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■ 「陰陽頭」と「堕ちた天秤の騎士」の会議場
- 1 名前:◆GAinErMg8k :2011/07/03(日) 21:54:17
この場は余と柳生友景以外の立ち入りは認めぬ。
汝の頭が飾りでないならば理解するがよい。
- 25 名前:柳生友景:2011/08/14(日) 01:39:44
- >>24 続き
時の車輪を数刻、遡る――。
同じ闇の中に、友景と崇徳上皇はいた。座して相対している。
現在――寛永元年、西紀に直せば1624年という暦も、この場では半ば意味を成さない。
なぜなら此処は現世と隔絶した異空間――魔界であるからだ。
日本国の妖魔が棲まいし常闇の封土、その最深部に設えられし内裏(だいり)であった。
その主人たるが、優雅な笑顔をたたえている崇徳上皇である。
かつて保元の乱にて後白河天皇に敗れ、讃岐に配流された果てに凄惨極まる最期を遂げた
崇徳院の亡霊は、その無限の怨念断ち難く、全ての魔怪化生を従える大魔縁へと堕したものの
――その後、数百年を経て二度目の「転向」を果たすことになる。
友景も係わったさる一件により、妄執満ち満ちる己が浅ましさを自覚した上皇は、なんと正道
に立ち返ったのである。正気に戻ったといっていい。
あまつさえ闇と寒さを支配する大魔王の立場から一転、日本の守護神たるを宣して、配下の
魔物どもを困惑せしめたものだった。
新生したこの崇徳上皇の意を受け、鎮護国家の任を賜ったのが、誰あろう柳生友景であった。
柳生友景。またの名を幸徳井(こうとくい)友景。南都の人。
剣名一世を風靡した柳生新陰流の太祖・石舟斎の甥である。新陰流の中でも一といって二と
ない大剣士である彼には、今一つ類い稀なる天稟が備わっていた。
霊的能力である。
よくする陰陽道の実力は、養子に入った幸徳井家を、斯界の名門・土御門家の代わりに陰陽
頭(おんみょうのかみ)の地位へ就かしめる事に成功する。後水尾天皇の宮中にあって、彼は
全ての陰陽師の統帥となったのである。
こうして魔界の内裏に平然と参内しているのは、しかし持って生まれた霊能だけによるもので
はない。
崇徳上皇へ仕える過程で、友景はその眷属たる魔界衆三万六千と五百二十九匹と交合した。
そのおぞましき結縁は、美しき肉体を半人半魔の夜族へと変生させたのだった。
- 26 名前:柳生友景:2011/08/14(日) 01:41:10
- >>25 続き
「主上、わたしを召されたは、またぞろ朝鮮の魔の手が――という訳ではございませぬようで」
玲瓏たる剣豪陰陽師は穏やかに口を開いた。
十数年に渡る暗闘の末に、友景は朝鮮の有する日本国侵略秘密機関、再東征中書省を壊
滅させている。現時点において、かの国が日本への謀略を企む背景はないといってよかった。
「さなり」と上皇も頷く。「此度の陰謀、国を揺るがす驚天の大事とは申せ、この世の事ではな
い。未だ来たらざりし――未来にて起こる出来事なのじゃ。およそ三百年も後に、喃」
「さ、それは」
友景は首をかしげた。霊的国防に携わる陰陽師のトップとして、彼は日本の領域内に霊的
防諜網を張り巡らせている。
しかし流石に未来へのカバーまでは想定の範囲外だし、そもそも出来よう筈もない。
「そなたの言は判る。常ならば、朕も未来に生ずる悪しき種を刈れと命じはせぬ。
それに第一、未来は未来、過去は過去。彼我は別個の世界であり、有態にいえば関係はな
い。枝葉が枯れたとて、必ずしも幹や根が朽ちる事なきが如く。
いや、いずれが主か従かは問わぬ。問題は、此度に限ってはそれが起こり得るという事じゃ。
行く末が絶たれるは、来し方たる今生をも遡って破壊する仕儀なれば」
――実にこの時、上皇は時空連続体の崩壊について示唆したのだった。
そんな「未来」に発生する概念は知らず、しかし陰陽の徒として備える隠秘学の智識によっ
て、友景は上皇の云わんとする所を完璧に把握した。
「さる御方が」と上皇は語を継いだ。「朕にそれを知らせてくれた。その大事を企みし敵の存在
もじゃ」
「その敵とは、如何なる者にて?」
「異界、異形の術客」
上皇は断言し、その「敵の陰謀」を語り出した。
――上皇は語り終えた。
燭台は、相変わらず寒々しい光を灯している。現実世界ならば蝋燭はその長さを半減させて
いたであろう。それほど長い、上皇の話であったのだ。
「戦いは恐らく厳しいものとなろう。しかし、友景よ。この任、見事果たしてくれるか?」
その龍顔に、後代の子孫にして、彼が現世にて供奉する後水尾帝の英邁なる血脈を見――
天皇の陰陽師、柳生友景は花のような笑顔で両手をつかえた。
「我が一命に代えましても、必ずや」
- 27 名前:柳生友景:2011/08/14(日) 01:44:33
- >>26 続き
「そなたには苦労をかける喃」
崇徳上皇はうるんだような眼差しを友景に向けた。
「ご案じ召されますな。友景は主上の臣、院宣を果たすは当然にて。
されど、如何にして未来世界へ赴けばようございましょう。かの朝鮮妖術には、時空間の移動
を可能にする秘術があるとは伝え聞きますが」
友景にその技はない。上皇は自信ありげに言った。
「されば、能を遣う」
「能――」友景は美しい眉宇を顰めた。「それは、夢幻能をという事でございましょうや?」
「流石は友景じゃ」
上皇は莞爾と微笑んだ。
「能とは畢竟、変身のわざなり。演者は亡霊に成り変わり、その語る亡霊の世界、つまり過去世
を現世に生じさせしむる芸術である。
この機能極まり、過去世となった舞台を観る者は、過去へと飛ぶも同義ならん。
此度はそれを逆手に用い、以ってそなたに時空を渡らせる<径>と成そうよ」
――旅の僧侶の前に亡霊が現れ、過ぎ去りし日の物語を語るのが、夢幻能と呼ばれる即興演
劇の基本的構図だ。
その構図が真の意味で完成した舞台、これを見る観客は過去を見る事になる。つまりは過去
の世界そのものへ送り込まれると云っても過言ではない。
それは能を航時機(タイムマシン)となさしめる可能性への言及に他ならなかった。
そのシステム、本来は過去へと飛ぶ処理方向を変換させて、観測者たる友景のみを未来へと
転送(ワープ)させる。上皇の意図はそういう事であった。
「――あの御方より、三百年後の未来については伺っておる」
友景は少し双眸を光らせた。
魔界の大皇(おおきみ)たる崇徳院その人をして、礼を以って語るあの御方≠ニは、そも何
者なのか?
「未来へ翔ぶ夢幻能を演じる事に関しては仔細ない。敵の術客が企みし儀式の場へ、直接そな
たを渡せられるであろう。
また聞説(きくなら)く、変身の芸である能に依って時空を渡れるは、同じく変身の力を、つまり
別の自分に成り変われる力を持つもののみ、と。
時に陽中の陰と変じ、また陰中の陽と化す神妙剣、陰ノ流レ――新陰流を極めたそなたなら
ば、己が霊力の後押しによって、必ずや未来へと翔べよう」
「成る程。ではシテは真逆?」
「無論、朕が」
- 28 名前:柳生友景:2011/08/14(日) 01:46:35
- >>27 続き
そして、時は現在に戻り――。
我 生くこと好みたり
蒼茫たりしか 宇(そら)よ宙(とき)よ
不意に友景は幻怪な感覚に襲われた。
体が引かれている。汀(みぎわ)に佇立させた踝が、寄せては返す波にさらわれそうになるよ
うな、眩暈にも似た感覚だ。
魂はそこに残っているのに、体だけがひと呼吸先へずれる。――先へ?
そう、未来へ。
すぐに体と魂は一致するが、何とも名状し難い感覚の「ずれ」幅は段々大きくなってゆく。
気づけば、上皇の舞う姿が眼前から消えていた。謡や囃子方の楽の音すらも、いつの間にか
途切れ途切れになっている。
あるのは果ても底も知れぬ暗闇だけだ。
加速だ、と友景は声に出さず呻いた。
上皇が消えたのではない。消えたのは恐らく自分の方だ。過去から未来へと、常に同じ速度
で流れ続ける時間が、その速度を大幅に速めたが故の現象なのだ。それ即ち、
――宇宙の法則が乱れる!
素破、と友景は片膝を立てた。素早く朱鞘の愛刀を引っ掴む。
同時に空間を満たしていた何かが決壊した。
溢れ出した何かは、濁流のような勢いで友景の全身を撃った。
それは水でもない、大気でもない。
時間だ。時間そのものなのだ。
ああ、その圧の奇怪さよ。全身が際限もなく延ばされるかと思えば、逆に折り畳まれ、薄紙よ
りもなお縮められるかのような。――
人間はこのような時間の移動を現す言葉を持たない。どのような言語にも、この現象を表す
べき言葉はない。
須臾(しゅゆ)の間か、それとも永遠も半ばを過ぎた頃か。
暗闇の果てに光が見えた。隧道の出口のように、ぽつんとした一点だったそれは、異様な速
さでその径を増していく。
それは金と銀との燦然たる輝きだ。同時に赤と青は競うように彩を成し、かと思えば緑や橙、
紫が見た事もない古代生物の交接のようにうねってはためく。
混淆し、一瞬たりとも一つ色にとどまらぬ、色という色のそれは乱舞だ。
異次元の色彩であった。
――あれが、三百年後の彼の地か。
何故か友景は確信した。流れに逆らわず、寧ろその勢を利して混沌の光源へと跳躍する。
鼓膜では、崇徳上皇が吟じる謡の声が、幽かな耳鳴りのように木魂していた。
時を超えよ 空を駆けよ
この世の為
熱く燃ゆるべし 涙流すべし
明日といふ日に
柳生陰陽剣 友景
柳生陰陽剣 友景
- 29 名前:柳生友景:2011/08/14(日) 01:48:26
- では、わたしの側の導入草案にて。
余りに、余りにも長いのはこれ全て導入の所為にて、請う、御寛恕を。
またこの嘘能は、何せ、ことは躇錯剣(ちょさくけん)に絡む問題ゆえ、詳しい次第は申され
ぬが、仮面ライダーBLACKのおーぷにんぐにて候。
そちらの御意見・御要望・急度叱りなどを考慮しつつ、後で少し手を入れるやもしれません。
- 30 名前:柳生友景:2011/08/14(日) 01:58:44
- >>
――友景の脳裏で、出立前に崇徳上皇と交わした会話が蘇る。
「異界、異形の術客が企てしは、将門の覚醒(めざめ)よ」
「平将門公の……!」
友景の表情が緊張の色を帯びた。
人も知るように、平新皇将門は平安時代、関八州にユートピア建設を夢見て朝廷へ弓引い
た英雄だ。事破れて処刑された後も、怨念の塊でありながら、不可解にも関東を鎮護する大
地霊となったという。
そしてこの最大の御霊は、今も江戸の地の底深く、冥府の眠りを貪っているのだった。
「確かに、ひとたび将門公が目覚めれば、その祟りは四百余州を焦土と変じせしめましょう。
また霊的次元のみならず、果てしなく遠く、限りなく近い異世界(とつくに)すらも滅却させる
は必定。
しかし公は、死せるが如きとこしえの眠りについていると聞き及びます。生半に喚び起こす
真似は叶いますまいが」
「その事よ。されば敵は、不知火検校、またの名を髑髏検校と申す妖人に目をつけたそうな」
「不知火検校? 聞かぬ名でございまするな」
「まだ生まれてはおらぬ者じゃもの、その名ではな」
あっさりと上皇は言った。――島原は原城にて、江戸期を通じ最大の切支丹反乱が起こる
のは、もう少し先の話である。
その旗頭となった美貌の天童が、呪詛と妄執の余り魔界へ転び生まれるのも。
「その者、恨(ハン)極まるが故に血吸い鬼へと転化≠オて後、徳川家への復讐を果たすべ
く江戸を襲ったが、智勇の士らの活躍により滅ぼされたという。――これもまた、未来の物語
よ。敵が白羽の矢を立てたるは、彼の者の遺灰。
それに籠りし怨念を駆って将門を喚ぶ腹じゃ」
「さまでの存在なれば、その呪怨、将門公の眠りを覚ます火種としては十分でありましょうな」
怨念を抱いて眠る将門を目覚めさせる起爆剤として、同じく怨念の余り真祖となった長生者
(エルダー)髑髏検校の骸を使う。――実に悪魔的な着想と言えた。
「その術客とやら、既に呪われし遺灰を手中に収め、将門復活の祭祀を執り行わんと致しおる
とか。急ぐ、事は急ぐぞ、友景よ」
友景は小さく、だが力強く頷いたのだった――。
- 31 名前:柳生友景:2011/08/14(日) 02:00:43
- ついでに、将門公や髑髏検校云々のはなしを後々の回想しーんとして出すならば、という例。
ルシファー猊下関係は、また別になりましょう。これまたそちらの御意見を賜った上で、改め
るはやぶさかではございませぬ。
>アリスをオミットし、かわりに髑髏検校自身にこの儀式に加わってもらうか
こちらの案ですと、髑髏検校のくだりは改める必要がありますね。いえ、別にさしたる手間で
はないので、どちらでも構いませぬ。
紅一点の魔人アリスは、いかにも美味しゅうございますが。
>土方や以蔵との会敵場面
斯様な奇想が、これまた美味しいのが困りもの。
「サンクチュアリ」の鬼使いの土方辺りで構わぬのなら、当方の側にて出したい所だが……。
長くなるでしょうね。
- 32 名前:<呪われし公子>ゲイナー ◆/GAynorYPA :2011/08/21(日) 11:45:29
すまぬな。少々具合を崩していて返答が遅くなった。
>ヒノカグツチ
>未来のマウンテンサイクルに埋まっていたマジンカイザーと真ゲッター
こちらとしては問題ない。好きにやるがよかろう。
>将門の刀
これもそちらで使ってかまわぬよ。
余には法と混沌の二振りの魔剣があるゆえに。
>髑髏検校
ならば彼のものの復活はこの闘争の後、「それはまた別のお話」という
かたちとしようぞ。闘争の後誰もいない神田明神にたたずむ麗しき魔人
というのもわるくはなかろう。
導入案の修正はもう少し待ってもらいたいが、タイトルの案はいくつか考えた。
以下の通りだ。
- 33 名前:<呪われし公子>ゲイナー ◆/GAynorYPA :2011/08/21(日) 11:50:11
<題名>
HAPPY VICTIMS
<序文>
誰も彼も嬉々として 地獄に向かって突撃していく
いったい誰があの中で皆殺しの野で
あの中で生き残るというのだ
きっと 誰も彼も嬉々として 死んでしまうに違いない
誰彼の中で
平野耕太「HELLSING」
<題名>
黄金律
<序文>
Do unto others as you would have them do unto you
(だから、人にしてもらいたいと思うことは何でも、あなたがたも人にしなさい。)
新約聖書「マタイによる福音書」7章12節
<題名>
The Four Freedoms
<序文>
Each according to the dictates of his own conscience
(彼自身の良心に従って)
これらを先に出た案と組み合わせて使いたいと思っているのだが・・・。
- 34 名前:柳生友景:2011/08/21(日) 23:58:55
- お身体はくれぐれも大事になされませ。
そうでなくても、季節がら暑気がたまらぬのだから。
ゆるりと待ちおり候わば、請う、急がるる勿(なか)れ。
>ヒノカグツチ
>将門の刀
左様ですか。では、如何致そうかな。
どちらか一択か、二刀を使うか。ふむ……。
卒爾ながら、この件については今暫く考えさせて頂きたく。
髑髏検校の扱いは、ではそのように。
題名と序文は、こはまたどれも中々意味深そうなものばかり。どの組み合わせでもよろ
しいかと。
フリメルダどのとの戦いの序文は聖書よりの一節なれば、こちらも聖書から引用された
ものの方が足並みは揃っておりましょうか。
また不見識ですが、「四つの自由」とはルーズベルト大統領の?
- 35 名前:<呪われし公子>ゲイナー ◆/GAynorYPA :2011/08/25(木) 20:10:55
結界の外にて。
神田明神の外。異界の術者が邪悪なる儀式を取り仕切る結界の外。そこには1000を
超える数の僧侶が集結していた。いずれも日の本全土より呼び集められた当代きっての法
力の持ち主たち。彼らは明神をとり囲むようにして座を組み陣を作りただひたすらに祈り
経を唱える。彼らの組む陣は兵法によるものではなく、しかるに通常の戦を想定してのも
のではない。明神の境内にいる3匹の魔物に対してであり、また神田明神の主それ自体が
怨霊として復活を遂げた場合に備えてのものである。無数の僧侶たちが形作るその陣形。
それは明神を取り囲むようにして展開された立体曼荼羅。かくのごとく力強く神々しいそ
の光景ですら、明神に祀られたあの存在が復活するやも知れぬという事実の前ではあまり
にもはかなく心細い。
それでも、いやそれゆえに術者たちは己の持てる力のすべてを振り絞って経を唱える。
敵の張り巡らした結界を打ち破り境内の邪教の儀式を止めさせんと、それが間に合わず万
が一怨霊が復活してしまった場合には命をかけてそれが引き起こす魔導災害を鎮めんと、
ただひたすらに経を唱える。この国のために。この国に住む者たちの明日のために。額に
汗を浮かべ、命を削りながら、心を一つにし経を唱える。
僧侶たちの思いのごとき熱気がその場に充満していた。
そのときだった、境内よりくすくすと小さな笑い声が聞こえてきたのは。みれば笑い声
とともに、降り注ぐ月影のもと一人の少女が境内より歩み出る。それは空色のエプロンド
レスをまとった少女。黒い髪に生気のない青白い肌を持った幽鬼のような美しい少女。黒
く深い隈と暗く濁った瞳を持つ狂気の魔人。
その姿を目にし、僧侶たちのそばに控えていた侍たちが抜刀し前に出る。いずれも食い
扶持にあぶれた浪士などではない、かねてより幕府に仕える選び抜かれた精鋭たちだ。月
光に輝く抜き身の刃を目にしても、少女の笑いは止まらない。それどころかドレスの裾を
つまみ優雅に一礼。満面の狂笑で武士たちにこたえる。
「いつもはわたしがねだってばかりだから、今日はわたしがおとぎ話をしてあげるわ」
その言葉とともに、何も持っていなかったはずの左手の中に一冊の本が現れる。大きな
本だ。革張りでふちを金属で補強された分厚い本。表紙にはただ「不思議の国(アンダーグラウンド)」
とのみかかれている。それは彼女の力の象徴。堕ちた天秤の騎士によって具体化された
彼女の力の証だ。
白い右手がいとおしそうに表紙を撫で、そのページをめくる。すると突然強風にあおら
れたかのように、本のページが次々とめくり上げられていき、ページ一枚一枚が本よりは
がれて宙に舞う。何枚も何十枚も何百枚も何千枚も、尽きることなく無尽蔵に宙を舞う。
紙吹雪。
白の乱舞が世界を覆い、その場にいる者全ての視界を塞ぐ。
闇に閉ざされた視界に少女の声が聞こえてくる。
「アリスもそのまま、ウサギの穴に飛び込みました。
どうやってその穴から出て来られるかなんて、アリスはまったく考えていません。
ウサギの穴は深い井戸のようで、アリスはどんどん落ちていきました。
もう、止まろうにも止まりません。」
突如、平衡感覚が崩れた。とっさに踏ん張ろうとするが、両の足は何も捕えることはな
い。驚き目を見開くとそこは暗い穴の中。異国風の机や食器とともにどこまでもどこまで
も堕ちて行く。
「亀に追いつけぬアキレスのように、永遠にどこまでも堕ち続けなさい」
ぞっとする様な笑みを浮かべ、犠牲者たちに向けそうささやく少女。彼女の立つ空間も
もはや先ほどまでの明神の前ではない。ゆがみ狂った狂気の世界。悪夢のごときサイケデ
リックなおとぎの森に少女は立っていた。転移の魔術でも次元の跳躍でもない。彼女の狂
気と妄想が現実を浸食した結果だ。現実を自分の世界へと作り替える最悪の異能だ。
満足そうにしていた少女の顔が急に曇った。一瞬いらだつ様な表情を見せたがすぐに思
い直したかの様な満面の笑みを作る。再び彼女の右手が本にのび、いとおしそうにその表
面をなで回す。そして忌み名を四つ囁く。
「ブランシェ」
その言葉とともに現れたのは血のように赤い唇と、 雪のように白い肌、黒檀のように
黒い髪、 そして暗闇のように真っ黒な心を持ったお姫様。魔女の血筋の末にして、夢幻
の住人の住まう御伽の国のなかですら最も美しいと呼ばれる白い雪の姫。
「怪物(ネームレス・ワン)」
その言葉とともに現れたのは異形の怪物。2メートルを超える背丈とつぎはぎだらけの
体を持つ醜い巨人。屍を継ぎ合わせて作られた科学のゴーレム。名前はまだない。
「輝夜」
その言葉とともに現れたのはかくも美しき東洋の姫。空より舞い降りた異世界の住人。
輝く夜のごとく美しく、それに比例する高慢さをもった麗しき魔人。
「人狼(ロボ)」
その言葉とともに現れたのは猟師風の衣装ををまとった一人の青年。その顔は気さくそ
うだが、その瞳だけは狡猾そう。彼は狼。赤ずきんの狼であり、オカミと三匹の子豚のオ
オカミであり、狼と七匹の子山羊の狼でもある。物語の中の災厄としての象徴たる狼。
少女の呼びかけに応えしは四人。いずれも劣らぬ魔人たち。御伽噺の世界の忌まわしき住人たち。
少女は呼び出した魔人たちに笑いながら告げる。
「食べ残しが何人かいるわ。物語に取り込まれきっていない手強そうなのが。あなたたち
で片付けなさい。一人残らず首をはねてしまいなさい」
その言葉にオオカミは一礼してきびすを返し、輝夜は凍える様な眼差しで少女を一瞥す
ると不満げに去って行き、怪物はその巨体に哀愁を漂わせながら場を後にする。ただ一人
ブランシェと呼ばれた少女のみがその場に残った。
「何をしているの?早くいきなさい!」
手にした本をたたきながら少女は叫ぶ。それを見て忌々しげな表情を浮かべながら白く
て赤い黒の姫は足を進め、すれ違い様に少女に耳打ちする。
「すぐに取り代わって差し上げるわ」
吐き捨てる様な言葉とともに姫はその場を後にする。
こうして誰もいなくなり、その場に残るは少女一人。
そして少女は振り返る。その手に在るのはもはや本ではない。禍々しく光る一振りのナイフ。
「あなたの相手はわたしがしてあげるわ」
狂った様な洪笑とともに、その場に現れた人影に対し、少女はナイフを振りかぶる。
- 36 名前:<呪われし公子>ゲイナー ◆/GAynorYPA :2011/08/25(木) 20:37:09
- この後に「結界の外?」「結界の内」と続き余の導入は終了となる。
済まぬが完成まではもうしばらく待ってもらいたい。週末までにはな
んとか書き上げるつもりだ。
>題名
こちらも少し考えさせてもらいたい。
>自由
言論の自由、信仰の自由、窮乏からの自由、恐怖からの自由
というあれだな。今回は状況的な皮肉を込めてこれを選んでみた。
- 37 名前:<呪われし公子>ゲイナー ◆/GAynorYPA :2011/08/28(日) 22:18:47
- ・・・・・・すまぬ。この週末はレスに費やそうと決めていたのだが己に負け、
「空海と密教美術展」および「ドラキュラ」を見に行ってしまった。
すまぬがもうしばらくまってくれ。精神の栄養を補充したおかげで、良いレス
がかけそうな気はするのだ。
- 38 名前:柳生友景:2011/08/29(月) 00:00:22
- いや、左様な事ならどんどん己に負け続けて頂きたく候。
空海展は、実はわたしもゆく積りでおりますが、何しろ国宝と重文の大々行列との
事ゆえ、見ごたえも相当なものでしょうね。
寡聞にして存じませなんだが、ドラキュラの方はみゅうじかるの「女ドラキュラ」でし
ょうか。これまた何やら凄いようで……。
ヒノカグツチの件ですが、剣戟で使うのはこれ一本としたく。
将門の刀の方は、剣戟には用いませぬが、よろしければ大がかりな陰陽術や召喚
などの霊的補助具として使わせて頂けたら、と考えております。
展開次第ですけれど。
- 39 名前:<呪われし公子>ゲイナー ◆/GAynorYPA :2011/09/01(木) 21:09:22
結界の内にて。
二人の魔人が去り往きて、ただ一人残りしは、闇より深い漆黒の外套に身を包んだ人物。声
からすれば男だろうが、その目深にかぶったフードのせいで顔を伺うことは出来ない。
結跏趺坐を組んだ男は、袖のない外套の前のあわせより諸手を出す。その手は穢れない純白
の手袋により覆われている。闇の中に白がひらめき、複雑怪奇な印を組む。そして静謐な夜風
の中、流れ出すのは禍言を詠う声。
「はじめに言葉あり。言葉は力なり。言葉は世界なり。言葉により世界は名付けられたり。姿
をあらわしたり。姿を定めたり。本質を決定されたり。世界は言葉にて作られたり。ゆえに我、
いまこの場にて言の葉の力もちい、新たなるカタチを定めたり。」
力ある言葉とともに、男の両手にはめた穢れない純白の手袋に焼け焦げるようにして黒い汚
れが奔り図形を刻む。それは十字。神の子が磔刑にされた十字架を模した図形。聖なる印。し
かしそれは、逆しまに刻まれし十字。呪わしき逆十字。男の唱える呪文とともに黒い逆十字は
血の色に変わり爛々と輝く。
逆しまなる十字を刻まれた手が、何処かより一つの壷を取り出す。何の変哲もない蓋付きの
壷、それは骨壺だった。そう、ありきたりの骨壺だ。ただ変わったところが在るとすれば、蓋
の部分に無数の呪符が貼付けられているところだろうか。
それは封印であった。その符の一枚一枚に強力な念が込められており中に在るモノを厳重に
封じていた。中にいるもの、外に出てはならぬもの、滅ぼしきれぬものを。
「取るがいい。これは汝の体である。」
そういうと男は、いとも無造作に、幾重にも張り重ねられた呪符をむしり取る。馬鹿馬鹿しい
ほどに容易くあっさりと。呪符に込められた霊力すらも男にとっては何ら障害でもないかのようだ。
行き場をなくした霊力が物理現象と化し、男の指の間を帯電したかのように鋭い光が瞬き火
花が散る。だが男は気に留める様子もなく祭司を続ける。むしり取った呪符を握りつぶし、焼
き尽くして消滅させると、骨壺の蓋を取り中身を月影のもとにさらす。中には細かで滑らかな
白い砂の様なものが詰め込まれていた。
それは遺灰だ。この江戸に恐怖をもたらし、日の本の国を転覆せんとした魔人の残り香。怨
霊、髑髏検校の遺灰だった。
男は遺灰の入った壷を厳かな手つきで地面に置くと、次に古びた杯を外套の内より取り出す。
質素で素朴な小振りなゴブレットだ。その木製の杯には、深紅の液体がなみなみと注がれていた。
男の口元が笑みの形に歪む。
「汝、己の羽を喰らい飼いならされよ。」
赤い液体がなみなみと注がれた杯を男は諸手で高々と掲げる。杯に注がれた深紅の液体。そ
れは血液だった。こことは異なる場所、こことは異なる時間、こことは異なる世界より持って
きた天草四郎その人の血液。
「飲むがよい。これは多くの人のために流された汝の血、契約の血である。」
その言葉とともに杯の中身を壷の中の遺灰へと注ぎ込む。 赤き血が白き遺灰に吸い込まれ
ていく。どんどん、どんどん吸い込まれていく。木彫りの杯の内より流れ出る深紅の血液は、
中身がとうに空となっている量を過ぎても流れ出ることを止めはしない。封印を解かれた骨壺
の中の純白の遺灰は、注ぎ込まれる己の血を無尽蔵に吸い込んでいき溢れ出すことはない。
ちょうど人一人分の血液が注ぎ込まれたころであったろうか、唐突に変化が訪れた。その結
果は迅速にして奇怪。あまりにもおどろおどろしく禍々しいものであった。
遺灰が波打った。その表面にさざ波が立ち、波紋が疾走する。溢れ出す力が、山吹色の波紋
となって疾走する。そして、その表面に歪んだ不気味な死者の顔が現れる。怨嗟と憎悪に歪ん
だ、あまりにも禍々しいデスマスクが。
宗教者は云う。われわれは、キリストの人間性に属する肉と血を受けるとき、神の霊を受け
るのだと。人間のからだだけでなく、神のからだを受け、人間の血と魂、人間の心と思いだけ
でなく、神の血と魂、神の心と思いも受けるのだと。ならば怨念に染め上げられ反キリストと
化した聖人が、己の肉と血を受けるとき、いかなる霊を受けるのだろうか。
「呪われよ呪われよ呪われよ!
神よ神よ、何ぞ彼を見捨てもうたか!!
神よ神よ、何ぞ彼を見捨てもうたか!!!」
忌まわしき祝詞とともに、遺灰の表面に現れたデスマスクが怨嗟のうめき声を上げる。魂消
えるような叫び声をあげる。叫び声とともに怨念に満ちた霊力が骨壺より溢れ出し、地に刻ま
れた魔法陣のうえを走った。憎しみの魔力は漆黒の雷となり魔陣に新たな印を刻む。5つの頂
点を持つ星のカタチだ。
それを見て満足そうに男はうなずく。
「時は満ちた。この地に眠る怨霊よ。汝が同胞の声を聞け。怨嗟に満ちた声を聞け。圧政を憎
み新たな国を作らんとし、破れ怨霊と化した汝が同類の声を聞け。其方の相似の慟哭を聞けよ!」
その言葉とともに男は両の手を前方へと突き出す。するとその手にはめた白手袋に刻まれた
図形が形を変えた。それは先ほど大地に刻まれた図形と同じ形。背徳の逆十字から五芒星、否、
忌わしきドーマンセーマンと呼ばれる外道印へと。
「三界の狂人は狂せることを知らず 四生の盲者は盲なることを識らず
生まれ生まれ生まれ生まれて生のはじめに暗く
死に死に死に死んで死の終わりに冥し
ならばよい。それでよい。
汝、彷徨いしもの。彷徨いしものはやすらぐことを知らず
汝、生ける死人。生ける死人は死せることを知らず。
ならば汝、冥府にとどまる事なかれ。彼岸でやすらぐ事なかれ。
ゆえに汝、死せる事なかれ。此岸に再び舞い降り来れ。
目覚めよ将門!平新皇将門よ!目覚めこの世に災いもたらせ!!」
その言葉とともに禍々しい羅刹風が巻き起こり、魔陣より瘴気が溢れ出す。瘴気は風に乗り天
に届き、闇色の雲を呼び寄せる。天は逆巻き暗雲が立ちこめ、雷鳴が轟く。
そして、千を越えるかという雷の雨が大地に降り注いだ。
- 40 名前:<呪われし公子>ゲイナー ◆/GAynorYPA :2011/09/01(木) 21:18:56
悪魔対魔人は本番開始までには書き上げておく。直接この闘争には関わらぬ故に構わぬだろう。
故にこちらの導入はここまでとする。以降はそちらの登場をへて闘争開始となるか。
空海展は、実によかった。像も素晴らしいが曼荼羅が圧巻であったよ。「女ドラキュラ」は前半だけならば
ダンスオブヴァンパイアに勝るとも劣らぬできであった。後半の展開がやや駆け足気味だったことが残念でな
らないが、それでも今年見た作品の中では一番をつけられるであろう。今年の始めに観た「わが友ヒットラー」を
超えるできであった。
>ヒノカグツチ
>将門の刀
了解した。
- 41 名前:柳生友景:2011/09/02(金) 01:18:13
- 導入については了解しおり候。……改めて通して読むと凄まじい妖気にて。
実地に御覧になった空海展の験力が、最後に炸裂していますね。秘蔵宝鑰的に。
空海展は楽しみなことです。
今様の浄瑠璃については詳しくないが、三次元もよきもののようですな……げに美は、
武に等しく力あるものならんか。
こちらの導入は、若干ですが微修正させて頂きます。
そういえば、戦いの初手はあうとれんじ≠ゥらになされるか?
そちらには混沌の弓ありとの事だが、わたしにも「式を打つ」(帝都物語の加藤保憲よ
ろしく、懐紙を投げて霊的武器に)等の他にも手立てはある故、問題はございませぬ。
- 42 名前:<呪われし公子>ゲイナー ◆/GAynorYPA :2011/09/02(金) 21:25:26
ああ、ならばやはり初手は距離をとった位置から始めるとするか。
剣聖との戦いが初手から近接での切り合いなのでそれと対比する意味でも良かろうよ。
とは言うものの、数十メートルから100メートルも在れば充分であろうから、余の
いる隨神門側とは真逆の御社殿側にでも現れてくれば良いだろう。
無論、汝にほかの考えが在るならばそれ優先で構わぬが。
- 43 名前:柳生友景 ◆YAGYUbJ766 :2011/09/03(土) 00:00:57
- >>26 続き
「そなたには苦労をかける喃」
崇徳上皇はうるんだような眼差しを友景に向けた。
「ご案じ召されますな。友景は主上の臣、院宣を果たすは当然にて。
されど、如何にして未来世界へ赴けばようございましょう。かの朝鮮妖術には、時空間の移動
を可能にする秘術があるとは伝え聞きますが」
友景にその技はない。上皇は自信ありげに言った。
「されば、能を遣う」
「能――」友景は美しい眉宇を顰めた。「それは、夢幻能をという事でございましょうや?」
「流石は友景じゃ」
上皇は莞爾と微笑んだ。
「能とは畢竟、変身のわざなり。演者は亡霊に成り変わり、その語る亡霊の世界、つまり過去世
を現世に生じさせしむる芸術である。
この機能極まり、過去世となった舞台を観る者は、過去へと飛ぶも同義ならん。
此度はそれを逆手に用い、以ってそなたに時空を渡らせる<径>と成そうよ」
――旅の僧侶の前に亡霊が現れ、過ぎ去りし日の物語を語るのが、夢幻能と呼ばれる即興演
劇の基本的構図だ。
その構図が真の意味で完成した舞台、これを見る観客は過去を見る事になる。つまりは過去
の世界そのものへ送り込まれると云っても過言ではない。
それは能を航時機(タイムマシン)となさしめる可能性への言及に他ならなかった。
そのシステム、本来は過去へと飛ぶ処理方向を変換させて、観測者たる友景のみを未来へと
転送(ワープ)させる。上皇の意図はそういう事であった。
「――あの御方より、三百年後の未来については伺っておる」
友景は少し双眸を光らせた。
魔界の大皇(おおきみ)たる崇徳院その人をして、礼を以って語るあの御方≠ニは、そも何
者なのか?
「未来へ翔ぶ夢幻能を演じる事に関しては仔細ない。敵の術客が企みし儀式の場へ、直接そな
たを渡せられるであろう。
また聞説(きくなら)く、変身の芸である能に依って時空を渡れるは、同じく変身の力を、つまり
別の自分に成り変われる力を持つもののみ、と。
時に陽中の陰と変じ、また陰中の陽と化す神妙剣、陰ノ流レ――新陰流を極めたそなたなら
ば、己が霊力の後押しによって、必ずや未来へと翔べよう」
「成る程。ではシテは真逆?」
「無論、朕が」
さらりといってのけた崇徳院は、口元に滋味溢るる微笑をそよがせた。
「そして今一つ、そなたに託すべき品がある。――」
- 44 名前:柳生友景 ◆YAGYUbJ766 :2011/09/03(土) 00:07:43
- とりっぷ、を身につけし候。
そして>>27を最後のみ微修正した>>43に差し替えます。
他には、こちらの導入の修正はありません。
では初めは距離を取ってという事で。ほほう、割と離れていますね。
いや、何の問題もない。それでゆくに如かずです。こちらの出現位置は社殿の隅の
ほう、取り敢えずお互いに視認はできないような地点で問題ありませぬか?
他のご希望あらば、疾くそれに沿いましょう。
- 45 名前:<呪われし公子>ゲイナー ◆/GAynorYPA :2011/09/04(日) 16:49:22
- >お互いに視認はできないような地点
余はいっこうに構わぬ。来るが良かろう。
- 46 名前:柳生友景 ◆YAGYUbJ766 :2011/09/05(月) 00:35:10
- >>
一颯の風が流れた。小指の先程もない、ささやかな紫電も。
絶え間ない断末魔のような暴風も、降り注ぐ雷雨の狂奔も、これらとは関係はなかった。
なぜなら、この風を起こし、この雷を発せしめた源は、現世の何処でもなかったから。
時ならぬ魔の嵐に音を立てて軋む神田明神、その社殿裏手の一隅である。
と、件の風雷は爆発した。高く床板を張った回廊の下方、地面と接する辺りだ。
上空のそれにも引けを取らぬ青白い呪的電荷(プラズマ)が幾条も弾け、うねる。
異様な雷の中心で、突如黒い点が生じた。
米粒ほどのそれは、紙上に垂らした墨汁のようにその奇怪な領域を広げ、瞬く間に直径数メ
ートルもの完全な球体を成す。
黒き球は、だが現れた時と同じ様に不意に消えた。
同時に風も雷も止んだ。空で暴れ散らしている同類は、まるで治まる気配はなかったが。
黒き球と接していた地面や社殿の床板の一部が、綺麗な弧を描いて削り取られている。消え
去る際、まるで球体がその空間ごと毟っていったかのようであった。
この怪球が消失した跡地に、一人の人影がうずくまっている。
駆け巡る稲光が、縹(はなだ)色の直衣と、冠で揺れる垂纓(すいえい)とを照らし出した。
- 47 名前:柳生友景 ◆YAGYUbJ766 :2011/09/05(月) 00:37:32
- >>46 続き
……ふしぎな感覚であった。
虚空を水平にながれているようでもあり、無限の天空へのぼってゆくようでもある。ま
だ経験したことのないほどの暴風に吹き飛ばされているようでもあり、鼓膜が凍結したよ
うな無音の外界にとりかこまれているようでもある。五彩の世界が無数にはためきすぎて
いったようでもあり、ただ灰色の雲霧がぼうぼうと飛び去っていったようでもある。
ただそのあいだ、耳の奥に、笛と鼓と、そしてとぎれとぎれの謡の声が、耳鳴りのよう
にたえずきこえていた。
その音と声がしだいにかすかになり、ふっと消えて、意識がもどってきた。
――柳生友景は目を開いた。
ゆっくりと立ち上がる。体のどこにも異常はない。腰に差した朱鞘の一刀もだ。
異常なのは周囲の方だった。
神田明神へは、友景も詣でた事はある。江戸城築城に伴い、遷座されたばかりの社へである。
一見、その折と同じと見えつつも、実際にはかなり景観が異なっている、と感じ、まさにこれこ
そが時間の壁を超えた証左なりと友景は頷いた。
此処こそが彼の地――数百年後の神田明神だ。崇徳上皇の夢幻能は成功したのだ。いや、それよ
りも。――
友景は闇天を仰いだ。その間にも、凄まじい風は付近の木立を折れんばかりにしならせ、友景
の直衣の袖を、冠の垂纓を翻させる。
天が怒号し、地がどよもす。荒れ狂う雷神達の魔宴は、断じて天然自然が織り成す気象では
ない。
何より噎せ返らんばかりの魔気、邪気、妖気。――これらを引き起こしている詳しい術式は不
明だが、その求めんとする方向性だけは判り過ぎるほど判った。
「まず――」と、嘆息が洩れる。「天魔外道の所業だな。一刻も早く止めねばなるまい」
麗しき影は歩き出した。邪悪な渦を巻く霊動の中心、境内の方へ。
凛冽たる決意の表明とは裏腹に、その足取りは歌合わせに赴く宮中びとの如く、あくまで雅や
かであった。
- 48 名前:柳生友景 ◆YAGYUbJ766 :2011/09/05(月) 00:41:54
- 空海展、非常に面白く観て来ました。曼荼羅図は確かに圧巻でしたよ。
書については全く詳しくないが、さくさく書いたような華麗な筆致に、大師の人柄がしのばれるよ
うな思いがしたことです。
では、上記のように。因みに「柳生十兵衛死す」より、一部流用した箇所があります。
そちらのいる境内の方へ向かっています。そちらの次レスあたりで「何奴!」的に会敵してしまう
ような感じでしょうか。それとも、もうわんくっしょん置いた方が宜しいか?
と、大体導入が終わった所ですが、今後は如何致しましょう?
フリメルダどのとの戦いもいよいよ佳境なれば、なし崩し的にこちらとも二正面作戦だと、そちら
の負担が大きいのではと。
本番はあちらが片付くまで一旦停止する方向でも、わたしは何ら構いませぬ。
- 49 名前:<呪われし公子>ゲイナー ◆/GAynorYPA :2011/09/05(月) 22:46:43
剣聖との戦いはひと月ほど停滞している状態ゆえ、汝との闘争をひとまずは進めようと思う。
ただし剣聖との闘争が再度動き出した際には、すまぬが一旦停止とさせてもらいたい。
>空海展
ああ、あれは素晴らしかった。出来ればこの闘争にも生かしたいものよ。
>次レスあたりで「何奴!」的に会敵
この案でいこうと思う。明日の夜までには書き上げようぞ。
- 50 名前:柳生友景 ◆YAGYUbJ766 :2011/09/05(月) 23:14:26
- 闘争の進め方は、了解致しおり候。
次れすについても、同じく。ゆるりとなされませ。
- 51 名前:<堕ちた天秤の騎士>ゲイナー ◆/GAynorYPA :2011/09/06(火) 22:06:09
突如、結界の内に気配が生じた。あり得ぬことであった。侵入されるかもしれないという予
想はしていた。だが侵入の過程を察知させることなく、結界内に侵入されてしまうのは予想外
であった。
男の力を持ってすら察知させぬほどの技量に優れた高位の術者か。否。おそらく結界破りの
たぐいの術式ではないのだろう。そしてこの結界は空間転移もほぼ完全に防ぐことが出来た。
ならば残るは時間移動だ。時間の前には空間も物理的障壁の意味をなさない。ただし、時間移
動は人の身には余る術式。しかるにそれを防ぐ術式もまた人の手には余った。
まあ、いずれにせよ相手が相当の術者か、上方世界の神々に匹敵する様な後ろ盾を得ている
か、あるいはその両方であるのかは間違いない。油断できる相手ではあるまい。
気配の主は近づいてくる。一歩一歩、この魔界と化した境内の中を儀式の中心たる男のもと
に向かって。
味方ということはなかった。この世界で彼の同胞は、先ほど境内を後にした二人のみ。なら
ば近づいてくるものは敵でしかなく、そして敵はこの境内に充満する憎悪の魔力にさらされて
もなお、怯え逃げることなく、その中心へと近づいてくる。
「手間が省けるな」
男はそう嘲笑(わら)うと、ゆらりと幽鬼のように立ち上がった。
空を見上げる。大気が渦巻き恐るべき早さで雲が流れ螺旋を描く。上空の雲は紫電をはらみ
つつも、時折鳴動するのみで雷が降り注ぐことはなかった。
地を見下ろす。刻まれ魔陣は黒き光りを放ち、高密度の魔力を内包している。壷の中の魔人
は金切り声で呪わしき祝詞を奏でていた。
どうやら凪にはいったようだ。後はこのまま放っておけば、徐々に高まっていく魔力が臨界
点を超え、望むべきものが降臨するはずだ。
外套のあわせより右腕を出す。そこには一本の煙草が指の間に挟まれていた。男が何事かつ
ぶやくとその先端に火が付き燃え上がる。火のついた煙草を口元に運ぶと大きく吸い込み、う
まそうに紫煙を吐き出した。
「ひとまずはこれで良い。・・・あとは時が満まで、暇つぶし(Kill time)でもするか」
その言葉が終わるかどうかといった時、緩やかで雅な足取りを持って男の前に姿をあらわし
たものは、花のかんばせを持つ麗しき佳人。この国の、ただし現在より昔の術者の装束に身を
包んだ魔性の美貌を持つ人物。服装もその美貌も現実離れしており異界と化したこの場にはふ
さわしいが、腰に差した朱鞘の一刀のみがふさわしからぬ生々しい現実を感じさせた。
闇色の外套をまとった男は佳人に対し滔々と語りかける。
「ようこそ忌まわしき怨霊の復活の儀へ。貴様が何者かは知らぬし、招待した訳でもないが折
角の客人だ、歓迎はしよう。おれはゲイナー。<天秤の騎士>にして<法>と<混沌>を従え
たるもの。客人よ、貴様は何者だ?何が目的でおれの領域へと来た?」
嘲りを含んだ男の声が瘴気に満ちた境内に響き渡った。
- 52 名前:<堕ちた天秤の騎士>ゲイナー ◆/GAynorYPA :2011/09/06(火) 22:09:29
- 後で多少の修正は加えるがこんなところだ。見ての通りおれのレスでは攻撃は仕掛けていな
い。遅くても次のターンには仕掛けるつもりだが、勿論そちらから仕掛けてもかまわん。
- 53 名前:柳生友景 ◆YAGYUbJ766 :2011/09/07(水) 00:32:22
- >>
その問いには答えず、雨露を帯びた梨花もかくやの美貌は、じっと黒衣の男に向けられている。
友景が足を止めたのは、黒衣の男の数十メートル手前だ。常人なら衰弱死しかねない高濃度
の妖気が充満した広い境内には、彼ら以外の人影はない。
暫時の後、開いた紅い唇は、はたして全く別の事を言った。
「残賊生じて忠信亡(ほろ)ぶ、か。――人は知らず、汝の性(さが)こそ悪なり。異界、異形の術
客よ」
兵法者は、思無邪(おもいよこしまなき)をもって本となす――なべて武芸の達者が備える曇り
なき眼は、容貌も定かならぬこの怪人物こそ誅すべき大敵と看破したのである。
典雅とすら言える声で呼びかけながら、対手(あいて)からすれば自分も異界、異形の術客
だろうな、と友景は内心苦笑する。
「陰陽師、柳生友景。そなたの野望を阻む為、将門公のおん眠りを醒まさせんが為、推して参り
候。――」
不意に、直衣の右袖の中から、小鳥のように飛び出したものがある。
それらは三枚の白い懐紙だった。それぞれ中央に黒く描かれているのは五芒の星印――土御
門家に連なる陰陽道では晴明判紋と呼ばれる魔除けの印だ。
右手に収まった三枚の懐紙へ、フッと息を吹きかけ、友景はひと打ちに投じた。と、それらは矢
のように宙を走ったのである。薄紙とも思えぬ速度であった。
これは陰陽道では「式を打つ」と称される法である。式といい、式神と言う。つまり目に見えぬ鬼
神力を行使する技術だ。
魔を遣い、魔を封じる業こそ、日本史上最大の白魔術(ホワイト・マジック)たる陰陽道の根幹な
のだ。
命中した相手を、それが人間ならば容易く薙ぎ倒す程の霊力が籠められた三枚の呪符は、死
を告げる凶鳥のように闇を駆けた。黒衣の男目がけて。
- 54 名前:柳生友景 ◆YAGYUbJ766 :2011/09/07(水) 00:35:27
- では、こちらで先手を取らせて頂いたが、よろしいかな。小手先の技なので、お好きに裁いて頂きたい。
やはり仕掛けるのはそちらの次レスで、というご希望あらば、問題なく直しましょう。
わたしもどっちに致すか迷いましたる故に。
しかし、袖口からしゅるしゅる何かを出さないと死ぬ病に罹っているようです、わたしは。
- 55 名前:<堕ちた天秤の騎士>ゲイナー ◆/GAynorYPA :2011/09/09(金) 22:07:13
- >>
飛来する3枚の呪符を前にしても、ゲイナーの口元に浮かぶ薄笑いは消えはしなかった。尊
大なまでに悠然と、右手に持ったままの煙草を式神へと爪弾く。緩やかな放物線を描いて宙を
舞う一本の煙草。それが呪符に最も接近した瞬間、込められた魔力が現界する。煙草の蛍火が
突如はじけ、燃え盛る灼熱の焔と化し、周囲の大気ごと飛来する式神を薙ぎ払い焼き尽くす。
『カタタルの炎』。地水風火の四大の精霊王の一柱、<炎の王>カタタルの霊力をこの世界
に呼び起こす精霊魔法の一つだ。並の術者が使ったところでランタン代わりにしかならないが、
ゲイナーほどの高位の術者の手によれば、ひと一人焼き尽くすのには充分な威力を発揮する。
相手が霊的存在であろうとそれは同じことだ。炭化し燃え墜ちる2つの式神。2枚の呪符。
そう、燃え尽きたのは2つだけだった。一枚の呪符が炎の防壁をくぐり抜け、疾く鋭くゲイ
ナーに襲いかかる。やや驚いたように方眉を吊り上げるも、慌てず白手袋に包まれた右手を翻
す。その甲に刻まれた刻印が流れるように変化。ドーマンセーマンから『悪魔罠(デーモント
ラップ)』に似たものへと素早く形を変える。飛来する式神をその右手で難無く掴み取ると、
即座に『悪魔罠』が呪符に込められた術式を拘束し動きを封じる。そして手袋の図形が再びドー
マンセーマンに変わるのと同時に、半紙を墨汁に浸したかのように、呪符の色が純白から漆黒
へと染め上げられてゆく。
「カエサルのものはカエサルに、神のものは神に返すべし・・・返すぞ」
笑いを含んだその声とともに、手にした呪符を『陰陽師』柳生友景へと投げ返す。混沌の魔
力を無理矢理上乗せされた呪符は、先に勝る速度で飛翔。それだけではない。飛翔しながらそ
の姿を変えていく。おぞましい異形へとかえていく。それは鴉の頭をもつ小悪魔(インプ)。
陰陽師の使う術の中に、式を打ったあいてに式を返す『式神返し』なる術があるという。人を
呪えば穴二つ。手順こそ大きく違えど、これもまたまさに『式神返し』であった。
赤い瞳を血走らせ、嘴からよだれを垂らしながら、本来の主へと、変わり果てた式神が牙を剥く。
- 56 名前:<堕ちた天秤の騎士>ゲイナー ◆/GAynorYPA :2011/09/09(金) 22:12:38
- 所詮は有象無象の使い魔だ、適当にあしらってくれ。
おれは次のターンで手袋と外套を脱ぎ捨てる予定だ。弓を使うか魔術を使うかは展開次第だが。
・・・弓を使うとしたら長財布でも取り出すように、懐からこう指の間に挟んで(どうやら同じ病気のようです)
- 57 名前:柳生友景 ◆YAGYUbJ766 :2011/09/10(土) 01:29:24
- >>
『返って』襲い来る己が使い魔を前に、友景の右手は刀印を結んだ。人差し指、中指のみを立て、
他の指は握り込んだ結印の形である。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・裂・在・前」
一気呵成に唱えられる呪言と共に、刀印が閃いた。宙空に縦四本、横五本の格子状の軌跡が刻
まれる。
同時に、槍の穂先に等しい嘴をかざして飛び込んできた異形の式神は、弾かれたように動きを止
めた。きょろきょろと不審げに周囲を見回す。
友景は平然とした態だ。手を伸ばせば届く至近距離にありながら、魔物の血走った目にはかつて
の主人が映っていないようであった。
友景が唱えたのは九字である。陰陽道に伝わる悪魔祓いの秘法だ。
これは本来、神山幽谷の果てを目指す修行者が唱える呪である。幾つもの異層を抜け、異界に
至る為の技なのだ。
この場合、友景は己を異なる次元へ転移させたのだった。目の前にいながら、別の層にいる友景
の姿を魔物は認識できないのだ。――もっとも、友景自身も式神へ触れる事はできないが。
困惑の唸り声を上げて、式神は右往左往している。つ、と進んだ直衣はその傍を通り抜けざま、
「オン・キリキャラ・ハラハラ・フタラン・バソツ・ソワカ」
九字の効能を解除する真言が唱えられた刹那、月下に銀蛇が舞った。
この世のものならぬ絶叫を上げて、式神は腰の辺りで両断されて大地に転がった。
二つ目の呪い穴を埋め、友景は歩みを止めずにぶんと一刀を血振りした。横薙ぎの抜き打ちを放
った刀身から、ねばっこい異界の血が飛び散った。
口中に一掬の甘露をふくんででもいるかのような、もの柔らかな笑みを浮かべつつ、友景は黒衣の
男との距離を滑るように詰める。
足元が砂地であったとしても、摺り跡ひとつ残さなかったに違いない。ある高みに至った剣術者のみ
が成し得る足さばきがそれである。
- 58 名前:柳生友景 ◆YAGYUbJ766 :2011/09/10(土) 01:32:59
- 式神返しをあしらい、距離を詰めつつあります。
弓か魔術かであれば、できればで構いませぬが弓を希望致したい所。
少々やってみたい「かうんたぁ」技がございますれば。
うむ、各々の浪漫という名の病気がゆえに必須の有り様ですね。
……おや、これと似た会話は以前誰かとしたぞ。
- 59 名前:柳生友景 ◆YAGYUbJ766 :2011/09/11(日) 22:24:33
- >>
『返って』襲い来る己が使い魔を前に、友景の右手は刀印を結んだ。人差し指、中指のみを立て、
他の指は握り込んだ結印の形である。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・裂・在・前」
一気呵成に唱えられる呪言と共に、刀印が閃いた。宙空に縦四本、横五本の格子状の軌跡が刻
まれる。
同時に、槍の穂先に等しい嘴をかざして飛び込んできた異形の式神は、弾かれたように動きを止
めた。きょろきょろと不審げに周囲を見回す。
友景は平然とした態だ。手を伸ばせば届く至近距離にありながら、魔物の血走った目にはかつて
の主人が映っていないようであった。
友景が唱えたのは九字である。東洋オカルティズムに名高い魔除けの秘呪だ。
これは本来、神山幽谷の果てを目指す修行者が唱える呪である。幾つもの異層を抜け、異界に
至る為の技なのだ。
この場合、友景は己を異なる次元へ転移させたのだった。目の前にいながら、別の層にずらされ
た友景の姿を魔物は認識できないのだ。――もっとも、友景自身も式神へ触れる事はできないが。
困惑の唸り声を上げて、式神は右往左往している。つ、と進んだ直衣はその傍を通り抜けざま、
「オン・キリキャラ・ハラハラ・フタラン・バソツ・ソワカ」
九字の効能を解除する真言が唱えられた刹那、月下に銀蛇が舞った。
この世のものならぬ絶叫を上げて、式神は腰の辺りで両断されて大地に転がった。たちどころに、
魔物は断裁された漆黒の呪符へと変わる。
二つ目の呪い穴を埋めた友景は、歩みを止めずに右手の一刀をぶんと血振りした。横薙ぎの抜
き打ちを放った刀身から、ねばっこい異界の血が飛び散った。
口中に一掬の甘露をふくんででもいるかのような、もの柔らかな笑みを浮かべつつ、友景は黒衣
の男との距離を滑るように詰める。
足元が砂地であったとしても、摺り跡ひとつ残さなかったに違いない。ある高みに至った剣術者の
みが成し得る足さばきがそれである。
- 60 名前:柳生友景 ◆YAGYUbJ766 :2011/09/11(日) 22:25:24
- 大変不調法ですが、>>57を>>59へ少々修正させて頂きたく候。
内容自体はさして変わってはおりませぬ。
- 61 名前:<堕ちた天秤の騎士>ゲイナー ◆/GAynorYPA :2011/09/13(火) 23:12:54
- >>
柳生友景と名乗った男の術を見て、ゲイナーはなにか懐かしいものを見る様に目を細めた。
「・・・こんな場所で目にするとはな」
己を隣り合う別の次元へと移す技。それはゲイナーのかつての敵であり、またある意味兄弟
とも云える存在である妖精の公子、紅衣の公子が得意とした術であった。
その術を、そして使い魔を一太刀で切り落とした体裁きを目にしゲイナーは思う。柳生友景
の術も剣も並の腕前ではない。片手間にいなせる相手ではなかろうと。それどころか誤れば、
時間をつぶすどころかこちらが潰されかねないと。
「よかろう、おれも自ら手を下すとしよう」
そういうと襟元の留め金を外し、外套を脱ぎ捨てる。闇色の衣はするりと足下に滑り落ち、
その下より現れたのは、白でも黒でもない灰色の衣に身を包んだ男。ハンガリー風の美貌とギ
リシア彫刻の様な均整な肉体を持つ偉丈夫だった。
黄金の髪に透き通る様な青い瞳、肌は白く、だが健康的に張りがある。身の丈はゲルマン系
にしてもかなりの長身の部類に入るであろう。おそらく190cmは下るまい。厚い胸板に引き締
まった腰回り、まるで古代のギリシア人が理想としたヘラクレスの様な均整のとれた肉体だった。
チョークストライプのうっすらとはいった灰色の三揃えは、その肉体を引き立てるかのよう
に、細身で身体にフィットしている。その下に身につけたブロード地の白いシャツは、しなや
かな光沢を放っていた。そして襟元を飾るループタイには大振りなカーボナードがあしらわれ
ている。だが最も目立つのは、そして異彩を放つのはその腰元に吊った一振りの刀であろう。
剣帯をつかって身につけたその刀は鞘に納められていてもなお、瘴気とでも云うべき禍々しい
気配を放っていた。
ゲイナーはその刀には手をかけず、左手を上着の懐の内へと入れる。そして長財布でも取り
出すかのように、人差し指と中指の間に弓を挟んで懐の内より抜き出した。それは禍々しいほ
どに美しい弓だった。そして同時に、不思議な形の弓であった。リムの両端に滑車がついてお
り、弦がその滑車を経由して張り渡されていた。この世界にはいまだ存在せぬが、後世ではコ
ンパウンドボウと呼ばれる形状の半機械式の弓であった。そしてそれはただの半機械式の弓で
はなかった。混沌の魔力の込められた混沌の弓だ。使い手次第では、ライフル以上の効果を発
揮する、混沌の魔弓であった。
ゲイナーは、何処からか取り出した矢を弓につがえ弦を引く。キリキリと張りつめる様な音
を立て、限界まで弓が引き絞られる。魔弓が狙いし先は、美しき陰陽師。ただの一矢で射殺さ
んと、ひょうと放った。
- 62 名前:<堕ちた天秤の騎士>ゲイナー ◆/GAynorYPA :2011/09/13(火) 23:18:39
- 遅くなったが返した。
混沌の弓だがとりあえずは速いだけで特別変わった魔力はない。好きに返しすがいい。
>以前誰かとしたぞ
別の名で、別の顔で、別の転生のときに?
- 63 名前:柳生友景 ◆YAGYUbJ766 :2011/09/14(水) 01:13:09
- >>
火花の散るような一射の向こうに、輝かんばかりの美丈夫ぶりを目に映し、友景は幽かに頷く。
彼の知識では、ゲイナーと名乗った金髪碧眼の男は南蛮人としか判らない。また、そのふしぎに
機能的な灰色の衣も、いかにも異国めいた装いと感得された事だった。
ただ、男の美貌にはどこか拭い難い悪相が宿っていた。凶念があった。腰に帯びた一刀の妖気
も凌ぐ程の。――友景はゲイナーへの第一印象を再確認したのである。それが故の首肯であった。
また一枚、同じ五芒星の懐紙が、今度は友景の左袖から滑り出た。
虚空に一刀を振り下ろす。素振りの、しかし凄絶なその刃風に乗ってはばたくかのように、呪符
はふうわりと友景の前に出る。
闇中を穿って飛来する対手の矢は、あやまたずその呪符を射た――というより、呪符が自ら矢
じりへ刺さりに行ったようにも見える動きだった。
元よりただ一枚の紙である。いかなる翼あるものをも打ち落とす矢は難なく貫き、その同線上に
ある直衣の左胸もまた貫くであろう。
星印を貫通した矢は、だが奇怪なり、突如逆走し、今来た射線を遡上して射手本人へと跳ね返
された!
所謂「呪詛返し」の一法である。己に掛けられた害念を防ぎ、その力に自分の呪力を上乗せして
対手に送り返す迎撃魔術(カウンターマジック)。術の要諦自体は、今しがたゲイナーが『式神返し』
してみせたそれと同じだ。
記紀に曰く――返し矢恐るべし、であった。
射返されてゆく矢を追い、歩みを速めながら、
「……何とやらのものは何とやらに、と申したかな」
優美この上ない術客は低い声でそう言った。
- 64 名前:柳生友景 ◆YAGYUbJ766 :2011/09/14(水) 01:18:10
- 弓矢を遣って頂き、感謝致します。
その矢を返しつつ、猶も接近中です。如何様にもお捌きあれ。
そろそろ近接戦または魔術戦であろうか? いずれの手でも構いませぬ。
>別の名で、別の顔で、別の転生のときに?
さなり。この前の転生のときでありましたろうか。
百万世界のたれに生まれ変わろうと、人は己が己である事からは逃れられぬのやもしれぬ。
……こう言うと格調高いですが、要は自分の趣味的な業からは足抜けできぬの謂いにて。ははは。
- 65 名前:<堕ちた天秤の騎士>ゲイナー ◆/GAynorYPA :2011/09/15(木) 01:13:57
- >>
それを防ぐことが出来たのは、二の矢を用意していたからに他ならなかった。たとえ一の矢
でしとめられずとも、二の矢によって必ず屠るという心の有り様が、結果として良い方につな
がった。
「返された」矢をつがえた二の矢によって迎撃する。つんざく様な音がして、衝突せし2つ
の矢は、微塵となって砕け散る。
生じた衝撃波により黄金の髪をなぶられながら、ゲイナーは混沌の弓を手の内で回転させた。
すると、弓は何処かへかき消える。さながら奇術のようだがそうではない、それは魔術だ。
弓を仕舞った理由は単純だった。反射能力持ち(リフレクター)相手にいくら飛び道具を使
おうとも、意味はなくキリも無いからだ。・・・ならばこれで片を付けるとしよう。
両の手にはめた手袋を脱ぎ捨てると、左の腰に吊った刀の鞘を左手で持ち、その柄に右手を
かける。そのまま左の親指で鍔を押し上げ鯉口を切ると、一息に刃を抜き放った。
戒めより解き放たれ、抜き身となった一振りの刀。刃渡りは二尺三寸ほどか。刃紋は見る者
を冷ややかに見返す様な直刃。先ぞりになった刀身の、その切っ先は異様なまでに鋭い。これ
ならば容易く皮膚を食い破り、肉に深々と突き刺さることだろう。それは自らほのかに輝く様
な妖しの刃。銘は叩き潰されているが、試し銘は切ってあった。
ゲイナーがこの世界にきて見つけた力ある品の一つ。村正の作とも云われる忌わしき妖刀。
その刀を手に堕ちた天秤の騎士は時を渡りし陰陽師へと、ゆっくりと歩み出す。歩きながら、
口内にて呪文を唱える。
「菊理媛神よ。<法>の神が一柱よ。汝、縁を括るもの。汝、命を繋ぐもの。我は<法>の
代行者なり。我は<法>の体現者なり。汝が敵は我が敵。我の敵は汝が敵。我らが敵を砕く
ため汝が力を我に与えよ。我らが敵を括り捕えよ。菊理媛神。くくる姫よ。汝がその名前の
ごとく、括れ括れ我が敵くくれ。括れ括れすべてをくくれ。括れ括れ手足をくくれ。括れ括
れあの首くくれ。」
祝詞は神に聞き遂げられ、神威は疾く示される。虚空より現れたいくつもの帯が、麗しき
陰陽師の動きを括り止めんと幾重にも重なり襲いかかる。同時に堕ちた天秤の騎士が走った。
妖刀を腰だめに構え、銃弾のように陰陽師へと突撃する。そして心の臟めがけ、妖しき刃が
迸った。
- 66 名前:<堕ちた天秤の騎士>ゲイナー ◆/GAynorYPA :2011/09/15(木) 01:17:28
- 魔術行使からの間合いを詰めての刺突だ。魔術を含め適当にさばいて構わん。それと、次
のターンで「七胴落とし」の真名を解放し切りかかる予定だ。まあ、そちらの出方次第だが。
- 67 名前:柳生友景 ◆YAGYUbJ766 :2011/09/16(金) 01:00:18
- >>
軟体動物の触手のように蠢いて、白魔の群れが来たる。友景の全身至る所に、それら妖かしの帯
どもは括り≠フ狙いを定めていた。
友景は一刀を口元に持って行き、妙な真似をした。刀身を横咥えにしたのである。
空いた両手は更に奇妙な仕種をした。
左手は前方に突き出され、それに沿って右手が大きく後ろへ引き絞られる。仮に弓を持っていたな
ら、それに矢を番える動作だ。
矢は生じた。
青白く光る一本の矢が、両手の間に生じたのだ。霊力によって象(かたど)られた矢であった。
「千早振る 神の子供が 立ち出でて 弓弾く時は 悪魔たまらじ」
口に刃物を含んでいるにしては確かな発音で、静かに神歌が誦されるや、存在しない筈の弦音も
高らかに旋光が疾った。
友景が射た矢は、魔の布へ飛ぶ空中の一点で突如分裂した。速度はそのまま、数十本に増殖し
たのである。軍勢が射かける矢ぶすまに等しい光の雨は、魔の布全てを蜂の巣にし、そのまま大地
へと縫い付けた。
海中でおどる海藻の林のように、地表でもがく白布のただ中を突っ切って、妖鋼が光芒となって殺
到した。
ゲイナーの突きである。刺殺の妖気を濛と噴き上げる剣尖に臆さず、友景は愛刀を右手へ戻す。
灰色の男≠ヨと、縹色の直衣は躍動した。右袈裟の斬殺弧を伴って。
ともに術客にして剣客たる二人の魔人は一瞬交錯し、一瞬で飛び違って離れた。
友景は電光の速度で振り向いた。白刃は自然と青眼についている。
直衣の左胸が、わずかに切り裂かれている。刃物のような切り口だった。
鋭利極まりない切り口で、黒ずんだ染みが緩々とその面積を広げつつあった。
- 68 名前:柳生友景 ◆YAGYUbJ766 :2011/09/16(金) 01:01:37
- こちらも矢の妖術で布をやり過ごしつつ、少々斬られました。次から本格的に剣戟ですね。
最後の方、「七胴落とし」の真名解放に差し障るようでしたら、御指摘下されたく候。如何様にも
直します故に。
- 69 名前:ゲイナー:2011/09/20(火) 12:05:18
- >>
頬に一筋の緋色が流れた。それは柳生の一太刀によって刻まれた傷跡。・・・あのタイミン
グでほぼ相打ちとは。
「・・・本物だな」
残身をとりつつ向き直りながら、左頬に袈裟に刻まれた傷口を見下ろしも、流れる血を拭い
もせずに落ちた天秤の騎士はつぶやく。この男を前にしては、ただそれだけの僅かな隙が、致
命的のものになりかねなかったからだ。それほどまでに、術を破った手際も、剣の腕も、どち
らも並外れた力量だった。
互いの刃圏の僅かに外で、ゲイナー公子はこの国では見慣れぬ剣の構えをとった。剣を持っ
た右手と右足を前に出した右半身の構えをとる。両膝は力を蓄えた発条のように曲げられ、刀
身は肩のラインで地面と水平に保たれ、切っ先は敵の喉元に向けられている。その切っ先は円
を描くようにして小刻みに揺れていた。
刀を持つ手の握りも奇妙なものであった。手の甲を上にして、柄頭が手首に下から押し上が
るようにして持っているのだ。
得物こそ日本刀だが、天秤の騎士のその構えは日本の剣術のものとはかけ離れたものだった。
西洋式の剣術、それも鎧ごと敵を叩き斬る剛剣ではなく、敵の急所を狙うことに特化した速さ
主体の剣術だ。見るものが見れば、レイピアとサーブルの構えを混ぜ合わせたような構えだと
気づいただろう。
剣を構えたままゲイナーは、精神を集中し、剣の銘を呼ぶ。
「七ッ胴」
その言葉とともに刀の纏う気配が一層濃度を増す。刀身はぬめるように輝き、溢れ出すは刃
にふれる光や空気、時間までもを切り刻んでいるかのような凄惨な気配。真名を解放された妖
刀「七胴落とし」が真の意味で束縛から解放されたのだ。
「こいつは七つの胴を一太刀のもとに斬り落としたといういわれを持つ刀だ。それが本当かど
うかはわからんが、おれが『こちら』に来て手にした刀の中では一番の出来栄えであることは
間違いない。いまここでお前の胴を断ち切って、その切れ味を試すとしよう」
そういいながら邪悪なる公子は一歩間合いをつめた。その足運びも日本式の剣術とは大きく
違う。前足に後ろ足を引きつける継ぎ足ではなく、普通に歩くように左右の足を交互に前に出
す歩み足を用いていた。
そして互いの刃圏に踏み込んだその刹那、呪われし公子の手の内から銀の光がほとばしった。
相手の喉元めがけて放たれた刺突だ。手首を返さずに相手の首右側面を狙って放たれたその突
きは、かわされれば、体を開きながら腰の回転を利用して繰り出される強烈な薙ぎ払いへと変化する。
- 70 名前:ゲイナー:2011/09/20(火) 12:08:36
- 出先からなのでトリップなしとさせてもらう。
刺突からのなぎ払いを放った。もう1ターンこのまま続けてもかまわんし、そうでなけれ
ば、おれの剣を飛ばすか砕くかしてくれれば<法>の剣を召還しよう。
- 71 名前:柳生友景 ◆YAGYUbJ766 :2011/09/21(水) 01:06:55
- >>
「見事」
再び肉薄する妖刀の鋭鋒へ、紅い唇から称賛の声が放じられる。
銘『七胴落とし』の妖刃ぶりではない。それを操るゲイナーの技前にである。真率よりの言葉であ
った。
直衣の左胸が少し疼く。浅手ではある。対手の頬にも、これと等しい深さの傷がある。
異人でありあがら日本刀――それも明らかに類い稀な妖刀だ――を易々と扱った上、友景を慄
然とさせる剣技の数々。
翻って見れば、式を焼いた火術、『式神返し』、そして菊理媛神の呪法の凄まじさよ。
剣と妖術、そのどちらも技量を尽くして五分と五分――いや、毛ひと筋の油断を見せようものなら、
六四で対手が勝るや、と友景は冷徹に見て取った。
それだけに、と心中で呟く。……それだけに、さまでの敵を敵とせるは、柳生新陰の剣士として本
懐なり、と。
得物は刀だが、友景には初めて相対する異国の剣技である。突きに特化したその剣速は、日本
剣法とは比較にならない。
必殺のその突きを、斜横に跳んで友景はかわした。
友景だからこそ出来た事だ。一流の剣士でも田楽刺しに貫かれていただろう。
その避けを十分に見澄ました変幻の太刀遣いで、ゲイナーの妖剣は友景が跳んだ方へ薙ぎ払
われる。
微細な黒い筋が二、三条、闇に泳いだ。
沼沢の泥中に埋没するかのように、友景は姿勢を低めながら片膝をついたのだ。『七胴落とし』
が斬ったのは彼の頭髪の幾本かであった。
「この友景、三百年の時を超えた甲斐はあったと敢えて言おう、<呪われし公子>よ」
誰に聞いたか、対手の異名を口の端にのぼし、立ち上がりながら友景は剣を繰り出した。
地表すれすれを飛び抜く燕のように、逆袈裟に撥ね上がった一刀は瞑する暇(いとま)も許さず
四十五度の仰角を駆け昇った。
- 72 名前:柳生友景 ◆YAGYUbJ766 :2011/09/21(水) 01:08:20
- <呪われし公子>の異名をわたしが知っているのは、ルシファー猊下よりの情報にて。
では、もう1たーんこのまま続けましょうか。折角真名を解放した『七胴落とし』を、すぐ手折るのも何やら
勿体なく感じられ候。
後発の薙ぎ払いをしゃがんでかわし、立ち上がりざまに斬り返しています。お好きに避けて下さい。
次のわたしのれすで、そちらの刀を飛ばすか砕くか、どちらかとなる撃ち込みを放ちましょう。
- 73 名前:ゲイナー:2011/09/21(水) 16:25:31
- >>
何故「呪われし公子」の忌名を知っているのか、そんな疑問は浮かばなかった。彼の名は多
元世界の敵対者としてあまりにも有名すぎた。また、そんな疑問が浮かぶ余裕もなかった。柳
生の剣にはそのような余分な思考を浮かばせるほどの余裕などなかったのだ。
薙ぎ払いの一太刀を放ったその円運動のままに、上体を前傾させ『軸』を斜めに傾け、独楽
のごとく回転し迫る刃をかわそうとするが、完全に回避することは不可能であった。いかよう
に躱そうと刃の軌跡に体の一部が残る。それに加え、無理をして躱そうとすれば体勢を大きく
崩し更なる隙を生んでしまう。
無傷で避けるのは瞬時に断念する。深手を避けることさえできればそれでいい。鋼の刃が服
を断ち切り皮膚を切り裂き肉に吸い込まれる。背中、左の肩甲骨の辺りに刃の食い込み通り過
ぎる凍えるように冷たく焼け付くように熱い感覚が通り過ぎた。
「クソッ!」
激痛に苛まれながらも呪われし公子は次の太刀を振るう。痛みに負け動きを止めれば、隙を
見せれば、そこに待つのは慣れ親しんだ敗北だ。
慣性を腕力でねじ伏せ、回転しながら両腕を抱きかかえるようにして引き寄せる。間合いが
近い。十全な一撃を繰り出すには握りをかえる必要があった。左手を柄にそえ固定し、右手の
握りを直す。
奇妙な握りだ。ゴシッククロスを模した形状の鍔に中指と人差し指をかけ、V字のに開いた
指の間に刀身を挟みこむようにして刀を持っている。これは指の負担が大きいことからとうの
昔に廃れたイタリア式の古流剣術の持ち方だが、強靭な指の力さえあれば多彩な技を細やかに
繰り出すことのできる握りだった。
持ち直した刀を手に、上体を倒したままの円運動をさらに進め、ぐるりと360度、一回転
する。そのまま敵めがけて倒れ込むように接近し、回転式の肘打の要領で肘でリードするよう
に刀を振るった。
「おれの技を堪能したなら死ぬがいい!さあ、儀式の贄となれ!!」
- 74 名前:ゲイナー:2011/09/21(水) 16:46:56
胴廻し回転蹴りの要領で斬撃を放った。ちなみにこの握りは、コガン流の流れとは似て非
なる握りだ。読んでの通り目的も全く違う。
さて、これで七胴落しの出番も終わりか。なんなら腕ごと飛ばしてもかまわんぞ。こちら
は裏設定で、TRPG版の「魔力の火鉢」という魔術を展開している。これは器状の物体に魔力
を貯めるておけるという魔術で、これにより無尽蔵ではないが余裕を持った魔術の行使が可
能だ。剣聖との戦いの際に溜め込んだミストをこの器に溜め込んであり、故に将門復活の儀
式を行いながらも連続した魔術行使を可能としている。腕一本生やすなどの大技も演出的に
ありだろう。
なお、次のターンで小壜につめて保存してあった「命の意味を知った」少年の血を飲んで
聖杯ルシファーを召還する。
- 75 名前:柳生友景 ◆YAGYUbJ766 :2011/09/21(水) 23:58:29
- >>
奇妙な、しかし理に適った敵の握りを見て、友景はこの死闘の只中に「異国にはさても様々な剣
が芽吹いている事だなあ」と場違いな感嘆を発した。
「どちらも御免蒙る」
口に出してはそう答えた。大きく、大きく振りかぶられる妖刀を前に、心の内で肋一寸(あばら
いっすん)≠フ秘語を念じつつ。
巨大なけものの唸り声のような暴風を圧して、友景の霊的知覚に訴えかける音響がある。
即ち魔陣の傍で、慟哭の雄叫びを上げる骨壷である。
――あれが髑髏検校なる妖人の遺灰か。
ゲイナーの斬撃が迫る須臾の間に、友景はある種の感慨を込めて独語する。
友景が元いた寛永元年という時間軸では、未だその名では生まれてはいない存在だ。友景も時
空を超える前に崇徳院から話を聞かされたのみである。
島原は原城にて、江戸期を通じ最大の切支丹反乱が起こるのは、もう少し先の話である。
その旗頭となった美貌の天童が、呪詛と妄執の余り魔界へ転び生まれるのも。
そうして血吸い鬼へと転化≠オた彼が、徳川家への復讐を果たすべく江戸を襲いながら、智勇
の士らの活躍により滅ぼされるのも。
怨念を抱いて眠る平将門を目覚めさせる起爆剤として、同じく怨念の余り真祖となった長生者(エ
ルダー)髑髏検校の骸を使う。――実に悪魔的な着想と言えた。
魔風の唸りも妖人の祈祷(オラショ)も断ち切って、『七胴落とし』の斬風が来る。その二つ名に
は寸毫の誇張もなく、幾つ人体を重ねようが綺麗に切り刻んでのけるだろう。
対する友景の刀は青眼中段。人も人ならざるものも、数多の命を奪いながら、なお秋水たるを失
わぬ銘刀だ。やわか『七胴落とし』にも引けは取らない。
磐石の根を張る大木そのものの下半身は、それでいて微風のそよぎにも種子を飛ばす蒲公英の
如く軽やかですらある。
そして新陰流、肋一寸=B――襲いかかる太刀に斬らせるのは僅か一寸のみ、読み切ったそ
の一閃裡に彼我の死命を決する至極の剣理であった。
闇を劈(つんざ)く猛禽の邪剣を迎え撃ち、
「残月=v
低い呟きが洩れる。友景が音もなく揮った密剣の名であった。
尾張柳生の鼻祖、如雲斎兵庫すら会得できなかった江戸柳生の奥義は、一条の流星となってゲ
イナーへ――その妖刀を保持する奇怪な握りへとたばしる。
黒血が飛沫いた。
斬線を刻まれた友景の体から噴き上がった鮮血だ。その苦痛も傷の深さも、友景の読みとぴたり
正鵠であった。
- 76 名前:柳生友景 ◆YAGYUbJ766 :2011/09/22(木) 00:01:03
- ではざっくり斬られつつ、反撃を試みてみました。
残月≠ヘ菊地秀行「柳生刑部秘剣行」より。具体的にどうという描写のある技ではありませぬが。
再生が叶うなら、頂くのは腕でも面白い。では、そうさせて頂きましょう。
狙いは腕というか、手首あたりですが。
それと、>>30は無しに致しました。
そのままでは使わず、解体して再利用する積りです。ご了承下されたく。
- 77 名前:<堕ちた天秤の騎士>ゲイナー ◆/GAynorYPA :2011/09/23(金) 00:34:52
- >>
灼熱が右の手首を走り抜けた。何が起きたかは見ずともわかった。切断されたのだ手首を。
右手に妖刀を握ったまま。
「■■■■■■■■■■■■■!!!!!!!!!」
獣じみた咆哮をあげ、半ば無意識のうちに呪文を編み上げ魔術を発動。同時に敵の二の太刀
がくるよりも速く後方へと跳躍。
風が吹く。自然ならざる風が吹く。いとも苛烈な風が吹き荒れる。呪われし公子と柳生の魔
剣士の中間地点を境にして二つの気流が生まれた。
風の高位精霊の召喚。追い風に乗って通常の3倍の速度で後方に跳び退り大きく間合いを取
る。同時に敵に対しては向かい風を。猛烈な突風が吹き付け追撃を阻む。
激痛に耐えながら改めて見るが、やはり手首から右手は切断されていた。鮮血が間欠泉のご
とく吹き出している。背中の傷も浅くはない。緋色の液体が止めどなくあふれている。ともに
深手、さらには武器まで失ってしまっている。
辛うじて敵の追撃を防いではいるが、風の精霊はそう長くは持たないだろう。早急に態勢を
立て直す必要があった。左腕を懐に差し込み内より緋色の液体で満たされた小壜を取り出す。
「これを使うことになるとはな」
苦々しげにそういうと、瓶のふたを親指で押し開け中身を一気にあおった。呪われし公子の
体が小刻みに震える。断末魔の痙攣のように小刻みに震える。だが、それは死の痙攣などでは
なかった。逆だ。生命の鼓動、歓喜の衝動、こみ上げてくる笑いに全身が震えているのだ。
「馴染む、馴染むぞ!!」
呪われし公子は産声を、歓喜の咆哮をあげる。壜の中の緋色の液体、それは血液だ。人の血
液。それも命の意味を知り、無限の可能性を得た或る少年の血液だ。
血は生命の通貨であり、生命そのものでもある。吸血鬼は血を啜ることによって生気を奪い
補う。また高位の吸血鬼ならば、血と同時に記憶や相手の存在そのものを取り込むことが出来
た。そしてゲイナーは、魔術によりそれと同じことが出来た。つまり血と血を混ぜ合わせ、他
者の特性や能力を取り込むとが出来たのだ。
「美味いな」
爛々と赤く光る瞳を細め笑いながらそういうと、いまだ血を吹き出す右手の断面を顔の前に
かざす。そして一言呪文を唱えた。変化は迅速にして怪奇。切り株の様な右手の断面の肉が見
る見るうちに盛り上がり、欠陥が植物の根のように生えていき、白い骨が、赤い肉が、滑らか
な皮膚が形作られる。数秒も立たぬうちに呪われし公子の右腕は再生していた。血を飲むこと
により取り込んだ少年の可能性の力、ゲイナー自身の再生魔術、そして何処かより溢れ出し呪
われし公子へと注ぎ込まれる膨大な魔力による肉体の再構成だ。右腕だけではない、背中の傷
ももはや完全に塞がっていた。
五体満足となった呪われし公子は、再生した右腕を空へとのばす。さながら天空の星をつか
もうとするかのように。そして一言呪文を唱えた。
「輝く者が天より墜ちた」
その言葉とともに落ちた天秤の騎士の手のうちに一振りの剣が召喚される。光り輝く純白の
美しい剣だ。やや細身の刀身を持つ騎士剣。鍔は6対12枚の翼をかたどった形状となってお
り、刀身には神代の文字が刻まれていた。聖杯ルシファー。法と混沌の二重神格をもつ、強大
な堕天使の力の一部が込められた聖剣。この剣にはその<法>の面が強く現れていた。
「これは聖杯の一部を材料として鍛えられ、そこにルシファー猊下の力を込めた<法>の聖剣
だ。貴様のだんびらとは訳が違うぞ。その体で充分に味わうといい」
そういいながらゲイナーは、右手に握った剣を手の内で回転させ、逆手に持ちかえる。左足
を後方に引き、右足を前に出す。そして切っ先を地面に突き刺し剣を垂直に立て、左手は柄頭
の上にそっと置いた。まるで剣を杖代わりに寄りかかっている様な無防備なその姿。だが相手
は気づいたであろうか、それが構えであることに、堕ちた天秤の騎士が既に剣を構えていると
いうことに。この構えを<愚者>の構えという。そしてこれは全くの偶然であり奇遇では在る
が、血の持ち主である少年も<愚者>より始まり<宇宙>そのものに等しい無限の可能性に至っ
たそうだ。
- 78 名前:<堕ちた天秤の騎士>ゲイナー ◆/GAynorYPA :2011/09/23(金) 00:39:15
- 予定どおり右手を飛ばし、すぐ再生させた。魔力の火鉢の説明はまたいずれ行う。
飲血からの聖剣の召喚も行った。形状に関しては大きくリデザインさせてもらったがな。
見ての通り無明逆流れモドキの構えで待ち受ける。好きにかかってくるがいい。
- 79 名前:柳生友景 ◆YAGYUbJ766 :2011/09/23(金) 17:54:56
- 諸々、了解です。
で、一つ提案ですが、掛け合いをやってみるのは如何?
「将門を復活させてあぁんな事やこぉんな事をしてやるのだ!」
「外道に堕ちられたか、<天秤の騎士>!」
的な(ルシファー猊下関連に言及しても、よいかもしれない)。
その為に、鍔迫り合いにもっていくのはどうでしょう。
何とか無明逆流れを防ぎ止めて、鍔迫り合いの膠着状態で行う訳です。
(でも最後にはわたしの刀は折られる)
斬り合いをしながらだとやり難いかなと思いましたゆえ。
不要であれば、普通に斬り合い続行で問題ありませぬ。
因みにこの<愚者>の構えとは、所謂独逸流剣術ですか。
また不見識で恐縮ですが、「命の意味を知った少年」とは誰々でありましょう?
- 80 名前:<堕ちた天秤の騎士>ゲイナー ◆/GAynorYPA :2011/09/24(土) 16:20:32
- 今日は時間がないため要点だけ。
>つばぜり合い
了解した。それでいこう。
>命の意味を知った少年
アルカナ「愚者」より「宇宙」に至ったのあの少年だ。ペルソナ3の有里 湊だな。
・・・いま手元にPSPがないため確認できないのだが、「宇宙」のアルカナに目覚める
ときにそのようなフレーズが在ったと記憶しているのだが。・・・もしかすると勘違いか
もしれんな。調べておく。
- 81 名前:<堕ちた天秤の騎士>ゲイナー ◆/GAynorYPA :2011/09/25(日) 22:15:49
- >命の意味を知った少年
見直したところ正確には「命の答えにたどり着いた」少年だな。本スレにあげるときには
修正しておくとしよう。
- 82 名前:柳生友景 ◆YAGYUbJ766 :2011/09/25(日) 23:20:19
- >>
一見して疲れた老人が杖にすがるような、その実恐るべき戦闘態勢に対し、一刀を瞬転させ、立て
た刀身を右肩につける八双、柳生新陰流では陰の太刀≠ニ称される構えを友景は執った。
動かない。天賦の才持つ名工が心血を注いで彫り上げた像のようだ。
数瞬前、陰陽道の呪句を唱えながらの斬光閃下に、妖魅の風を文字通り斬り払い、その勢いで対
手に躍りかからんとした姿勢は、脆くも崩れたのであった。
肉体的には、斜めに斬られた傷の痛みも忘れた。
精神的には、斬り落としたゲイナーの手首が瞬時に治癒するという驚愕も忘れた。
陰の太刀≠煦モ識的な構えではない。ほとんど対手の殺気に自動反応した結果である。何がし
かの極北とも評すべきこの魔性の構えへ迂闊に攻めかかる事は、それだけで大破綻を招くと剣人の
本能が警告したのである。
「――ルシファー猊下の力だと?」
呻くように友景は言った。見開かれた双眸は大地へ突き立つ白き美剣に注がれている。
如何に幽世(かくりよ)の理を扱う技術者とはいえ、西欧と隔たる日本国の陰陽師にしてルシファー
の名に対する反応としては、些かならずおかしい。
動揺を自ら抑えるかのように、
「<法>の御剣、<混沌>の討ち手。――そうか。そういう事か。左右の手を競わせるような、今この
時もまた<天秤>の差配なのか」
謎めいた述懐と共に、鉄壁も裂けよと放たれる陰の太刀=B江戸・尾張の剣脈に分かたれる以前
の旧(プレ)柳生流の太刀は、必殺必死の白刃圏へと踏み込んで行った。
- 83 名前:柳生友景 ◆YAGYUbJ766 :2011/09/25(日) 23:21:33
- 展開については、かたじけなし。
では、何だか胡乱な事を喋りつつ、右八双から斬りかからせて頂きました。受け止めて頂きたく。
また陰の太刀≠フ名は「魔界転生」から。
>ペルソナ3の有里 湊
ああ、あちらでしたか。ご教授かたじけない。わたしは2までしか知らないのと、確かDIOの「世界」を
使うと聞いておりましたので、ひょっとするとDIOかしらんと考えてしまいました。
因みに「ざ・わーるど」は是非使って頂きたいところにて。
- 84 名前:柳生友景 ◆YAGYUbJ766 :2011/09/30(金) 23:39:26
- 少々ご連絡にて候。
今週の土、日と来週の金〜日は、朝鮮妖術師との戦いに出張らねばならぬゆえ、
申し訳ござらぬが返答ができません。御寛恕下されたし。
- 85 名前:<堕ちた天秤の騎士>ゲイナー ◆/GAynorYPA :2011/10/03(月) 00:46:09
- >>
柳生友景が己の刃圏に踏み入れると同時に、堕ちた天秤の騎士は、添えた左手で柄頭を手前
側へと押し下げた。するとテコの原理により、柄を握った右手を支点として剣は回転。切っ先
は跳ね上がる。大地より天空へと飛翔する昇竜のごとく、輝ける刃が柳生友景の体を縦に両断
せんと逆しまに流れる。
陰の太刀と輝ける剣。必殺を期して振るわれた二つの刃は、だがしかし、互いの体を捕える
ことはなかった。八双より振り下ろされた刀と、「愚者」より跳ね上げられた剣は、引き寄せ
られるようにしてぶつかり合い、刃と刃はしかと噛み合う。
さながら悲鳴の様な甲高い音が鳴り響き、硬質の金属同士がぶつかり合う衝撃が両腕を走っ
た。刀身ごと断ち切るつもりで振るった剣は、もくろみを果たすことなく、敵の刀に阻まれる。
どう見ても神刀妖刀のたぐいには見えず、ただの刀に過ぎぬのだろうが、その刀は神剣の一撃
を防いだのだ。銘はわからぬがかなりの業物なのであろう。柳生の宝刀「三原正家」に並ぶほ
どの名刀やも知れぬ。
まあ、いい。一太刀にて叩き斬れぬのならもう一太刀。いや、もう一押ししてこのまま断ち
切る。その思いとともに、右手一本で握っていた剣に左手を添えた。そのまま両の手でしっか
りと柄を握ると全身の筋肉に力を込めた。ただでさえ逞しい筋肉が膨張し、灰色の衣服をはち
切れんばかりに押し上げる。
だが、動かない。刃が噛み合った状態からそのまま押し上げ敵の刀ごとその肉体を両断しよ
うとするが、均衡状態は崩れない。歯を食いしばりさらに力を込めるが、かえってくるのは巨
石でも押し上げているような重く果てしない手応えのみ。さながら天の蒼穹を支えるアトラー
スにでもなったかの様な気分。
苦々しい思いが胸中をよぎる。体格では完全に勝っているはずなのに、刃を一気に押し込む
ことが出来ない。敵の華奢な体のどこにこれだけの力が秘められているのか。同時に感じるの
は苛立と若干の焦り。今の状態はお世辞にもいい態勢とは云いがたかった。剣が下側になって
いる以上、定石ならば相手の剣をいなし次の一太刀に移るべきだ。だが必殺の一撃を防がれた
ことにより矜持に傷を付けられたことと、徐々にではあるが「このままでも押し切れる」とい
う感じ始めた手応えが、呪われし公子にこの体制を継続させた。
「<法><混沌><天秤>にルシファーか。・・・なるほど、そうか。エントロピーの貴族か
恒常の王族かはわからんが、おまえも<上方世界の神々>にゆかりの在る者か。」
全身全霊を持って神剣を押し上げながらも、かつての天秤の騎士は時を超えし陰陽師に語り
かける。
- 86 名前:<堕ちた天秤の騎士>ゲイナー ◆/GAynorYPA :2011/10/03(月) 00:48:39
- 遅くなったな。詫びさせてもらおう。
さて、つばぜり合いまで持ち込んだ。しばらくは掛け合いに終始するか。
そちらの予定は了解した。互いの予定の合う範囲で進めるとしよう。
- 87 名前:柳生友景 ◆YAGYUbJ766 :2011/10/03(月) 23:57:24
- >>
「当たらずと言えども遠からず」
互いの得物を噛み合せたまま、静かな声音で友景は答えた。
逆薙ぎの剣を今も受け止め続けているのは、麗人の相にも似合わぬ膂力に加え、戦国を生き抜い
た剣流独特の体捌きが加味されたものであろう。
「我は神州の怨魔邪怪を束ねる崇徳上皇に仕えしもの、日本魔界衆の縁者なれば。――といっても
この時代にはあらず。今を去ること二百数十年余の過去においてだが。
時を航(わた)り、寛永の世よりそなたを討ちに参ったは――そう、大魔王が秘命なり」
剣豪陰陽師の内心は、しかし蹴鞠に興じる公達のようなその表情ほどに穏やかではない。
ゲイナーの剣は想像以上であった。魔剣士と言うに余りある遣い手が、ただならぬ神剣を以って揮
った一撃だ。
受け止められたのは僥倖に過ぎず、そしてこのまま撃ち合えば、己の刀身は氷柱の如く砕かれか
ねない事を友景は理解した。
下方よりせり上がる、天を衝かんとする竜もかくやの勢を満身で抑え込みながら、友景は密かに決
意する。
――崇徳院より賜りし力、使わねばならぬか。
「ゲイナーよ。そなたは先程、自ら<天秤の騎士>を名乗ったな」
友景は対手の、半神半人の如き美貌を正面から見据える。
上下の顎(あぎと)となり、攻撃と防御を共に一体化させた二刃の静止相は、凄まじい力と力が伯
仲しているが故と全く感じさせない。
「<天秤の騎士>とは、<宿命>に供奉せし北面武士(ほくめんのぶし)。天地万物(あまねくてん
ち)の均衡たるべき<天秤>の名代にして、十二の十二乗の世界に輪廻転生を重ね、戦い続ける
いくさ人と聞く。
その益荒男(ますらお)が、何ゆえを以って斯様な外道を為す」
天では爛れた臓腑のような黒雲が、今にも滴り落ちそうにのたうっている。地では張り巡らされた
魔陣から噴きこぼれる闇黒の光が、その凶々しい輝度を増している。
空と大地の全てが、その最も底の底に潜む力を、狂おしいほど求めていた。
――言うまでもなく、平将門である。
人も知るように、平新皇将門は平安時代、関八州にユートピア建設を夢見て朝廷へ弓引いた英
雄である。事破れて処刑された後も、怨念の塊でありながら、不可解にも関東を鎮護する大地霊と
なったという。
そしてこの日本最大の御霊は、江戸の地の底深くで貪ってきた冥府の眠りから、今まさに解き放
たれようとしているのだった。
「ひとたび将門公が目覚めれば、その祟りは四百余州を焦土と変じせしめよう。また霊的次元のみ
ならず、果てしなく遠く、限りなく近い異世界(とつくに)すらも滅却させるは必定。――そなたが喚び
起こさんとしているのは然程の呪いぞ。己が大悪行の行き着く果てを、まこと承知の上か」
- 88 名前:柳生友景 ◆YAGYUbJ766 :2011/10/04(火) 00:02:27
- 時間はお気になされるな。
ではこのような感じで。「大魔王が秘命」とは、崇徳院ではなくルシファー猊下のほう。
<天秤>云々の解釈に誤りがありましたなら、ご指摘をお願い申し上げる。
もう少し後に鍔迫りが崩れる際ですが、例えばこういうのは如何。
わたしが四十八の柳生必殺剣のひとつを使い、鍔競り合いを押し切ろうとするも、逆に神剣逆流れの前に
敢え無く自壊。こちらの刀は折られ、わたしも少し斬られるという方向。
勿論、あくまで一案です。
- 89 名前:<堕ちた天秤の騎士>ゲイナー ◆/GAynorYPA :2011/10/13(木) 22:02:35
- ・・・このところミッゲアの指示で百万世界を飛び回っている。
月曜までには必ず返すのでレスはもう少し待ってくれ。
- 90 名前:柳生友景 ◆YAGYUbJ766 :2011/10/14(金) 22:40:22
- 三千大千世界のいずこでも、浮世は世知辛きものにて候わば。
こちらはお気になさいますな。
また、フリメルダどのとの闘争が再開しそうならば、そちらを優先して頂いて
構いませんよ。
- 91 名前:<堕ちた天秤の騎士>ゲイナー ◆/GAynorYPA :2011/10/24(月) 22:01:14
- >>
「なるほど。貴様はこの世界を憂うもの(ルシファー)より使わされた存在か。」
そうつぶやくと、問いかけられた天秤の騎士は、その問いには直接答えず囁くようにして言
葉を告げる。
「おまえは己の住む世界を見てどう思う?これが素晴らしき世界だと言い切れるか?天秤によっ
て均衡を保たれたこの世界が。どちらかに傾きすぎぬよう、法と混沌が永遠に争い続けるこの
世界が。争いの絶えぬ、差別や暴力に満ちた、かくも無慈悲なこの世界が。」
おれはそう思わんよ。そう言外ににおわせながら、呪われし公子は美しき陰陽師の瞳を覗き
込む。
「おれはかつて天秤の理こそが完全な物だと考えていた。ゆえに何も疑うことなく天秤に仕え、
その見返りとして天秤の安息の中におれはいた。それは素晴らしいものだった。完全な安息だ。
楽園と呼ぶにふさわしい物だった。あの様な安らぎをおれはもう二度と得ることは出来ないだ
ろうな。」
懐かしむ様な切なげな顔でかつての天秤の騎士はそうつぶやく。
「そう、おれは天秤それ自体を否定している訳ではない。それどころかむさぼるごとく愛して
いる。・・・だが、同時に完全に肯定している訳でもないのだ。法と混沌がその覇権を争い戦
い続けるという、この多元宇宙の多様性と適応性にはかねてから不満を抱いていた。おれは天
秤を愛している。その有り様を肯定している。だからこそ、その不完全性には不満を持ち、お
れならばもっと巧くできるはずだとも思っているのだ」
そこでいったん言葉を区切ると、剣を押し上げる諸手に己の内の激情のままに更なる力を込
めながら先を続ける。
「故におれは愛する天秤に対し反旗を翻したのだ。それ頃が天秤のためであるとも信じてな!
かねてよりその理念に共感を感じていた法の力を後ろ盾にして、ゲイナー大公としてこの世界
に君臨せんとな。自らの手によって世界を治め、不完全な世界を完全に作り替えるために!」
叫ぶようにしてそういうと、呪われし公子はふと黙り込んだ。その口元に苦々しげなものが
浮かんでいる。
「・・・だがそれは失敗し、おれは天秤の安息を失った」
先達と同じようにな。手の中の「白の剣(ライトブリンガー)」に一瞬だけ目を落としなが
ら、苦笑まじりにそういう。
「その後はしばらく法に仕えていたが・・・いや、それはどうでもいい話だ。大事なことはお
れはまだ諦めていないということだ。次こそはやり遂げてみせよう。そのための将門の力よ!
平新皇将門が力もって、いま一度天秤に挑み今度こそ、その支配権を手にしてみせよう。それ
が叶わぬならこの身に永遠の死を!」
慟哭とともに吐き捨てる。
「おれが望むのはただ二つだ。完全な世界かさもなくば死か。それが叶うなら世界の一つや二
つ、滅び去ろうが安い物よ!」
- 92 名前:<堕ちた天秤の騎士>ゲイナー ◆/GAynorYPA :2011/10/24(月) 22:03:19
- 大幅に遅くなったがなんとか返した。拙いな箇所も多々あるため後々修正するつもりだが、
とりあえずはこんなところだ。
- 93 名前:柳生友景 ◆YAGYUbJ766 :2011/10/25(火) 02:08:36
- >>
血を搾らんばかりに吼える外法の騎士を、友景は冬の湖面のような眼差しで見つめる。
何か言おうと開いた朱唇は少しく震え、すぐに閉じられた。鍔競り合いの均衡は揺るがない。
再び開いた口からは「憐れな」という声がひそやかに洩れた。
「そなたの魂は、何物によっても満ち足ることはなかろう。例え己が渇望せし、完全なる世界とやら
を手にしたとしても」
かつての比類なき勇者が陥った魂の孤独≠、友景はそう切って捨てた。
「……わたしの時代では建ったばかりの千代田の城も、三百年近くを経た今≠ナはその屋台骨
を揺るがせていると耳にした。江戸幕府を滅ぼす大いくさが始まるだろう、とも。
成る程、我々は修羅の巷から抜け出せはせぬ。後三百年が経とうが、人は変わるまい。人が作る
世もまた変わるまい」
徳川の平和(パクス・トクガワーナ)¥I焉の時にやって来た過去人は、静謐に続けた。
「素晴らしき世界などと、とても呼べぬ。――わたしのいる世界は左様な所だ。恐らくいかなる<層>
も、<天秤>の均衡が保たれゆく世界は、斯くの如き場所ならん。
だが其処でこそ、生はまことの意味で生たるのだ。
そなたが厭う多様性と適応性と不完全性の狭間から、喜びと絶望と悲しみが生じる。それらはまた
新たなる愛を生み、かくて命は縷々として紡がれる。
故に、我らは生きぬきそして地獄に堕ちて暗黒の曠野をさまようのだよ」
傾いだ刃の十文字を形作る二振りの刀剣へ、友景の声は深々と降りてゆく。
「ゲイナー。美しいものを美しいままで終わらせたいなどと希(ねが)うは、そなたの小さき業に過ぎぬ。
それによって御されし完全世界など、<法>と<混沌>相争うこの地獄相とは比べ物にならぬ真の
地獄であろう。
知れ、この醜くも美しき六道の貴(たっと)きを。そして生きよ、堕ちよ」
- 94 名前:柳生友景 ◆YAGYUbJ766 :2011/10/25(火) 02:10:57
- では、このように。
何やら全般的に、坂口安吾からの下手な剽窃が見受けられる。
まあ「堕落」した騎士へ表する敬意という事で、御寛恕あれ。
- 95 名前:<堕ちた天秤の騎士>ゲイナー ◆/GAynorYPA :2011/11/06(日) 21:41:56
- >>
「お前の様な能力の在る者ですら、現状に甘んじただただ運命を受け入れるか。」
摩耗しきり疲れ果てた声で、天秤の騎士はそうつぶやいた。
「・・・いつもそうだ。何故お前は、何故お前らは、宿業に挑む力を持ち合わせていながら、
すぐに運命を受け入れ疑問にも思わぬのだ!この、ありのままの世界を見よ!素晴らしい素質
を、才能を持ちながら、それを発揮することの出来る環境がないばかりに、無為に過ごす者の
なんと多いことか。卑しく貧しい生まれだからという理由で、食うものにも事欠き、病を患っ
ても医者にも見てもらえず幼くして命を失う者のいかに多いことか!」
慟哭するようにして、呪われた公子は語る。
「この残酷な運命(かみ)の支配する世界を見よ!そんな世界に対し僅かでも疑問や憤りを感
じるならば、この世界にたちむかえ!結末の定められた運命など否定しろ!己の手で自分の進
む道を切り開け!運命(フェイト)に挑め!」
法の神剣を押し上げながら、雄叫び(ウォークライ)のようにゲイナーは叫ぶ。
「たとえ百万回負けようと、百億の昼と千億の夜を惨めったらしく生かされ続けようと、おれ
は天秤の運命に挑み続けよう!それでも決して満たされぬというならば、百万世界もろともの
死を願おう!そしてその邪魔をする者は、一片の慈悲なく切り捨てよう!」
- 96 名前:<堕ちた天秤の騎士>ゲイナー ◆/GAynorYPA :2011/11/06(日) 21:47:43
- 遅れた上に納得のいく出来映えではないが、ひとまずは返した。
後々修正するかもしれんがな。
さて、おれは先月末から少々忙しくなっている。20日過ぎれ
ばなんとか余裕も出そうなのだが、それまでは悪いが即座のレス
は不可能だと思ってもらいたい。
昨日は北、今日は南、明日は西というようにいろいろ飛び回っているのだよ。
- 97 名前:柳生友景 ◆YAGYUbJ766 :2011/11/06(日) 23:14:22
- ご事情は承って候。お察し申し上げます。
こちらは気にせず、返せる時に返して下さいませ。
わたしも今週、来週の末はおそらく返答が難しゅうござりますゆえ、お含みおき頂き
たく。
さて、今少し掛け合いを続けましょうか?
それとも鍔競り合いの展開を変えましょうか? 例えば>>88の例などの如く。
勿論他の案あらばそれにて。
わたしはいずれでも構いません。
- 98 名前:ゲイナー:2011/11/07(月) 21:07:58
- そろそろ剣劇にもどるのも悪くなかろう。
おれはどちらでもかまわん。なんじに任せる。
- 99 名前:柳生友景 ◆YAGYUbJ766 :2011/11/07(月) 23:31:40
- >>
その絶叫の中から、ぎり、と鋼が軋む音が一度だけした。
刃を交えた影ふたつは、表面上は美しき二体の塑像のように動かない。
目視では判別できない程僅か、刀と剣の位置が上昇した時、「否(いな)」と抑えた声が応酬した。
「否否否、万遍否。そなたという飽くなき虚無の洞(うろ)を充たさんが為、三千大千世界(みちおほち)
の全てを捧げる訳にはゆかぬよ」
膨れ上がる剣圧を渾身で御しつつ、塑像の片割れが念じるように言った。
「しかし――表面の綺麗ごとで真実の代償を求めることは無理であり、血を賭け、肉を賭け、真実の
悲鳴を賭けねばならぬ。……そなたの厭悪も判らぬではない。悲しいかな、人間の実相はここにある。
しかり、実に悲しいかな、人間の実相はここにある。
さりとて運命はただの律にあらず。
徒に甘んじるのではなく、赤子のように受け入れるのでもない。迷い、疑い、呻吟した果てに感得す
べき理こそそれだ。
わたしはそうだった。そなたのかつての同胞、永遠ノ戦士≠ネる強者達もまた同じであったろう」
そなたは、と続く己が言辞の残酷さを理解した上で、永遠(えたーなる)ならざる柳生の剣士(ちゃん
ぴおん)は冷然と評した。
「そなたは他者に嫁して己の不幸を呪っているにすぎぬ。――己の進む道は己で切り開き、己一人で
己が運命へと挑む。正しい。<堕ちた天秤の騎士>よ、その言は正しい。
だがそれは躓き、泣きながら、各々が各々の手で掴み取るべき光。そなたから、完全な世界などと
いう結果として与えられるものなどでは断じてない。
なれば、この度は南風競わず、何がしかの因子揃わざれば現界かなわぬ永遠ノ戦士≠轤ノ成り
代わりて、我と我が運命を果たそう。それが」
そして柳生の陰陽師(ちゃんぴおん)は、とんでもない事実をさらりと述べた。
「それこそが、大魔王より――ルシファー猊下より授かりし秘命。先程そなたが喝破した通り、な」
- 100 名前:柳生友景 ◆YAGYUbJ766 :2011/11/07(月) 23:32:32
- ふむ。振っておいて申し訳ないが、では今回は掛け合いの方で。
次れすで剣戟に戻りましょうか。
考えてみると、猊下の話をまだしておりませなんだゆえ。
- 101 名前:<呪われし公子>ゲイナー ◆/GAynorYPA :2011/12/04(日) 23:04:58
- しばらく放置してしまっていたが、明日からはまたこの闘争の続きを始めるつもりだ。
もう少々待ってくれ。
- 102 名前:<堕ちた天秤の騎士>ゲイナー ◆/GAynorYPA :2011/12/06(火) 20:56:15
- >>
「なるほど。貴様はこの世界を憂うもの(ルシファー)より使わされた存在か。」
そうつぶやくと<堕ちた天秤の騎士>は、しばしの間、つばぜり合いのまま考え込むか
の様に黙す。そして改めて、強い意志を感じさせる双眸で柳生の妖剣士をにらむ。
「よかろう、言葉もって語る時間はもう終わりだ。己の行いを悔い、大いなるものとの和
解を求める軟弱な堕天使よ、お前のやり方で世界の痛みを癒せるものなら癒してみせるが
いい。御使いの妖剣士よ、永遠の戦士ならざるものよ。天秤の騎士でも永遠の戦士でもな
いその有限寿命者の身で、このおれをこの世界より放逐できるというならばするがいい。
それが出来ぬのならば、おれの執念を、百万年もの妄執を、内なる虚無を、孤独を、怨
嗟を、果つること無き呪いとともに、その身に刻み死ぬがいい!」
そう吠えると同時に、言葉と平行して練り上げていた魔術の構成を展開。『強化(ブー
スト)』。魔力によって動作と耐久力を強化するという基本的な魔術だ。『反応速度増強
(ヘイスト)』や「身体能力強化(フィジカルエンチャント)」に比べれば遥かに単純で
性能も低いが、それはあくまで並のと使い手の場合だ。<呪われし公子>の圧倒的な魔力
容量があれば、その威力は絶大なものとなる。
さらに。
「宵の明星(ライトブリンガー)!」
己の振るいし剣の銘を呼ぶ。すると瞬く間に、剣が纏う輝きがいっそうまばゆくなり、
激しさすら感じさせるものとなる。
「地獄に堕ちて、大魔王(ルシファー)に使命を果たせなかったと詫びるがいい!!」
その言葉とともに握りつぶさんばかりの力で柄を握りしめ、魔力によって強化された力
と、銘を呼ばれ解放された聖剣の力もって、対手の刀ごと断ち切らんと、己の剣を押し上げた。
- 103 名前:<堕ちた天秤の騎士>ゲイナー ◆/GAynorYPA :2011/12/06(火) 20:58:48
一ヶ月ぶりとなったが返したぞ。聖剣の真銘解放と魔力によって強化した逆流れ改(仮名
による一撃だ。
それと、
>>91
「なるほど。貴様はこの世界を憂うもの(ルシファー)より使わされた存在か。」
これを
「なるほど。貴様は<宇宙の天秤>の均衡を保つためにより使わされた存在か。」
へと変更する。そちらの>>99のレスで初めてルシファーの名が明らかになった方が効果的だ
ろうからな。
- 104 名前:<堕ちた天秤の騎士>ゲイナー ◆/GAynorYPA :2011/12/06(火) 22:24:09
- >>103 修正
「なるほど。貴様はこの世界を憂うもの(ルシファー)より使わされた存在か。」
そうつぶやくと<堕ちた天秤の騎士>は、しばしの間、つばぜり合いのまま考え込むか
の様に黙す。そして改めて、強い意志を感じさせる双眸で柳生の妖剣士をにらむ。
「よかろう、言葉もって語る時間はもう終わりだ。己の行いを悔い、大いなるものとの和
解を求める軟弱な堕天使よ、お前のやり方で世界の痛みを癒せるものなら癒してみせるが
いい。御使いの妖剣士よ、永遠の戦士ならざるものよ。天秤の騎士でも永遠の戦士でもな
いその有限寿命者の身で、このおれをこの世界より放逐できるというならばするがいい。
それが出来ぬのならば、おれの執念を、百万年もの妄執を、内なる虚無を、孤独を、怨
嗟を、果つること無き呪いとともに、その身に刻み死ぬがいい!」
そう吠えると同時に、言葉と平行して練り上げていた魔術の構成を展開。『強化(ブー
スト)』。魔力によって動作と耐久力を強化するという基本的な魔術だ。『反応速度増強
(ヘイスト)』や「身体能力強化(フィジカルエンチャント)」に比べれば遥かに単純で
性能も低いが、それはあくまで並のと使い手の場合だ。<呪われし公子>の圧倒的な魔力
容量があれば、その威力は絶大なものとなる。
さらに。
「宵の明星(ライトブリンガー)!」
己の振るいし剣の銘を呼ぶ。すると瞬く間に、剣が纏う輝きがいっそうまばゆくなり、
激しさすら感じさせるものとなる。
「大魔王(ルシファー)の使いよ!己が主の力にて死ぬがいい!!そして、地獄に堕ちて、
使命を果たせなかったと詫びるがいい!!」
その言葉とともに握りつぶさんばかりの力で柄を握りしめ、魔力によって強化された力
と、銘を呼ばれ解放された聖剣の力もって、対手の刀ごと断ち切らんと、己の剣を押し上げた。
- 105 名前:柳生友景 ◆YAGYUbJ766 :2011/12/07(水) 01:23:56
- >>
ありとあらゆる昏き意思が籠められているとは信じ難い眩い光が、対手の剣から湧く。
一刀ばかりか友景の五体が揺さぶられた。
途轍もない圧であった。これまでで最大級の膂力だ。
――これが太古、光輝ある<上方世界>即ち天界をも呑み込まんとした明星の威か。
畏敬に近い想いを抱きながら、最早鍔競り合いを支えるのは無理だと友景は判断する。
――やるか。
秒那だけ逡巡し、同じく秒那で友景は決した。
軽く息を吸う。
脚、腰、胸、腕――爪先に端を発する円運動のエネルギーは、螺旋状に高まりながら友景の全身
を循環。瞬発力と律動により運動ベクトルは集中・加速され、かつ回転から直線へと変換される。そ
れは対手が押し上げて来る真芯を膺懲するカウンターとなり――
「柳生新陰流、裏奥義――」爛、と美々しき双眸が見開かれる。「逆風ノ太刀=v
その武名は、凄まじい斬撃が起こす剣風に乗せて、己に噴きつける返り血を逆に対手へと噴き返
させた故事による。
完全武装した敵をその護りごと撫で斬りにする剛剣だ。甲(かぶと)を割り、鎧を通す破壊力は、近
代的な精妙を突き詰めた柳生新陰流にあっては寧ろ異端の剣である。
そして剣を交えた零距離で揮われるそれは、鍔迫りの拮抗を押し崩す爆発力となる。
筈であった。しかし――。
- 106 名前:柳生友景 ◆YAGYUbJ766 :2011/12/07(水) 01:25:39
- >>
鋭角的な残響が舞った。
天に牙を剥き、天を斬る光明の剣(イルミナティ)から逃れ、柳生友景は後方五メートルをひと息に
跳んだ。
友景の頭は何も被っていなかった。元いた場所で鴉の羽のように舞い落ちる黒い布切れは、垂纓
ごと二つに切り裂かれた冠だ。
音も立てず地に降り立った美剣士を追うように、その足元に突き刺さったものがある。
刀の切っ先だ。
友景の右手にある愛刀は、刀身の中ほどで斬り落とされていた。
無明の闇よりさかしまにいずる魔王の剣に、敗れたり柳生新陰流逆風ノ太刀=I
折れた刀をそれでも青眼につけ、友景の面は蒼白に変じている。
一髪の差で両断されるのだけは逃れたものの、神魔一如と化したゲイナーの剣技は、さしもの柳生
流秘伝に打ち勝ったのである。
「何とかならず、か」
そっと呟く白皙の額から左眼、左頬にかけて、朱の糸が垂れ下がる。
とろとろと流れる血の筋は、次第にその太さと数とを増していった。
- 107 名前:柳生友景 ◆YAGYUbJ766 :2011/12/07(水) 01:27:56
- それでは、刀を折られて脳天に傷を。好きに攻めかかられて構いませぬ。
こちらはそろそろヒノカグツチを喚ぶ準備に入ろうかと思います。次れすで俗に言う「かぷせる怪獣」
的に式神でも出し、時間稼ぎをしようかと。
>>91の修正については、承り候。
こちらを慮って頂き、かたじけなく。
- 108 名前:<堕ちた天秤の騎士>ゲイナー ◆/GAynorYPA :2011/12/07(水) 23:03:47
- 悪いが今日明日は返せそうにない。明後日の夜までにはなんとか返そう。
行動だけ先に宣言しておく。先だってせっかくキタローの血を飲んだのでペルソナの召喚を行う。
ペルソナは審判のサタン。使用する能力は漆黒の蛇だ。
適当にさばいて「ぽけもん」の召喚をおこなうがいい。
そろそろ新たな血を飲んで世界の能力も使おうと思っている。「ぽけもん」はそれでしとめると
するか。
- 109 名前:柳生友景 ◆YAGYUbJ766 :2011/12/07(水) 23:33:26
- 承知仕りました。急がれず、お進め下さい。
ほほう、さたんですか。流石に濃い悪魔を選ばれる……。
ああ、こちらの「ぽけもん」はすぐ撃破して頂いて結構ゆえ。
- 110 名前:<堕ちた天秤の騎士>ゲイナー ◆/GAynorYPA :2011/12/09(金) 20:51:51
>>
浅い。必殺を確信し振るった剣は、だがしかし、敵の息の根を止めるには至らなかった。
受け手たる柳生の妖剣士は、神魔人一体となった一撃を、人の業のみでいなしたのだ。げに
恐るべきは柳生新陰流、いや、柳生友景か。
だがしかし、致命傷には遠いとはいえ、手傷をあたえ太刀は折った。いまここで、畳み掛
ければ勝利は堅い。だが、被我の距離は、剣の間合いにはやや遠い。そして、刀を失ったと
はいえ容易に踏み込んでいい相手ではない。ならば。
呪われし公子は、左手を剣の柄からはなし、人差し指と親指をのばして、その他の指を握
り込んだ。そのようにして、手で拳銃の形を作り出した。だが、その銃口を向ける先は手負
いの柳生ではない。そう、その銃口(指先)が撃ちぬくのは敵ではない。では何か?その答
えはすぐに示された。
呪われし公子は、その指先を己のこめかみへと向けた。そして、ぞっとする様な笑顔を作
りながら、脳内で銃の引き金を引く動作をイメージする。
「サタナエル!」
その呼びかけとともに、ガラスの割れる様な音が響き渡り、そして、それが姿をあらわした。
それは巨大な龍とも年経た蛇とも見える怪物であった。上半身はかろうじて人間めいた姿
をしていた。ただし、3対の乳房と3対の腕、そして昆虫めいたものや蝙蝠めいたものなど
計3対の翼がはえていることを除けばだが。下半身はムカデめいた蛇体であり、長く緩やか
にのたうっている。肌の色は嫌悪感をもよおすほどに青黒く、その顔は髑髏の様でもあり悪
鬼の様でもあった。
あまりにも忌まわしく禍々しい姿の怪物。それは、それこそが。ああ!その名を口にする
事なかれ!ああ!その名に災いあれ!そは悪魔。そは神の敵対者。悪魔の代名詞たる魔王で
あり、また同時に裁きの大天使でもある存在。ルシファーと同一視されることも多い、悪魔
の中の悪魔。
サタン。
- 111 名前:<堕ちた天秤の騎士>ゲイナー ◆/GAynorYPA :2011/12/09(金) 20:52:22
- >>
本来ならば高位の術者が長い年月をかけて儀式を行っても、やすやすと呼びだせる様な存
在ではない。だが<呪われし公子>はそれをやすやすとやってみせた。僅かな動作と呼びか
けだけで、忌まわしき存在を呼び出してみせた。それを可能にしたのもまた、先ほど飲んだ
血の力だった。
人の魂は、22の類型に大別することが出来るという。それはすなわち、愚者、魔術師、
女教皇、女帝、皇帝、法王、恋人、戦車、正義、隠者、運命の輪、力、吊された男、死神、
節制、悪魔、塔、星、月、太陽、審判(永劫)、そして、世界(宇宙)。タロットの大アル
カナが示すかたち。そして、そのカードごとに、それぞれ違う可能性を秘めているという。
<呪われし公子>が先ほど飲んだ血の持ち主は、一種の特異能力者であった。心の奥底に
ある可能性の扉を開き、神話や伝承に登場する偉人や天使、神々の姿かたちをとって、その
力を行使することが出来るのだ。それは己の魂を鋳型にして、そこに大いなる存在の力の一
部を降ろす降神の儀であるともいう。そして、その力をもちい、このたび呼び出したのが、
審判のアルカナに属するサタンであった。
「漆黒の蛇!」
呪われし公子は、現れた御姿を後ろ盾にし、聖剣を掲げ、力ある言葉を叫ぶ。
突如、闇が訪れた。いや、漆黒の光がその場に降り注いだ。黒い光球が虚空よりいくつも
現れ、掲げられた聖剣へと引き寄せられていく。そして、数瞬の後、ひときわまばゆく輝き、
黒い光が世界を満たした。
昏(くらい)光はすぐに掻き消えた。光の消えた後、そこに魔王の姿はない。術式の成立
とともにサタンの姿は消え去り、あとには魔術の結果(成果)のみが残る。
<呪われし公子>の掲げし聖剣を見よ。そこには稲光の様な、細長い闇色の光りが、さな
がら漆黒の蛇のように輝ける刀身にからみついていた。
「裁きの天使の神威をその目に焼き付けるがいい!」
言葉とともに、掲げていた剣を両手で大上段へと構え直し、一直線に振り下ろした。輝け
る剣から漆黒の蛇は解き放たれ、のたうちながら宙を飛び、柳生の剣士へと襲いかかった。
- 112 名前:<堕ちた天秤の騎士>ゲイナー ◆/GAynorYPA :2011/12/09(金) 20:54:21
- 予定通り「漆黒の蛇」を放った。多少アレンジしているがな。好きにさばいてくれて構わん。
- 113 名前:柳生友景 ◆YAGYUbJ766 :2011/12/10(土) 01:05:55
- 承知致しました。
所用これあるにつき、今宵は返答できませぬ仕儀をお許しあれ。
日付変わりましたる今夜にて返答致しますれば、御寛恕ありたし。
- 114 名前:柳生友景 ◆YAGYUbJ766 :2011/12/10(土) 21:35:50
- >>>>
それには六つ指が生えた六本の腕があり、六枚の翼と六つの乳房があった。
それは蛇で、龍で、男で、女で、罪で、罰で――その何れでもあり、そしてその何れでもなかった。
――ゆらぎのように現れて消えた悪魔王の威容は、当代一流の術客すら顔色をなからしめる程であ
った。蛇体を取って襲来するその超絶な魔力も。
頭部の傷の痛みも忘れ、友景は呻く。
「これほどの神霊力を喚ぶとは……!」
回避は間に合わなかった。真黒き長虫は友景が常時張り巡らせている魔術的防御を歯牙にもかけ
ず、その美身を打擲した。
釁(ちぬ)られた叫びが上がった。
破壊的な魔力の奔流は、友景の体を物理的・霊的に灼いたのである。
口元で鮮血があふれる。
猶も黒き魔力に蹂躙されながら、友景は折れた刀を逆手に持ち替える。歯を食いしばり、柄を前へ
突き出した。柄に編み込まれた小亀の紋様が、燐光めいた瑠璃色の輝きを帯びる。
「されど、こちらの手札はまだある。――出でよ、牙瑪嵐帝(ガメランテ)」
不意に、小亀の紋様から強烈な閃光が生じた。
眼を奪う程の光量は即座に霧消し、友景はよろめきながら後退った。その身には黒き蛇の力は届
いていない。
友景の目の前に巨大な影が出現していた。
恐るべき闇黒の魔力(ダークマター)は、鉄塞の如くそびえ立つその影に阻まれているのだ。
全体的なシルエットは――海亀だ。黒に近い濃緑色の。
だが、世にこんな亀が在り得るか。巨体の全長は数メートル、四肢はヒレではなく陸棲種のような
形状である。そのずんぐりとした後ろ肢で立ち、爪も鋭い前肢で襲い来る大魔力を防ぎ止めている。
背の甲羅を形成するのは刺々しい鱗のような甲板だ。
右眼は潰れている。左の隻眼は、下顎から上向きに生えた二本の牙は、等しく凶暴な光を湛えて
いた。
友景は折れた刀を鞘に納め、右手で刀印を結ぶ。印の切っ先を<呪われし公子>へと向け、
「ゆけ、牙瑪嵐帝!」
巨大亀――友景が使役する式神・牙瑪嵐帝は怪鳥のような喚き声を上げた。
魔力に灼かれ、主人に代わって魁偉な巨体を爛れさせながら、玄武は口を大きく開いた。頭が軽く
仰け反り、前方へ突き出される。
口腔内から横殴りの火柱が噴き上がった。
牙瑪嵐帝は焔を吐いたのだ。呪的電荷(プラズマ)が火球の形を取った超高熱は、闇黒の渦を断ち
割ってゲイナーへと襲い掛かる。
その牙瑪嵐帝の背後で、友景はふうわりと優雅に動いた。
胸元まで大きく上げた足を踏み下ろす。極端に踵を摺る。くるくると旋転し、両袖を翼の如くはためか
せる。
剣の足捌きとは全く別個の、奇怪とも瓢げた(シリー)ともつかぬ歩み(ウォーク)であった。
- 115 名前:柳生友景 ◆YAGYUbJ766 :2011/12/10(土) 21:37:08
- 遅くなりました。
漆黒の蛇を受けつつ、ガメラ型の式神に援護防御させ、何とやら火球ですか、それを吐いています。
この牙瑪嵐帝は「竹島御免状」にて私の曾孫が使う式神にて。
火球は軽くさばいて、牙瑪嵐帝もさっくり倒して頂きたい。料理の仕方もお好みで、必要なら
死亡描写もそちらでやってしまって構いませんよ。
反閇している私の方は、次れすでヒノカグツチを呼び出しましょう。地面を割る感じで。
- 116 名前:<堕ちた天秤の騎士>ゲイナー ◆/GAynorYPA :2011/12/11(日) 00:29:50
- 確認した。今宵は1時半頃まで推敲するが、それまでに返せなかったら明日の夜に返す。
ふたたび、行動だけ先に宣言しておく。
新たにDIOの血を飲み<世界>を発現
↓
「ザ・ワールド!」
↓
火球をかわしつつ魔力のこもった無数のナイフ(or魔剣)を亀めがけて投擲
↓
「そして時は動き出す」
といったところか。その後、「無駄無駄(以下略」と亀に無数の連打を叩き込んでもいい。
それとそちらがヒノカグツチを召喚する前にこちらはペルソナ4の伊邪那美大神(イザナミ)
の魔術である。「幾千の呪言」を使用したい。その効果は「地から湧き出した黒い腕が対象一
体を底なし沼の様な闇へと引きずり込む」といったものだが、襲いかかられた瞬間にでも地を
割って召喚したヒノカグツチで撃退してくれて構わない。所詮はイベント技だからな。
いや、むしろヒノカグツチを召還後に「幾千の呪言」を使用して闇に引きずり込む、
産声を上げ生まれ出るようにヒノカグツチで闇(イザナミ)を引き裂き中から現れる。
といった方がモチーフ的には原型に近いか?
- 117 名前:柳生友景 ◆YAGYUbJ766 :2011/12/11(日) 00:55:28
- 承知しました。お急ぎあるな、ごゆるりとなされませ。――ああ、成る程、これは、
「スットロいぞッ! 貴様は亀を握りつぶすようにグチャグチャにしてくれようッ!」
という状況になるのですね。ははは、自分で亀を出しておきながら、気がつかなんだ。
「襲いかかられた瞬間にでも地を割って召喚」、
「ヒノカグツチで闇(イザナミ)を引き裂き中から現れる」
の二通りの状況が考えられる訳ですか。ふむ、どちらも美味しいしちゅえーしょんではある。
後者の方が、仰る様にまさに神話的な情景ではあります。
私としてはどちらでも構いませぬよ。
- 118 名前:<堕ちた天秤の騎士>ゲイナー ◆/GAynorYPA :2011/12/12(月) 22:50:31
- 現在立て込んでいてあと2〜3日かかりそうだ。すまんな。
なるべく速く返すが、気長に待ってもらいたい。
- 119 名前:柳生友景 ◆YAGYUbJ766 :2011/12/12(月) 23:49:22
- 時はまさに師走。
仰せの如く気長に待ち候わば、ご案じなさいますな。
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