉だった。
 
 
     「ああ、これも監査の一環だ。わざわざ君を指名している。
      時間通りに指定した場所で向こうと接触してくれ」

      ―――了解しました。
 
     「まぁ、あまり先方に失礼のないように。
      機嫌を損ねて手のひらを返しはしないだろうが、事は慎重にな」
 
      ―――承知しています。 
 
     「ああ、そうだ。これとは関係ないんだが……」
 
      ―――他に何か?
 
     「実は、最近家内が石楠花の栽培に凝っててね。
      それでちょっと余ったもんだから、少し貰ってくれるとありがたいんだが」

 
 
一見何気ない会話に暗号を交える、公安機関での常套手段。
中でも内調特務においては、主に花の名前が暗号として用いられることが多い。
機密保持の方法としては陳腐で時代遅れだが、それでも有効性は確かにあった。
この場合は石楠花(しゃくなげ)の言葉が符丁にあたる。
そして今回。石楠花の符丁の意味は、そのままそれの花言葉に繋がっていた。
すなわち――――。
 
 
――――注意しろ、という事か。
 
 
恐らくは、『素晴らしき青空の会』の仕掛けた何らかの罠なのだろう。
内閣調査室のもつ力は、国の諜報機関というには余りにも脆弱である。
FBIなどの海外の同じ機関が持つような権力を持たず、概して便利屋として使われるのが幻也の知る実情だ。
少なくとも部下である特務の安全を、雇用主として主張するだけの発言権は存在しない。
もとから公的には存在しないとされている内調特務であれば、尚更だ。
たとえ特務員を陥れるための罠であろうと、正面からの圧力であれば応じるしかない。
最も、それは圧力に屈するとは違う。逆に言えば、その罠を破り切り抜ければそれは取引の材料となる。
そんな抵抗と綱渡りを繰り返し、借りと実績を得ることが内調の裏のやり方であり、有角を含めた内調特務に
必要な能力でもあった。弱い機関ゆえのしたたかな立ち回り方ともいえるだろう。
 
それに今の室長には恩もあった。
彼は幻也の素性を知る数少ない一人であり、知りながら機関に受け入れてくれた人間だった。
部下を見殺しにすることを良しとせず、影ながら今回のような警告をしてくれる人物だ。
ならば善意を感謝こそすれ、恨む理由は何一つなかった。

36 名前:有角幻也 ◆rX9kn4Mz02 :2008/06/18(水) 01:44:46
>>
   
漆黒の闇を裂いてその存在を主張する、更なる漆黒のランボルギーニ。
もはやハイウェイを降りたそれは世界で750台しか存在しない雄牛の一台、その中でも初期型のミウラP400だ。
しかし、その中身はほぼ別物になっている。
後のモデルチェンジで改善されたサスペンション系統・オプションは元より、電装系・制御系統は完全な最新式。
ミウラのシンボルでもあるV12エンジンに至っては、特別チューンまで施された非合法ギリギリの代物だった。
すなわち、幻也の“仕事”に耐えうるような専用の改修を受けているということだ。
彼は懐古主義者でもなければ浪漫主義者でもない。むしろ一種のリアリストですらある。
そのため彼の意向によって大幅な改造が成されていた。
尋常の皮をかぶりながらも尋常ならぬ力を秘めた、有角幻也という男が駆るに相応しい機体に。
 
 
その機械仕掛けの雄牛が今、約束の場所に乗り入れる。
人気のない、再開発が放棄された廃墟。
現代において生まれた繁栄の陰にして隙間、光溢れる世界に再び現出した無人の闇に。
 
月下。 
雨ざらしのコンクリート。
朽ちるのみを待つ建築物。
地虫すら蠢く気配のない大地。
  
未だ車輪を進める鋼鉄牛が、幻也と共に荒野を進む。
 

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